H-IIAロケット47号機現地取材(再) - ISAS國中所長が「日本の宇宙科学をV字回復させる」と意気込み

三菱重工業(MHI)と宇宙航空研究開発機構(JAXA)は9月7日、同日打ち上げたH-IIAロケット47号機について記者会見を開催し、結果を報告した。同ロケットに搭載した2機のペイロード、X線分光撮像衛星「XRISM」と小型月着陸実証機「SLIM」は、それぞれ所定の軌道への投入を確認。打ち上げは成功し、ロケットは役割を果たした。

会見場には、XRISMの1/20模型(左)と、SLIMの1/8模型(右)が置かれていた

H-IIAロケットの打ち上げは、2023年1月26日以来、7カ月半ぶり。失敗は2003年11月29日の6号機のみで、これで41機連続での成功となった。同機は天候不良による3回の延期はあったものの、これまでのH-IIAと同様に、安定した打ち上げを見せた。

打ち上げシーケンスの結果。ほぼ計画通りのタイミングで行われた (C)MHI

日本の基幹ロケットは、イプシロン6号機が2022年10月12日に、H3ロケット初号機が2023年3月7日に、相次いで打ち上げを失敗。H3の失敗によって、共通技術を用いているH-IIAの打ち上げまで止まる異常事態となり、まさに“背水の陣”での対応となったが、無事に再開フライトを果たし、なんとか踏みとどまった形だ。

打ち上げを担当したMHIの江口雅之氏(執行役員防衛・宇宙セグメント長)は、「関係者は非常にプレッシャーを感じていた」とコメント。「無事成功できて、ほっとしている。H3のリカバリーを前向きに進めていく決意で、その背中を後押ししてくれるようなイベントだった」と、今回の打ち上げを振り返った。

MHIの江口雅之氏(執行役員防衛・宇宙セグメント長)

会見に出席したJAXA理事長の山川宏氏は、「安堵している」と率直な心境を吐露。相次いだ基幹ロケットの失敗については、イプシロンはすでに原因を特定、H3は特定には至っていないものの、一区切りついた状況だ。「日本のロケット技術の信頼回復に向け、気を引き締め、確実な対応をはかっていきたい」とした。

JAXA理事長の山川宏氏

H-IIAはこの20年近く失敗しておらず、非常に信頼性の高いロケットとして完成しているが、第2段はH3と共通の部分が多かったため、H3の失敗を受け、一部の部品について、検査強化や絶縁強化などの対策が施された。今回の打ち上げは、その実証という位置付けもあり、H3にとっても、大きな意味があった。

H-IIA打上執行責任者であるMHIの徳永建氏は、「まだ細かいデータは持っていない」と前置きした上で、「着火状況、燃焼圧力、推力などの異常は一切認められていない。対策による影響は無かったものと考えている」と、評価を述べた。

MHIの徳永建氏(防衛・宇宙セグメント宇宙事業部技師長)

搭載したXRISM/SLIMの状況であるが、ともに正常。すでに太陽捕捉制御まで完了しており、異常は無いという。衛星は打ち上げ後、姿勢を制御して、まず電力を確保する必要がある。太陽捕捉制御はそのために行うもので、これに成功したのであれば、最初の山場を乗り越えたといえる。

SLIMは月へは直行せず、しばらく地球を周回してから、月へ向かう計画。今回、打ち上げは2週間近く遅れたものの、その遅れは地球出発までに吸収できる見込みで、月面着陸の時期については、当初の予定通り2024年1月～2月頃で変わりはないという。

SLIMでは、日本初の月面着陸のほか、搭載する2台のローバーによる日本初の月面走行も期待したい

2016年には、2月のH-IIAロケット30号機でX線天文衛星「ひとみ」(ASTRO-H)、12月のイプシロン2号機でジオスペース探査衛星「あらせ」(ERG)が打ち上げられた。その後、水星磁気圏探査機「みお」(MMO)の欧州ロケットでの打ち上げなどはあったものの、日本でのJAXA宇宙科学研究所(ISAS)の衛星打ち上げはこれ以来、約7年ぶりだった。

これについて、JAXA理事/ISAS所長の國中均氏は、「ひとみの事故を受けて大いに反省し、再発防止を徹底。新たに見直された開発手順と組織体制により、XRISMを開発してきた」と言及。「この7年の停滞のために、宇宙科学事業が少しシュリンクしたのは否めないが、ここから日本の宇宙科学をV字回復させたい」と意気込んだ。