クラウド会計ソフト大手のfreeeは8月24日、Web制作やコンサルティングといった業務を請け負う「受託型・請負型ビジネス」を展開する事業者向けに、オペレーションをすべてfreee上で完結できるサービス「freee統合型ERP」を提供開始すると発表した。

会計と人事労務、販売管理それぞれのソフトウェアを連携することで、一つのプラットフォーム上で案件管理や売上管理、請求管理ができるようにした。ソフトウェアごとにマスタデータを転記する必要もなくなり、売上や仕入れ、粗利の実績や見込みを案件ごとに自動で見える化できるようになった。

「黒字経営だとしても油断できないのがスモールビジネスの実情。倒産しないためには、全体の経営資源を正確に、かつ、素早く把握する必要がある。大企業だけのものだったERPの価値をスモールビジネスにも体感してほしい」と、CPO(Chief Product Officer)の東後澄人氏は説明した。

  • freee CPO(Chief Product Officer) 東後澄人氏

    freee CPO(Chief Product Officer) 東後澄人氏

そもそもERPとは、Enterprise(企業) Resource(資源) Planning(計画)の略で、経営に必要なヒト・モノ(コト)・カネを一カ所に集めて管理し、有効活用するためのシステム。税理士法人であるWewill 代表の杉浦直樹氏によると「ERPは大手企業が数十億円かけて導入するもので、最低でも数億円必要だった」という。

ERPをなかなか導入できずに正確な経営状況が見えないことは、中小企業と大企業の生産性格差につながっているという。中小企業庁によると、スモールビジネスの生産性が540万円であるのに対して、大企業は1099万円と約2倍の差が開いている。

そこでfreeeは、これまでのプロダクトを連携して比較的安価に提供できるERPを完成させた。同社は主に、経理や労務などのバックオフィス業務向けのサービスを展開してきたが、2022年11月にfreee販売を提供開始したことにより、営業といったフロントオフィス業務にも対応した。そして今回、工数管理と原価計算の連携機能も新たに搭載した。

  • 「freee統合型ERP」イメージ図

    「freee統合型ERP」のイメージ

「ヒト(=freee人事労務)・モノ(=freee販売)・カネ(=freee会計)が出そろった。ユーザーのニーズに合わせて個々のプロダクトを柔軟に提供していくが、最終的には統合型の価値を提案していきたい」(東後氏)

案件ごとの原価と工数が連携したことで、人件費を含めた粗利計算ができるようになり、赤字なのか黒字なのかを正確に判断可能になった。「案件ごとの粗利計算は非常に難しい業務。常に最新の工数実績を把握していないと、想定の見積金額を超過してしまい請求後に赤字だったことに気づくこともある」(東後氏)

  • 【freee販売画面イメージ】人件費とその他経費を含めた粗利見込・実績が常に可視化される

    【freee販売画面イメージ】人件費とその他経費を含めた粗利見込・実績が常に可視化される

加えて、そこに収支管理を連携することで、経理だけでなく営業といったフロント側でも売上や入金情報を即座に把握できる。入出金の状況も常に連携・反映されているため、コミュニケーションコストの削減につながる。

  • 【freee販売画面イメージ】入金状況をfreee会計に登録するとfreee販売にもステータスが反映される

    【freee販売画面イメージ】入金状況をfreee会計に登録するとfreee販売にもステータスが反映される

freee統合型ERPを先行導入していた人材開発コンサルティングサービスを手掛けるインヴィニオは、「紙ベースで行っていた作業がシステム化され、経理事務の負担が軽減された。また、案件別収支の精度が上がることにより、迅速に損益予測を立てることができる」と、うれしい声をあげている。

freeeは今回、無形商材のフロントオフィス業務にも対応することで統合型ERPを実現したが、今後は在庫を保有する小売店といった有形商材領域にも展開していく考えだという。すでに、同社が4月に台東区蔵前にオープンした実店舗「透明書店」にて、書籍の在庫管理機能を試験的に利用している。

東後氏は「有形商材向けのフロントオフィス業務にも対応し、統合型ERPを進化させていく。一つのソフトウェア上ですべての業務が完結するような世界にしていきたい」と展望を示していた。