GaNデバイスの専業ファブレスである米Efficient Power Conversion(EPC)が、自社の基本的な特許ポートフォリオのうち4件の特許に関して、中国のInnoscience(Zhuhai) Technologyおよびその関連会社に対する告訴状を米国連邦裁判所ならびに米国際貿易委員会(ITC)に提出したことが明らかになった。

これらの特許は、EPC独自のエンハンスメント・モードGaNパワー半導体デバイスの設計および製造プロセスの中核をカバーしており、GaNパワーデバイスを、研究レベルのものから、シリコンベースのトランジスタに代わる大量生産製品可能な、高効率かつ小型・低コストな集積回路へと発展することを可能にするものだとEPCでは主張している。

訴状では、中国広東省に本社を置くInnoscienceが、最高技術責任者(CTO)およびセールス・マーケティングの責任者としてEPCの従業員2人を採用した経緯が詳しく説明されており、この2名が移籍して間もなく、InnoscienceがEPCの製品と似通った製品を販売しはじめたと主張している。また最近ではInnoscienceが、自社製品群をEPCの顧客に売り込みに訪れ、その製品の多くがEPCの製品を含む「既存製品とピン・ツー・ピンで互換性がある」と主張していたともしている。

EPCでは、Innoscienceに対して、特許侵害による損害賠償ならびに、特許侵害を行っている一連のGaN製品の米国への輸入禁止を求めている模様である。

存在感が増す中国のGaNメーカー

EPCが中国メーカーを提訴に踏み切った動機について業界関係者の間では、米国の新興ファブレスの脅威になるほど中国勢が急成長してきたためではないかという見方がでている。一般論として、中国外の企業が中国企業に特許を侵害されたことを確認しても、即座には動かず、最大市場である中国でのビジネスに支障をきたさないように、ひそかに証拠を集めつつ状況判断を行ってきたとされるが、そうしているうちに例えば今回のInnoscienceは中国を代表するGaNデバイスメーカーにまで成長し、海外のライバルを脅かすまでに規模を拡大してきた。米中デカップリングによる地政学的リスクが高まる中、中国内の顧客は中国内のサプライヤからの購入を増やす傾向にあり、多くの海外サプライヤが中国でのビジネスチャンスを失いかねない状況にある。

EPCの特許侵害訴訟によって短期的にInnoscienceの海外展開の速度が鈍化したとしても、中国内の市場規模は十分に大きく、海外勢を差し置いて売り上げを伸ばすことが予想されるため、賠償金に対する支払い能力も確保され、業績に対する影響も軽微なものになると中国業界関係者からの見方もでているほどに、Innoscienceの存在感が増しており、逆にEPCは米国での特許権侵害を主張しないと、中国市場での足場を失いかねない状況に陥っている模様である。