米商務省は、2月27日に半導体の国内製造を促進するCHIPS法に基づく補助金を申請を開始するとともに、申請するための細部に渡る条件を発表した。これに対して、韓国の尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は3月30日、米通商代表部(USTR)のキャサリン・タイ代表と会談し、CHIPS法に基づく補助金を申請する企業に対し過度なレベルの情報提供が求められることに対して韓国企業が懸念を示しているとし、同政策によって米国進出した韓国企業に対する配慮を要請したと、大統領室の李度運(イ・ドウン)報道官が記者会見で伝えた。
一方のTSMCも、補助金の受給前提で米アリゾナ州に300mmファブ(Fab21)の建設を進めているが、同社の劉徳音 董事長(マーク・リュウ会長)も、補助金受給のためのいくつかの条件は受け入れることが難しいものであり、米国政府と協議すると、台湾半導体産業協会(TSIA)の会員大会で発言したと台湾メディアが報じている。
CHIPS法の補助金を申請する企業は、中国での生産に対し、その能力拡大に制限を受けるほか、売上高や利益、月産能力、製造歩留り、製品の単価、価格変動予測など、顧客や最終製品の顧客上位10社リストなど営業秘密に抵触する情報を米国政府機関に提供する必要がある。劉氏は、どの条件が受け入れられないかについては言及しなかったとものの、TSMCは顧客との取引情報を一切社外に公表しておらず、たとえ米国政府が要求しても情報提出を拒むとみられている。
台湾の半導体業界アナリストによると、米当局が補助金申請企業から営業秘密情報を受け取り、その情報を保護することの重要性を表明したとしても、申請者には関連情報の提供を拒否する権利が依然としてあり、企業が米国の公共部門からの情報提供要求に異議を唱えることは不可能ではないという。例えばAppleは、公益の侵害を避けるために、米国連邦裁判所および当局からのデータの提供と電話のロック解除の要求を繰り返し拒否してきた。
TSIA新理事長にTSMCの侯永清氏が就任
劉氏が理事長を務めていたTSIAはこのたび役員改選を実施し、劉氏の理事長退任と、TSMCの侯永清 資深副総経理の新理事長就任を決定したことを発表している。同氏は、欧州・アジア地区のビジネス担当や研究開発を担当してきた人物で、TSMCの熊本進出にも関与してきた人物としても知られ、業界関係者の間からは、TSMCの次期トップ候補との見方もある。
侯氏は、1997年にTSMCに入社。2011年8月から2018年7月までデザインおよびテクノロジープラットフォーム担当副社長を務めた後、2018年8月には技術開発担当副社長に就任。現在は、欧州・アジア地区ビジネス担当として、日本の第2工場やドイツへの工場進出を検討する責任者でもある。
なお、侯氏はTSIA理事長就任にあたり、台湾の半導体産業振興に向けた以下の4つの重点施策を発表している。
- 台湾半導体企業と教育機関は科学技術の才能ある人材育成を共同で推進する
- 台湾半導体業界の営業秘密と知的財産の保護を強化する
- 環境にやさしい半導体製造と開発を継続し、グリーンサプライチェーンを構築する
- 半導体企業会員間の交流を強化し、半導体産業のグレードアップのペースを加速する