ソフトバンク主催の技術展「ギジュツノチカラ」が3月22日、23日の二日間、東京ポートシティ竹芝 ポートホールで開催されている。同技術展では、Beyond 5Gに向けた「次世代ネットワーク」や、空飛ぶ基地局「HAPS(ハップス)」、2023年春にレベル4が解禁される「自動運転技術」など、同社が持つさまざまな先端技術が紹介されていた。
次世代ネットワーク
次世代ネットワークの展示ブースでは、Beyond 5G/6Gに向けたさまざまな取り組みが紹介されていた。
テラヘルツ波の活用
同社は100GHz(ギガヘルツ)を超える周波数「テラヘルツ波」を利用するための研究を進めており、100Gbpsを超える通信速度の実現を目指している。超高速無線通信の実現に向け、2017年からテラヘルツ波のアンテナの開発、伝搬特性のモデル化といった研究を進めている。
テラヘルツ波による通信は、超高速・大容量を実現できる一方で、周波数が高すぎて、直進性が強い上に伝搬損失が激しく、移動通信には不向きだとされている。
そうした条件を踏まえ、同技術展では、ソフトバンク独自の回転反射鏡アンテナと超小型受信アンテナが実現する、テラヘルツ追従デモが実施されていた。自由に動かすことができる端末に合わせてアンテナを追従(ビームフォーミング)させることにより、テラヘルツ通信を維持できる様子を紹介。回転反射鏡アンテナを活用することで、電波の方向を360度全体を自由に制御することを可能にしていた。
光無線の活用
ソフトバンクでは、テラヘルツ波のさらに上の周波数を持つ光無線の研究開発も進めている。
光無線は、電波通信よりさらに大容量・低遅延な通信として期待されているという。電波とは異なり、無線局免許が不要で秘匿性が高いという特徴がある。一方、ビームの幅が非常に細く指向性が高いため、送受信装置間でビームを繊細に合わせる必要がある。装置間距離が10キロメートルの場合、ビーム角が0.01度ずれるだけで受信範囲は約10分の1に短縮されてしまう。
また、光は大気中の水蒸気に散乱(屈折)・吸収されやすく、実用化に向けた課題は、通信品質の不安定さと想定されている。光は直進するため、自分や相手の位置や向きが少しでも動いてしまうと通信が途切れてしまい、動くモノ同士での通信への適用が難しい。
そこでソフトバンクでは、光無線の性能と気象観測に関するデータの取得・解析を長期的に行い課題を抽出してきた。その課題を解決して高稼働率の光無線の実現を目指し、ビームトラッキング技術や、メッシュ構成での最適ルーティング制御などの研究開発を進めてきた。
光無線の用途としては、光ファイバーの提供が困難な地域での代替手段や、産業ドローンなどの上空の移動体のバックホール回線通信への適用が考えられるという。
HAPS(ハップス)の現在地
ソフトバンクのHAPS(High Altitude Platform Station:ハップス)の展示も注目を集めていた。HAPSとは、成層圏に飛行させた航空機などの無人機体を通信基地局のように運用し、広域エリアに通信サービスを提供するシステムの総称。
HAPSの飛行高度は約20キロメートルと、衛星に比べて地上に近いため、低遅延・大容量の通信の提供が可能だという。地上と同じ周波数を使用しているため、普段使用しているスマートフォンなどの携帯電話をそのまま使うことができる。また、地上基地局からでは届かない上空の通信エリア化も可能なため、ドローン運航への活用も期待されている。
ソフトバンクは、2017年にHAPS事業を展開する目的で「HAPSモバイル株式会社」を設立。同社が開発した無人航空機型HAPS「Sunglider」には、「他のHAPSには搭載できないような重量級のペイロードを搭載できる」(ソフトバンク担当者)という。2020年9月に米国ニューメキシコ州でSungliderによる成層圏飛行を行い、LTE通信試験に成功。この時の総フライト時間は20時間16分、成層圏の滞空時間は5時間38分。秒速約30メートルのジェット気流やマイナス73度の極低温域に屈することなく、安全にフライトテストを完遂したとしている。
ソフトバンクは、HAPSの運用期間は最大6カ月と長期を想定している。極低温、希薄な大気、強い紫外線といった地上に比べて過酷な成層圏の環境条件に耐えるため、HAPSのコンポーネントにはあらゆる耐久試験が課せられているとのこと。同社は今後、高頻度で成層圏環境試験を継続し、HAPS機体の各コンポーネントの性能の実証に取り組んでいく考えだ。
レベル4に向けた自動運転
2023年春の改正道路交通法の施行に伴い、自動運転レベル4が解禁される直前ということで、同技術展では、ソフトバンクが目指す自動運転の姿や社会実装に向けた課題に対する解決策などが紹介されていた。
サービスとして運用を支援
自動運転の社会実装に向けた課題の一つに「サービスとして運用することが難しい」といった課題がある。例えば、社内にドライバーや添乗員が不在の自動運転車サービスでは、事業者は社内トラブルや緊急停止時に遠隔から適切に対応できることが求められる。また、路線バスやタクシーのように、これまでドライバーが対応していた社内接客の代替手段も考慮する必要がある。
そこで同社は、遠隔監視AI(人工知能)を活用することで、運転運用を99%自動化する技術を開発している。監視者の対応に必要な情報をAIに自動で収集させ、自動で加工させている技術だ。「1人の監視者が同時に複数車両の周辺環境のリアルタイムな変化に対応するには限界がある」(ソフトバンク担当者)
また、自動運転社内のサービス運用支援システムの開発も進めている。社内の状況を自動的に分析し、AIを活用した音声案内や遠隔監視者との連携など、安心できる乗車体験を提供するための複数機能を搭載した社内アプリを開発しているとのことだ。
自動運転×通信で安全を実現
ソフトバンクは、「事故の削減」という課題に対する取り組みとして、本田技術研究所とVRU(歩行者などの交通弱者)の事故低減に向けた技術検証を行っている。
近年の交通事故による死亡者の割合は、自動車搭乗者とVRU(歩行者などの交通弱者)で同程度とされ、VRUが関わる事故への対策が喫緊の課題となっているという。これまで事故低減に向けて、衝突袚害軽減ブレーキなどの車両の安全機能の開発が行われてきた。しかし、車載センサーのみでは死角に潜む事故リスクへの対応が難しく、次世代の安全技術として C-V2Xなどの通信を活用した事故防止の技術が期待されているとのことだ。
C-V2Xは、V2V(Vehicle-to-everything)は自動車とあらゆるものの情報のやりとりを実現する通信技術のこと。自動車の通信対象は周辺車両や、道路インフラ(信号機、道路標識、駐車場など)、歩行者、ネットワークなどだ。通信手段にLTEや5Gといったモバイルネットワークを用いた接続方式は、セルラーV2x(C-V2x)と呼ばれている。
そして、C-V2Xには「PC5(PC5 Interface)」、「Uu (Uu Interface)」の2つの通信方式がある。PC5は対象との直接通信、Uuは携帯基地局経由での通信となり、全国エリア化されたモバイルネットワークを利用できることが強みという。
そこで、ソフトバンクは本田技術研究所と共同で5G-SA(Stand AloneおよびC-V2Xを活用した歩行者と車両による事故低減に向けた技術検証を行っている。同検証では歩行者と自動車間で通信を行い、歩行者への衝突リスクの通知や、運転者に対する車両死角の歩行者の存在を通知するシステムを構築した。
同検証では、3つのユースケース「事両から歩行者が直接認識できる“見通しのある環境”の事故低減」、「死角があり歩行者を直接検出できない“見通しのない環境"の事故低減」、「認識機能を持たない車両への“リスク情報の共有"による事故低減」を想定し、事故低減の技術検証を行った。
その結果、いずれのユースケースにおいてもそれぞれ設定した遅延許容時間内に収まることを確認できたという。また、実車環境で支援に必要な処理時間を評価し、C-V2X通信を活用した事故低減技術の実現性についても確認できたとのことだ。
ギジュツノチカラでは、これらの技術のほか、「次世代電池」や「量子技術」、「次世代コンテンツ」といったさまざまな先端技術が紹介されていた。最新テクノロジーを体感したい方は、竹芝まで足を運んでみてはいかがだろうか。