京都大学(京大)、福井大学、東北大学の3者は3月17日、サブテラヘルツ(THz)帯において、これまで困難だった金属磁性薄膜中の反強磁性磁化ダイナミクスを電気的に検出することに成功したと共同で発表した。

同成果は、京大 化学研究所(ICR)の船田晋作大学院生、同・森山貴広准教授、同・塩田陽一助教、同・小野輝男教授、福井大 遠赤外領域開発研究センターの石川裕也助教、同・林哉汰大学院生、同・佐野巴則大学院生、同・藤井裕准教授、福井大 工学部 応用物理学科の光藤誠太郎教授、東北大 金属材料研究所の木俣基准教授らの研究チームによるもの。詳細は、米国物理学会が刊行する応用物理学全般を扱う学術誌「Physical Review Applied」に掲載された。

次世代の移動体向けモバイル通信規格「Beyond 5G」などの大容量・高速通信規格では、通信周波数としては30G~300GHz、いわゆるサブTHz~THz帯の電磁波が有望視されている。そして、THz波に応答する磁性体として注目されているのが、磁気共鳴周波数がTHz付近にある反強磁性体やフェリ磁性体だ。

ただし、反強磁性体やフェリ磁性体のTHz応答性について、薄膜を対象とした評価はほとんど行われていなかったとする。従来の透過吸収法では、その吸収強度が試料の厚さに比例するため、ナノオーダーの薄膜の測定には不向きだったという。そこで研究チームは今回、磁性体/非磁性体多層膜において、磁気共鳴に起因して生じる電圧を測定することで、ナノ薄膜の評価を行うことにしたとする。

  • (a)従来の透過吸収法。(b)今回の研究で用いられた手法

    (a)従来の透過吸収法。(b)今回の研究で用いられた手法(出所:京大ICR Webサイト)

今回の研究で用いられた測定原理では、検出可能な電圧(>100nV)信号を得るためには、数十mW以上の強度のTHz連続波が必要であることが事前の計算で確認されていた。THz帯における高出力光源は限られており、今回の研究では、THz帯で高出力発振が可能なジャイロトロンを用いて、今回の測定原理の実証を試みたとする。ジャイロトロンは本来、核融合炉における遠隔加熱のための装置であり、今回の測定のような、磁性薄膜の高周波測定用途で利用された例はこれまでになかったという。

測定試料は、ガドリニウムとコバルトから成るフェリ磁性体「GdCo合金」と、非磁性金属の多層薄膜(GdxCo1-x20nm/Ta 3nm、あるいは、GdxCo1-x20nm/Pt 3nm)が用いられた。GdCo合金は、サブTHz~THz帯の反強磁性的な磁気共鳴モードを有し、その共鳴周波数が強く温度依存することが知られている材料だ。

研究チームは、ジャイロトロンから放射される周波数154GHz、強度500mWの電磁波を薄膜試料に照射。試料をクライオスタット中に設置し、温度や外部磁場を変化させて磁気共鳴において試料端に生じる電圧を測定したという。

  • ジャイロトロンを用いた測定手法の模式図

    ジャイロトロンを用いた測定手法の模式図(出所:京大ICR Webサイト)

今回の測定で得られた共鳴スペクトルにより、GdCo合金の共鳴条件の温度依存性から見積もられる磁場において、1μV~2μV程度のDC電圧の変化が見られたという。また、今回の測定で得られた共鳴磁場や共鳴線幅の温度依存性を詳しく解析することで、GdCo合金薄膜の共鳴モードの掌性に依存して発生するDC電圧に違いがあることや、共鳴線幅がGdCo合金の角運動量補償温度の周辺で大きくなることが明らかになったとしている。

今回の研究では、154GHzの電磁波を発振するジャイロトロンが用いられたが、一般にジャイロトロンの発振周波数の上限は1THz程度であり、ジャイロトロンの発振周波数を適切に選ぶことで、サブTHz~THz帯において今回の測定手法が利用可能だという。研究チームは反強磁性体やフェリ磁性体について、そのTHz帯の磁気応答性が注目されているが、デバイス応用などで重要となる薄膜のTHz特性については、まだほとんど知られていないとする。そして、今回の測定手法を利用することで、これら未知の領域を実験的に探索することが可能になるとした。