スマート望遠鏡は、スマートフォン(スマホ)でコントロールする天体望遠鏡+天体カメラです。走りはこの連載第205回でも紹介した「eVscope」ですが、その後、各社からもスマート望遠鏡が登場し、ついに今年になり8万円台(海外では499ドル)のスマート望遠鏡「Seestar S50」が登場しました。現状入手できる最廉価のスマート望遠鏡です。

今回はこのSeestar S50をレビューします。はっきりいってイケてます!

スマート望遠鏡がイロイロでてきた

ちょっと前から世の中スマートばやりです。スマートフォンにはじまり、スマートキー、スマートカー、スマート家電類、スマートブックなどなど。子供の夏休みの宿題で、スマートがあるものの写真をとり、それぞれ何がスマートなのか比べてみるなんてのがなりたちそうでございます。

このスマートな流れは、天文ホビーにも流れてきて、登場したのがスマート望遠鏡です。

おおむね、スマホでコントロールし、スマホアプリで指示をすると自動的に天体をとらえ、その天体の映像がスマホで見られ、ついでの写真も撮影でき、スマホに記録できるといったものです。

さらに、その映像&記録される写真も「素」ではありません。ぐっとよく見えるように画像処理をしたものが見られます。下の写真は、いずれもスマート望遠鏡ZWO社のSeestar S50で撮影したものです(ちょっとトリミングしてます)が、この撮影に要した時間は準備から10分以内でした。オレンジ色の丸は太陽なのですが撮影まで2分です。しかも、この撮影は本当に初心者でもできちゃうのです。これスゲーことですよ。

  • Seestar S50で撮影した星々

ともかく、望遠鏡での天体観測を、ヒッジョーにカンタンに、そして劇的に感動的にするガジェットでございます。

スマート望遠鏡の走りは、フランスのスタートアップ、ユニステラ社が2019年ごろに発表した「eVscope」です。不肖・しののめも、試用記を書きました。連載第219回では、それまで5回レビューしていて、「今のところ唯一の存在ですが、ライバルがでて切磋琢磨してほしいジャンルではございますな。」なんて書いています。

そして2024年。はい、ライバル出まくりです。本家ユニステラ社からは、eVscopeを小型化したオデッセイの併売がはじまりました「もうチョイ小さくて軽いといいんだけどなー」に答えた形です。

また、フランスのVaonis社からは、コンパクト&スタイリッシュで、撮影画角以上の撮影ができるなどとがった特徴があるVesperaIIが登場しています。ユニステラ社は「ライバルが国内からというのはちょっとびっくり」ってコメントをどこぞのインタビューでしていました。なお、筆者は使ったことがございませんでして、コタツ記事ご容赦。日本ではサイトロンジャパン社が代理店になっており、日本語のサポートも受けられます。

コタツついでに書くと、香港のDWARFLAB社から「DWARF3」というとてもコンパクトなスマート望遠鏡がでています。これは望遠鏡だけでなく広角のカメラとしても使えるというまたまたとんがった特徴を持っています。UIが英語と中国語しかないのがおしいところですが、なんと499ドルです。日本では入手がいまのところ難しいですな。先代の「DWARFII」ならAmazonで購入できますので、まもなく買えるようになるのではと予想します。

また、アメリカの老舗、セレストロン社も「ORIGIN」というスマート望遠鏡を出しています。ほかのものより大型で20kg。持ち運びにはちょっと重いですし子供が扱う感じではないですね。スマート望遠鏡ですが、ホーム天文台と銘打っており、実際結露防止ヒーターを内蔵するなど、高級な感じですね。日本ではアマチュア望遠鏡では最大手といえるビクセン社が代理店です。

現状の決定版、Seestar S50

さて、ここまででてきたので、1つ選ぶならどうする? と聞かれたら、私はユニステラ社のオデッセイPROかなあというところです。アイピースでのぞけるのは、人に望遠鏡を楽しんでもらうのにとてもいいポイントです。昔レビューしたeVscopeの欠点をハード、ソフトともに大きく改良してきており、特に大きさと重さが1まわり半小さくなり、4kgというのはとてもいいですね。小学校の高学年が楽に扱えますし、旅行にももっていきやすいです。

問題は値段で、54万9800円です。セールがかかっていても50万諭吉…いや、シブサワか。溜息しかでません。アイピースなしでも30万シブサワでございますからねえ。

そこで、大注目なのは中国のZWO社が発売した Seestar S50でございます。星(star)を見る(see)からの名前でしょうけど、ヒトデ(Seastar)と音が似ているためか、アプリはヒトデのアイコンになっています。

まず、値段が8万円台です。いまなら(2024年8月15日まで)セールで8万を切っています。だいぶポチリやすい感じです。というか、東明はポチってしまいました。日本の代理店などからも購入することができます(参考:ネイチャーショップKYOEI東京店ネイチャーショップKYOEI大阪店星見屋スターベース)。

中国製? 大丈夫? という方は、いまや世界最大のドローンメーカーは中国のDJIだしーというくらいは抑えると吉です。そもそもフランスのeVscopeも中国の工場で生産されていますし、ZWOは10年前くらいから日本の天文ファンから高い評価を得ている会社でございます。

特徴としては、まず小さく軽量ということ。重さは2kg程度です。思い立ったら、ひょいともっていけます。それからポイント高いのが太陽フィルターが付属していることです。簡易なものですが、黒点の撮影に十分使えます。写真は太陽フィルターをつけた状態のSeestar S50です。

  • 太陽フィルターをつけた状態のSeestar S50

また、星雲を綺麗に映せるように、余分な光をカットするフィルターが内蔵しており、スマホの操作で切り替えられます。若干マニアックな機能ですが、通常は自動で切り替わります。

また、オートフォーカス機能があるのもポイント高いです。

ただ、30万とかいうものを8万円にしているからには、当然ながらいろんな割り切りがあります。

まず、肉眼でのぞけるビューファインダーはありません。完全にスマホで観察する形になります。これは多くのスマート望遠鏡がそうなってきているので、標準的といえばそうですね。

ギアはプラスチック製で精度と強度はすこし犠牲になっています。付属している三脚はなかなかよいものですが、長さが短くてベランダなどで使うのは難があります。長い三脚を別途用意しないといけません(通常のカメラ用そのままだとネジがあわないので1000円弱で買える変換ネジが必要です)。

天体の光を集めるレンズは5cmです。eVscopeは11cm、オデッセイPROは8.5cmなので集光力はだいぶ劣ります。そのため、フィルターが有効ではない銀河の撮影(写真参照)は弱いです。さらに、惑星の撮影は改良されたeVscopeよりだいぶ劣ります。根性なくて、夜中すぎでないと見えない土星、まだ撮影してみてないですけど。

  • フィルターが有効ではない銀河の撮影比較

でも、内蔵フィルターの威力で、星雲が図鑑のように見えたのは心底感動しました。こんなちっこいガジェットで、これが見える。しかも10分間くらい、素人でも難しい操作なしでできるのは本当にすばらしいです。

  • フィルターを通して撮影した星雲

そして、その手軽さを利用して、連載第281回で紹介した、新星爆発のチェック&記録もできてしまいます。いまそういうキャンペーンが、日本変光星協会にて行われています。これマジに記録できたら、貴重な資料になるもので、そんなことまで可能なのはいいですよね。

ということで、スマート望遠鏡で安く登場したSeestar S50はかなりイケてますよ。