宇宙航空研究開発機構(JAXA)、九州大学(九大)、海洋研究開発機構、名古屋大学、京都大学、広島大学、東北大学、北海道大学、東京大学の9者は2月24日、リュウグウ試料の揮発性軽元素の元素分析と同位体比測定を行った結果、3.8%の炭素(C)、1.1%の水素(H)、0.16%の窒素(N)、3.3%の硫黄(S)、12.9%の熱分解性の酸素(O)が含まれていることが明らかになり、これらの元素が無機鉱物と同時に有機物も形成していることを解明。またその元素量は、今まで報告された炭素質隕石中の量と比較して最も多い部類に属し、リュウグウが揮発性元素に富んだ天体であることが明らかになったと共同で発表した。
加えて、それらの安定同位体組成から、隕石と比較すると最も近いものは「イブナ型炭素質コンドライト隕石(CIグループ)」であることも併せて発表された。
同成果は、九大 理学研究院の奈良岡浩教授をはじめとする国内外110名以上の研究者が参加した「可溶性有機物分析チーム」(はやぶさ2初期分析チーム6チームのうちの1つ)によるもの。詳細は、米科学雑誌「Science」に掲載された。
今回の研究ではまず、リュウグウ試料をメタノールで抽出した上で分析が行われた。その結果、揮発性軽元素(CHNOS)の5種類で構成される分子量700くらいまでの有機分子イオンが、約2万種類も見出されたという。これらの多くは一連の同族体を構成しており、メチル化や水酸化などの有機分子の連続した反応が起こっていることを示すとする。また、これらの有機分子の多様性は炭素質隕石と比べても多く、比較的低温環境下で生成したことを示唆するとした。
続いて、リュウグウ試料の熱水抽出物を加水分解した試料に対し、アミノ酸分析が行われた。すると、アラニンやグリシン、バリンのような地球生命が用いているタンパク質性アミノ酸と、ベータアラニンやアミノ酪酸、イソバリンなどの地球生命が用いていない非タンパク質性アミノ酸など、合計15種類が検出された。
また、検出された光学対掌体アミノ酸(キラル分子)は、左手型・右手型がほぼ1:1の比率で存在する「ラセミ体」であることが判明。その多くは非タンパク質性アミノ酸であり、ラセミ体で存在するということは、これらが非生物的に合成されたことを示すとする。
アミノ酸の構造分布としてはα-アミノ酸に加え、直鎖構造を持つアミノ酸が比較的多く、より水変質を受けた炭素質隕石に存在するアミノ酸の特徴と一致するという。検出されたアミノ酸濃度の多くは1nmol/g以下であり、数ppbと超微量だったとしている。比較的多種多様なアミノ酸が検出されたマーチソン隕石と比較するとはるかに少なく、CIコンドライト隕石(オルゲイユ隕石)よりも少なかったとした。
熱水抽出物にはアミノ酸のほかに、低分子のアミンやカルボン酸の存在も確認された。ただし、たとえばメチルアミンの遊離体は非常に揮発性が強いことから、リュウグウ表面においては塩として存在していることを示すという。
さらにエチルアミンやプロピルアミンも存在したが、イソプロピルアミンは直鎖プロピルアミンより多かったとする。これは、ラジカル反応で生成したか、熱で分解して存在していることを示すという。これらのアミン塩は、リュウグウ表面で観測されている吸収帯~3.1μm(NH結合)と関係している可能性があるとしている。
加えて、カルボン酸として酢酸とギ酸も存在したが、より炭素数の多いものは検出されなかった。より炭素の小さいカルボン酸だけが見つかるのは、熱水作用を受けた炭素質隕石で見られる特徴と一致するという。