宇宙航空研究開発機構(JAXA)は9月26日、活動銀河核「NGC5548」について、3つのX線天文衛星で取得された広帯域X線スペクトルを用いて、先行研究で物理的に相関し得ないパラメータ同士に相関が出ていたことを、必要以上のパラメータを含んだモデル設定による「パラメータ縮退」と考察してよりシンプルなモデル構築を試みた結果、二重構造を持った塊状の物体(吸収体)が視線上を横切っているというシンプルなモデルで、一見複雑なX線スペクトル変動を説明することに成功したと発表した。

同成果は、東京大学大学院 理学系研究科 天文学専攻/JAXA 宇宙科学研究所(ISAS)宇宙物理学研究系の御堂岡拓哉大学院生/日本学術振興会 特別研究員、同・海老沢研教授らの研究チームによるもの。詳細は、英国王立天文学会が刊行する天文学術誌「Monthly Notices of the Royal Astronomical Society」に掲載された。

宇宙でも屈指の明るさを有する「活動銀河核」は、その中心にある大質量ブラックホールに物質が落ちることにより生じる大きなエネルギーがX線に変換されて明るく輝いており、その明るさは大質量ブラックホールが所属する銀河全体よりも明るいほどとも言われている。

この巨大な重力エネルギーから変換されたX線は、ブラックホールの周囲の環境を仮定しシミュレーションすることで、どのようなスペクトルが得られるのかを理論的に予測できるという。そして、このようにして得られたモデルスペクトルと観測で得られたスペクトルを比較し、両者が適合するようモデルパラメータを最適化することで、X線を放射しているブラックホール近傍の環境をより正確に予測することが可能となるという。

同手法は天文学において最も標準的な解析手法の1つだが、最適化に用いる物理モデルを決定するのは各研究者の自由であるため、異なった物理モデルを用いても同じ観測スペクトルを説明できてしまうことが多々あるという。

活動銀河核の中心にある大質量ブラックホール周辺の環境は、大別して、降着円盤、コロナ、複数の吸収体が存在することがわかっている。このうち、コロナと吸収体の幾何構造や力学状態については数多くのモデルが提唱されている。どのモデルも観測スペクトルの説明は可能であるため、モデルの良し悪しを判断するには観測スペクトルとの適合以外の切り口が必要だという。