宇宙航空研究開発機構(JAXA)は8月24日、活動銀河核中心の大質量ブラックホールの周囲に存在するガスや塵でできた「トーラス」構造内のガスや塵の運動を、一酸化炭素(CO)吸収線に着目して数値計算したところ、同吸収線がトーラスの最も内側の領域から放たれた近赤外線だけを背景光としており、トーラス内部で大質量ブラックホールに向かって落下するガスや、逆に大質量ブラックホールの活動で吹き飛ばされるガスといった、激しいガスの動きを捉えていることが明らかになったことを発表した。

同成果は、JAXA 宇宙科学研究所(ISAS) 宇宙物理学研究系 中川研究室の松本光生大学院生(東京大学大学院 理学系研究科 物理学専攻)、同・中川 貴雄教授、同・大西崇介大学院生(東大大学院 理学系研究科 物理学専攻)、同・磯部直樹助教らの研究チームによるもの。詳細は、米天文学専門誌「The Astronomical Jounal」に掲載された。

活動銀河核とは、銀河の中心に存在する大質量ブラックホールに大量のガスや塵などが落下することで、位置エネルギーが放射エネルギーに変換され、全宇宙でも屈指の明るさでもって輝いているコンパクトな領域(天体)とされている。

1980年代の可視光分光観測をもとにした「活動銀河核統一理論」によると、活動銀河核の観測的な特徴を説明するために、ガスや塵で構成された厚いトーラス(ドーナツ)構造が大質量ブラックホールの周囲に存在すると提唱されている。

トーラスは活動銀河核統一理論の要であり、また大質量ブラックホールへの物質の供給源であるため、非常に重要な構造と考えられている。しかし、単純にガスがブラックホールに落ち込むだけではトーラスは厚みを持たず、円盤のように薄くなってしまうという。

そのため、トーラス内には厚みを生み出すような、激しいガスの運動があると考えられているが、トーラスの大きさは銀河全体の1万分の1程度と非常に小さく、既存の望遠鏡では解像度が不足しているため、トーラス内のガスの運動を調べるのは困難だという。

そこで研究チームは今回、同チームが長年にわたって観測を行ってきた「CO振動回転遷移吸収線」に着目。これを分光観測で捉えることで、トーラス内のガス運動を調べられるかどうかを数値計算によって検証することにしたという。

またこの際に、さまざまな観測との整合性が確認されている流体モデルの物質分布をもとにして、近赤外線の光がどこから放たれ、どこでCO分子によって吸収が起きているのかも調べられた。