北海道電力は7月26日、火力発電所におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)推進の一環として、マイクロソフトのMR(Mixed Reality、複合現実)ソリューションを活用した巡視点検業務用のアプリケーション(巡視点検アプリ)の開発と、同社の火力発電所内での巡視点検業務における利用開始を発表した。

同日には、記者説明会がハイブリッド形式で開かれ、巡視点検アプリの用途が説明されると共に、アプリを利用した様子のデモ映像が公開された。

今回、開発された巡視点検アプリには、マイクロソフトの「Microsoft HoloLens 2(HoloLens 2)」と「Azure Spatial Anchors」が利用されている。

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同アプリでは、HoloLens 2をベースとしたヘルメット一体型デバイス「Trimble XR10」と「Microsoft Azure」を活用して、発電所の約2キロメートルにわたる広範囲な巡視点検のナビゲーションが可能だ。なお、Azure Spatial Anchorsで空間認識を行うため、アプリの利用にあたってGPSやビーコンなどを用意する必要はないという。

  • 「Trimble XR10」の外観

    「Trimble XR10」の外観

発電所員がTrimble XR10を装着すると、HoloLens 2上に点検のためのルートが表示される。示された順路に沿って移動すると、現在地に対応した作業指示や参考資料などのデジタルコンテンツが自動的にHoloLens 2上に表示される。作業員はそれらを確認しながら点検作業を行っていくことで、点検のための順路を間違えたり、点検箇所を誤ったりすることなく、より正確で迅速な巡視点検を実施できる。

  • 巡視点検アプリの利用時の様子(左下の囲みはTrimble XR10を装着した作業員が見ているHoloLens 2の画面イメージ)

    巡視点検アプリの利用時の様子(左下の囲みはTrimble XR10を装着した作業員が見ているHoloLens 2の画面イメージ)

また、HoloLens 2上に映し出されたナビゲーションや指示に沿って作業を行っていく様子を動画で撮影しておけば、その動画を新入社員向けの作業研修などの机上学習に活用することも可能だ。

  • 巡視点検アプリの使用方法

    巡視点検アプリの使用方法

巡視点検アプリは、北海道電力の苫東厚真発電所の現場環境下において、現場での検証期間も含めて約1年ほどで開発した。アプリを利用できるTrimble XR10は現在17台保有しており、そのうち5台が同発電所で本日から稼働している。

今後は、同社の発電所のうち、知内、伊達、石狩湾新港、砂川の4つの火力発電所に順次展開していく予定だ。

北海道電力 火力部火力情報技術グループリーダーの宮崎浩一氏は、「トラブルの未然防止のため設備の巡視点検を行っているが、多岐にわたる設備の異常を早期に発見するためには、経験とノウハウが必要となる。しかし、定年退職に伴いベテラン技術者が減少しており、これまで職場内研修などにより習得していた巡視点検の技術を、効率的に継承していくことが課題となっていた。MRを活用して巡視ルートや点検内容を明確にすることで、巡視点検に関する技術習得の標準化・可視化ができるものと考える」と説明した。

  • 北海道電力 火力部火力情報技術グループリーダー 宮崎浩一氏

    北海道電力 火力部火力情報技術グループリーダー 宮崎浩一氏

巡視点検ルートにおけるデジタルコンテンツの表示位置は、Trimble XR10を装着した状態で行える。

具体的には、HoloLens 2を通して巡視点検ルートを見た状態で、「空間アンカー」(アンカー)と呼ばれる青い立方体の3DCGを設置していく。アンカーが設置された場所がコンテンツの表示位置となり、アンカーの追加・移動・削除は自由に行える。アンカーの設定を繰り返すことで、巡視点検ルート上にアンカー同士をつなげるルートを設定することができるようになる。また、各コンテンツの内容はWebブラウザ上で編集可能だ。

  • 巡視点検アプリの設定方法

    巡視点検アプリの設定方法

北海道電力では、従来、1日につき2~3回の巡視点検を行っていた。1度の点検には2時間ほどの時間がかかり、夜間に点検を実施するルートもあるため日勤と夜勤を交代しながら点検を実施。点検作業も紙のルート表、手順書、チェックリストとともに行い、点検結果はエクセル表で管理していた。

火力発電所における巡視点検業務のDXにあたっては、さまざまなアイデア出しを行い具体的なソリューションを検討。当初はロボットの活用も案として出ていたが、技術レベルの標準化とともに、効率的な技術継承や設備の異常兆候の早期検知を両立させるべく、今回はMRを活用したソリューションの導入に至ったという。

今後、北海道電力は、苫東厚真発電所において2021年度から実地検証を行っているローカル5GとMRを組み合わせ、デジタル技術を活用した業務変革のほか、同様の課題を抱える他の発電事業者への巡視点検アプリの展開を進めていく予定だ。

なお、今回の巡視点検アプリの開発にあたって、北海道電力は現場の課題抽出・分析、活用方法の検討、アプリの設定や評価、現場環境とともにMicrosoft Azureのプラットフォームを提供し、アバナードとアクセンチュアが開発に協力している。

アバナード ソリューション開発部 MR担当マネージャーの武村禎一氏は、「当社はMRの適用に対するコンサルティングやアプリの開発、実際の発電所内でのアプリの動作確認などを実施した。変電所でのMRを活用した事例は国内にもあるが、発電所内におけるMRの活用事例は今回が初となる」と語った。

  • アバナード ソリューション開発部 MR担当マネージャー 武村禎一氏

    アバナード ソリューション開発部 MR担当マネージャー 武村禎一氏

5G(第5世代移動通信システム)の普及により、分析・計算・画像表示などがクラウド側で処理されるようになり、MRデバイス自体の軽量化などの変化を見越して、アバナードは巡視点検アプリの機能拡張、デジタルツインやAIを組み合わせた新ソリューションの開発を進めるという。

アクセンチュア インダストリーX本部 マネジャーの崎谷歩美氏は、「当社はプロジェクトマネジメントの立場でアプリ開発に参画した。具体的にはスケジュールの進捗確認や、進捗にあたっての課題の管理、対応策を検討し、北海道電力やアバナードと共に対応を進めた」と明かした。

  • アクセンチュア インダストリーX本部 マネジャー 崎谷歩美氏

    アクセンチュア インダストリーX本部 マネジャー 崎谷歩美氏