米国連邦議会での審議が最終調整段階に入っているものの、未だに支給のめどが立ってはいない520億ドル(6兆円超)規模の米国半導体支援策を盛り込んだ「CHIPS(Creating Helpful Incentives to Produce Semiconductors)for America Act(CHIPS法)」をめぐり、IntelのPat Gelsinger CEOが「米国企業を中心に補助すべきだ」と米商務省に要求する一方、TSMCとSamsung Electronicsが「本社所在国によらぬ公平な競争の場での補助金支給」を米国政府に対して主張したと欧米の複数のメディアが報じている。

Samsungは3月末、米国の半導体産業発展のための方策を米商務省のRFI(上場提供依頼書)の回答の一部として提案し、「半導体不足の打破のために米国に半導体工場が必要だという点が確認された」とし、米本土に生産・製造施設を建てる企業に対するインセンティブを提供することが米国の利益に合致するという点を強調。米国政府は、本社所在国に関係なく公平な競争の場でCHIPS法が提供するインセンティブを供与すべきことを主張した。

また、米商務省が半導体企業のプロジェクト提案を審査する際、5つの基準を考慮すべきだと米商務省に提出した文書で述べている。

  1. 該当するプロジェクトが引き起こせる直接的な経済的な影響は大きいか
  2. プロジェクト提案の内容が、米国の戦略的目標をさらに進展させることができるかどうか
  3. 該当企業の米国の半導体製造施設への投資に関する過去の実績や数十億ドル(数千億円)のプロジェクト運営成功などの立証はあるか
  4. 米国の雇用を拡大し、労働者を訓練させる投資なのかどうか
  5. 環境に関する持続可能性が実践されるか

Samsungとしては「(米国資本の企業かどうかではなく)事業そのものが米国に及ぼす経済的影響を補助金支給の判断時に十分考慮する必要がある」という主張であり、同社が米テキサス州オースチン近郊のテーラー市に170億ドルを投じて立ち上げる3nmプロセスファブでは2000名以上の雇用を創出し、その他の施設建設なども含めればさらに数千の雇用が創出されるという点も強調したという。同社は長年、米国で半導体製造工場を運営し、46州で2万人以上の従業員を雇用した経歴があることも主張しており、米国政府から補助金を供与されるに値するとしている。

一方のTSMCも米アリゾナ州に120億ドル(約1兆5000億円)を投じて5nmプロセスファブの建設を進めており、Samsung同様に本社所在国によらぬ補助金主張をした模様である。

Intelもアリゾナに2つの先端ファブを建設中であることに加え、オハイオ州にも200億ドルを投じて2つの先端ファブ建設を決めており、いずれ、米国でSamsung、TSMC、Intelが先端ファウンドリ事業で競合することになろう。

台湾のハイテクメディアであるDigiTimesは、3月30日付けで、米国政府がTSMCに対して補助金などの支援を実行しなかった場合は、同社のアリゾナ工場が稼働後に利益を生み出すのは難しいとの見方を示している。

なお、米国半導体工業会(SIA)の技術政策担当ディレクターであるEric Breckenfeld(エリック・ブレッケンフェルド)氏は4月1日付で、「SIAは、 CHIPS for America Actの実施に関連する米国商務省の情報要求(RFI)に応じて、同省にコメントを提出した」との談話を発表している。

これは、現在、米国連邦議会上下両院で最終的に両院の法案の違いを調整中のCHIPS法を商務省が施行するにあたって、SIAが以下の5つの優先事項を米国政府に提言するものだという。

  1. 半導体サプライチェーンのギャップと脆弱性を埋めるための製造インセンティブに関するタイムリーな行動の必要性
  2. ウェハファブ、パッケージング工場、研究所、装置や材料のサプライヤーなど、サポートする必要のある幅広い活動
  3. 新しい競争前の研究とプロトタイピングの取り組みのための最高レベルのリーダーシップにおける業界の方向性と調整
  4. 研究開発とサプライチェーンの取り組みの両方において、世界中の志を同じくする戦略的パートナーと協力する重要性
  5. CHIPS法の全体にわたる労働力開発のニーズに関する中心的な役割

バイデン米大統領やレモンド商務長官は米国連邦議会にCHIPS法の早期成立を強く求め、半導体企業や装置メーカー、業界団体も首都ワシントンD.C.でロビー活動を熱心に行っているが、上下両院がそれぞれ可決した法律の内容に隔たりがあることに加え、野党では反対者も少なくないことから、成立への道のりはまだ遠そうである。