IntelのPat Gelsinger CEOは12月1日(米国時間)にカリフォルニア州ハーフムーンベイで開催された大企業や投資家向けイベント「FORTUNE Brainstorm Tech 2021」において、「米国政府は(TSMCのような外資ではなく)Micron TechnologyやTexas Instruments、Intelといった米国の半導体メーカーにこそ優先的に補助金を支給し支援をすべきだ」と述べたと多数の海外メディアが伝えている。

同氏は、これまでにも「米国政府は外資ではなく米国の半導体企業にこそ補助金を支給すべきだ」という主張を繰り返し述べてきた経緯がある。

TSMCはすでにアリゾナ州に120億ドルを投じ5nmプロセス対応半導体工場の建設を開始済みで、Samsungもテキサス州に3nmプロセス対応半導体工場建設に向けて170億ドルを投じると発表済みである。Gelsinger氏は、これらの取り組みが米国の地政学的リスクを軽減するのに役立つことは認めたものの、米国のチップメーカーに投資する方がはるかに有益であるというスタンスを取っている。同イベントでは、「IP(知的財産権)、R&D、および税の流れをアジアに戻してよいのか?」と参加者に問いかけたともいう。

先端プロセス開発でキャッチアップを目指すIntel

またGelsinger氏は、「韓国、台湾ともに地政学的リスクに直面している。朝鮮半島はまだ戦争状態にあるため、米国と韓国は北朝鮮の軍事力の増大に直面して作戦を更新している。一方、台湾では中国の戦闘機が台湾の防空識別圏への飛行を繰り返しており、台湾は安定した場所ではなく、唯一の最先端半導体技術源として台湾に依存するのは危険である。米国政府は米国の持続可能な半導体サプライチェーンを支援すべきだ」とも述べたという。

Intelは、TSMCに製造委託を行ってきており、近々にも最先端となる3nmプロセスでの半導体生産委託における生産能力確保に向けた最終交渉を行うと噂されており、TSMCとはいわゆるフレネミー(friendとenemyを組み合わせた造語)の関係にあるといえる。

Intelでは、TSMC、Samsungに比べ微細化競争で後れを取っており、10年間で2500億ドルを投じ、設備投資を積極的に進めるとしている。2021年も200億ドルを投じており、2022年も250~280億ドルを投じるとしている。

米国政府が米国内での半導体製造促進のたに520億ドル(約6兆円)を支出する法案である「CHIPS(Creating Helpful Incentives to Produce Semiconductors) for America Act」は、2020年6月10日に連邦議会に提出され、上院で可決されたものの、下院ではGelsinger氏同様に外資系半導体企業への補助金支給に反対する議員がおり、審議が終わっていないため、成立の見通しがたっていない。

静観の構えをみせるTSMC

TSMCのMark Liu(劉德音)会長は、台湾国内で記者団にGelsinger氏の台湾やTSMCに対するコメントについて尋ねられ、「台湾が何か対処する必要はない。TSMCは半導体業界の他の企業の悪口を言うことはしない」と述べたほか、Gelsinger氏の台湾の地政学的に不安定であるとの発言を信じる人はおそらく多くないだろうと付け加えたと台湾の中央通信社(CAN)が12月3日付けで伝えている。

またLiu氏は、アリゾナでの半導体工場建設は予定通りに進んでおり、2024年第1四半期中には、5nmプロセスでの生産を開始できると述べたという。熊本工場についても、日本の一部メディアが報じている日本国内での人材不足を認めつつも、計画通り2024年末に28~22nmプロセスでの生産開始を目指すとしたともしている。

なお、Liu会長は、将来の半導体産業動向について、半導体の世界的な需要は今後も成長を続け、世界の半導体産業の生産額は2030年に1兆ドルに達すると予測しており、これにより半導体を応用した最終電子製品市場は3兆ドルから4兆ドルの価値が生まれると楽観的な見方を示したという。