独Infineon Technologiesは、ワイドバンドギャップ・パワー半導体(SiC/GaN)の前工程生産能力を増強することを目的に、20億ユーロ(約2600億円)以上を投じ、マレーシアのKulim(クリム)工場に第3製造棟(モジュール)を新設することを2月17日(欧州時間)に発表した。

第3製造棟は、2022年6月に着工し、2024年夏までに製造装置が導入され、最初のウェハは2024年後半に出荷される予定だという。また、この投資には、特にエピタキシャル・プロセスやウェハ・シンギュレーション(ウェハからダイの切り出し)など、高付加価値技術への投資も多数含まれており、稼働すれば、SiCやGaN製品による20億ユーロ相当の年間売上高が新たに生み出されるようになるという。

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    マレーシアのクリムにあるInfineonの半導体前工程工場。右側の整地済みの空き地に第3製造棟が建設される (出所:Infineon)

すでに同社は欧州のフィラッハやドレスデンで300mmウェハを用いたシリコンパワー半導体を推進しているが、クリムにて非シリコン系パワー半導体を製造することで、補完関係を構築しようとしている。

ワイドバンドギャップ生産拠点をアジアに拡大した背景

同社によると、ワイドバンドギャップ技術のグローバルコンピテンスセンターとしての役割を有するフィラハの拠点は、今後数年間、既存のシリコン設備を転用することで、ワイドバンドギャップ技術の革新拠点およびグローバルコンピテンスセンターとしての役割を果たすことになるとしている。150mmならびに200mmのシリコンウェハ向け製造装置をSiCおよびGaN製造に転換するものとみられ、SiC/GaNでもウェハの大口径化を進め、数の経済でシェアを拡大しようとしている。

すでに同社は3000社以上の産業用電源、太陽光発電、輸送、自動車、電気自動車(EV)の充電などの分野の顧客にSiCベースの製品を提供しており、2020年代半ばまでに、SiCベースのパワー半導体で10億ドルの売り上げを達成することを目標としている。

またGaN市場については欧州の半導体市場調査会社Yole Developmentによると、その市場規模は2020年の4700万ドルから2025年の8億100万ドルまで、年平均成長率76%で成長すると見られており、Infineonも幅広いGaN IPポートフォリオを展開していくこと、大規模な研究開発を進めることで、GaNデバイスでのリーダーを目指すともしている。

どうなる? 日本のパワー半導体業界

ちなみに日本は世界においてパワー半導体企業がもっとも多い地域であり、売り上げランキングでもトップ10に複数社入っており、パワー半導体大国と思われる人も多い(Omdiaの調査では2020年は3位に三菱電機、5位に富士電機、6位に東芝、7位にルネサス エレクトロニクスがランクイン)。

しかし、Infineonを筆頭に、onsemi、STMicroelectronicsなど海外勢はシリコンパワー半導体の300mmウェハ化を推し進めている一方、日本では東芝がようやく2022年度下期に300mmパワー半導体工場を稼働させる予定としており、その取り組みは遅れている。また、SiC/GaNについても、投資規模が小さい。経済産業省は、日本の半導体強化に向けた助成金支給制度に応募したほとんどの国内パワー半導体メーカーに補助金の支給を行うとみられているほか、今後も継続的に助成金支給に向けた公募を行っていくようだが、その総額は、Infineonの投資額よりも少額であり、焼け石に水でしかない可能性がある。先行する欧米勢に加え、後方からは中国にてパワー半導体企業が、スマートシティ実現という目標に向かって、雨後の筍のように出てきており、日本はその間に挟まれる状況となっているのが現状であり、より大型かつ積極的な投資計画を推進しなければ、今後、日本勢のパワー半導体分野でのシェアを落とすことが懸念される。