2021年、リモートワークは一種の社会基盤としての地位を確立しました。その結果、相手と対面できない場合も、ビジネスの意思決定や重要な接点の維持に必要なインサイトを社員が入手するための仕組みが必要となり、その新たな手法を見出すことがITリーダーやビジネスリーダーの責務となりました。

この取り組みにおいて重要なアプローチが、データドリブンなカルチャーの発展です。具体的には、ビジネスバリューを推進する新たなテクノロジーを導入し、暗中模索の業務遂行とは対照に、組織の業務をあらゆる側面からインサイト主導で遂行できるようにすること、そして、チームが新たに独立性をもって成長できるよう支援することです。

こうした“データの民主化”は、“ITの民主化”がもたらす自然な進化です。しかしITの民主化、つまりITの一般的な普及は、テクノロジーとクラウドが幅広く浸透することを実現し、社員に新たな機会を追求する自由を与える一方、企業にセキュリティの脅威をもたらすことにもなりかねません。

つまり、誰でも簡単にデータを取得することができ、そのデータをビジネスバリューのあるものへと作り変えることができるような業務用アプリが次々と登場する一方で、データガバナンスの欠如やデータ定義の方法のサイロ化、業務チームで利用できるツール数の増大といった問題が顕在化しています。

データドリブンなカルチャーが浸透している場合、組織のメンバー全員がデータ、分析、および、ナレッジにアクセスでき、そのインサイトを業務管理のために活用できます。またそこでは、データは貴重な資産として扱われます。こうした実りあるカルチャー文化を育むには、次の要件を満たす必要があります。

  • 適切なマインドセットを定義し、ポイントを押さえて取り組む
  • センターオブエクセレンス(CoE)を創設する
  • イニシアチブを支える適切なソリューションを選択する

データドリブンなカルチャーを育成するための取り組み

データドリブンなカルチャーを育成するアプローチは、組織によって異なります。一方、確実な土台を築いてカルチャーを根付かせるにあたり、組織によらない共通の戦術もいくつか存在します。確実な土台の構築は、共通の言語と定義、ものさしを組織全体ですりあわせ、一律に導入することから始まります。この取り組みによって部署間のコミュニケーションが活発になり、相互に学ぶことができます。例えば、セールスチームとITチームが、部署内でデータ分析を実行する方法や、顧客の行動を観察する方法について意見を交わすといったことです。

次に、ソリューションやプロセスを使いやすく、わかりやすいものにすることが重要です。従来、組織のデータを完全に活用するには、相当の経験とリソースが必要でした。しかし昨今は、データやデーターに対する洞察がワークフローの改善にどう役立つかをわかりやすく社員に伝えるダッシュボードやツール群がたくさんあります。

最後に、カルチャーを育成するにあたっては、外部人材ではなく、既存の人材を活用しましょう。マーケティングから経理、セールス、他のバックオフィス系部門に至るまで、既存の社員に新たなテクノロジーのトレーニングを積んでもらうほうが良い結果をもたらします。彼らこそ、新たなテクノロジーがその部署と、そこで働く社員にもたらすメリットに理解を示す可能性が高いからです。

土台を築いた後は、補助的なポイントを押さえることで、このカルチャーを根付かせることができます。技術的側面では、組織に適合するフレキシブルなデータガバナンスフレームワークを定義し、導入する必要があります。具体的には、データ活用スキルが習熟した後もビジネスに適応させることができる“サービスとしてのデータ”モデルなどがあります。

社員への動機付けという側面では、変化に向けて、現実的な目標を設定することが何より重要です。突拍子もない約束を掲げることはせず、前向きで、野心的すぎない目標とスケジュールを設定しましょう。適切な目標設定は、出だしで失敗した場合や問題が起きた場合に、社員や経営陣のフラストレーション軽減に役立ちます。

最後のポイントとして、プログラムがもたらすメリットを必ず明確に定義します。これは、データカルチャーが企業全体ではなく、社員に個人的にもたらすメリットに関する理解を促進します。例えば、データサイロの解消がもたらす大きな可能性や、社員自身の成長につながるスキル横断的な能力開発などへの理解が深まります。

センターオブエクセレンス(CoE)を創設する

最終的な目標は組織の全員がデータ分析の専門能力を身につけることですが、その過程で重要な足掛かりとなるのが、一元的なナレッジベースの構築です。データカルチャーのセンターオブエクセレンス(CoE)の設置を通じて各種の取り組みを体系化でき、またデータサービスを一元化しながら、チームが固有のニーズに応じてデータ分析機能を構築することが可能になります。

適切なCoEの条件として、統一的なトレーニング、資格認定、専門知識の3点を確実に提供すること、および、エラーや混乱のないアプリユーザーエクスペリエンスの提供を挙げることができます。さらに、ソリューションの調達および開発の監視を通じて、社員がポリシーを逸脱して新規のツールやプラットフォームを購入する事態を未然に防ぐことも可能です。

この監視の一環として、ITリーダーはサービス導入を訴える社員の声に耳を傾ける必要があるほか、データの使用状況と費用を監視し、シャドーITが生じる前に芽を摘みとらなくてはなりません。

もう1つ、重要なポイントとして、適切なトレーニングと資格認定を完了した社員を表彰し、新たなデータ分析プログラムを導入する社員の士気を高める取り組みがあります。すぐれたCoEを構築する最後の条件は、エバンジェリストチームの設置です。組織内のメンバーから、データカルチャーの構築に意欲を持ち、関心や導入を推進するための支援を受ける人を選出します。

イニシアチブを支える適切なソリューションを選択する

カルチャーは組織独自のものであり、組織はソリューションスタックを独自に構築する必要があります。新たな投資には財務上の同意が必要となるため、ソリューションの調達は、カルチャーを育成する取り組みに置いて最も難しい部分となる可能性があります。したがって、適切なアプローチで実施することが重要です。

初めに、組織の既存のソリューションの棚卸しを行い、1つの部署ですぐれた成果を上げたソリューションを別の部署にも適用できるか判断します。多くのテック系企業ではこの一環として、企業内の独自のソリューションを新たなユースケースに適用するやり方を検討できます。もちろんすべてのケースで成功するとは限らず、新たなプロダクトへの投資が必要となることもあります。したがって、組織としての優先順位を確認し、その結果に基づいてフレームワークを構築するアプローチも視野に入れるべきでしょう。

ソリューションの調達に際しては新たに大きな責任が生じる一方、部署やチームを越えて経営層の連携(コラボレーション)が活性化し、イノベーションとビジネス全体に対する考えや競技を支援する格好の機会でもあります。すべてのITリーダーがこのパンデミックを契機に、平時であれば何年もかかる水準のデジタルトランスフォーメンションを数カ月で準備する必要に迫られています。ITリーダーにとっては、コーポレートITの範囲にとどまらないすぐれたリーダーシップを発揮する機会であり、事業部門を超えて企業の活力と成長性、将来性を引き上げる有能なパートナーとして躍進するチャンスです。

著者プロフィール


Matthew Day , VP&GM of APJ at Elastic