BIRD INITIATIVE、ANAホールディングス、アインホールディングス、NEC、経済産業省北海道経済産業局は11月4日、北海道稚内市において、「ドローンによる医薬品配送に関するガイドライン」に準拠したドローンの運航と、航空定期便が就航する空港内への物流用ドローン離着陸を、国際標準化が進められているUTM(分散型のドローン運航管理システム)を用いて実施したと発表した。

同日には、プレスリリースに先駆けた記者向けの説明会が開かれた。

同実証は、政府が2022年度を目途に実現を目指す、「有人地帯での目視外飛行(レべル4)の実現」に向けた、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)によるDRESSプロジェクト(ロボット・ドローンが活躍する省エネルギー社会の実現プロジェクト)の一環となり、2021年9月7日から10月30日に実証が実施された。

  • 実証実験の全体像

稚内市では、同市の課題解決につながるドローンの医薬品配送と空港内離発着に加え、海獣(アザラシやトドなど)の監視、密漁監視がレべル4飛行のユースケースとして実証実験の対象となった。

運航管理システムには集中型と分散型のアーキテクチャを採用

UTMは、複数のドローン運航者が同じ空域で安全かつ効率的にドローンを運航できるようにするシステムだ。UTMのアーキテクチャには集中型と分散型の2つがあるが、同実証では両方を採用した。

ドローンのレべル4飛行の実現にあたっては、ドローン同士の衝突回避が課題となる。今回の実証実験では、集中型のFIMS(運航管理統合機能)に民間のUASSP(運航管理システム)が接続し、全飛行計画情報と動態情報をFIMSに集約することで、飛行計画の間で衝突がないように飛行申請の許諾・否認管理が行われた。

分散型の運航管理においては、UASSPがそれぞれ自律的に飛行計画の可否判断を行い、そのために必要な飛行計画の重複検知や解消を分散的に調整して行った。

  • 集中型と分散型のアーキテクチャによるUTMの運行管理の検証

分散型の運航管理で重要なのが、運航者が他の事業者と合意可能な飛行計画を自動で立案し、交渉・調整する機能だ。NECは国立情報学研究所と共同で、デジタルツインを用いてシミュレーション空間に稚内市を再現し、海獣監視用と物流用の間の自律的経路調整を開発・検証した。また、NECは産業技術総合研究所とも共同で、物流タスクの割り当てと経路計画を同時に行う物流用調整技術も開発した。

このほか、ANAホールディングス、NEC、国立情報学研究所は、ウェザーニューズの提供による有人ヘリコプター運航管理システムFORSER-GAを活用し、有人機飛行環境下を想定した、運航管理サービスによる飛行計画の重複検知ならびにその解消の検証も行った。

BIRD INITIATIVE 自動交渉カンパニーヘッド 兼 NEC データサイエンス研究所 主任研究員の中台慎二氏は、「集中型UTMは空間の使用が早いもの勝ちとなるので、先に申請された計画が優先され、後に申請した計画は重要性が高くても拒絶される。分散型のUTMを用いれば、事業者間の調整によって後から申請された飛行計画も承認されるうえ、自動交渉AIを用いることで、瞬時に交渉も完了できる」と語った。

  • BIRD INITIATIVE 自動交渉カンパニーヘッド 兼 NEC データサイエンス研究所 主任研究員 中台慎二氏

中台氏によれば将来は買い物支援、ソーラーパネル点検など多数のドローンが飛び交うことが予想され、その際には事業者間の迅速な交渉、調整が必要になるという。

温度管理と施錠が可能な専用ボックスで医薬品を配送

ドローンによる医薬品配送そのものは、2020年7月にANAホールディングスとアインホールディングスが共同で行っていたが、今回の実証では2021年6月に策定された「ドローンによる医薬品配送ガイドライン」に準拠して実施された。

ガイドラインでは「当該薬剤の品質確保」「患者本人への速やかで確実な授与」「患者のプライバシー確保」の観点で十分検討し、ドローンが最適な配送手段だと判断した場合に活用できるとされている。ドローン配送を実施するにあたっては、事業計画を定めて、関連する医師会、薬剤師会、自治体の保険担当者に確認を取る必要がある。

ANAホールディングス デジタルデザインラボ ドローンプロジェクトディレクターの信田光寿氏は、「麻薬や向精神薬、毒薬劇薬など流通上、厳格な管理が必要な薬剤のドローン配送は避けるものとされているが、劇薬の範囲は幅広く、一般的に使用される薬が該当することもある。実証実験では、医療従事者とともにガイドラインの解釈を進め、実証実験を通して課題を抽出した。アインホールディングスが業務手順書を作成、当社と業務委託契約を結び、当社はドローンの運航マニュアルや独自の配送管理システムを構築した」と説明した。

  • ANAホールディングス デジタルデザインラボ ドローンプロジェクトディレクター 信田光寿氏

医薬品配送の実証実験では、まず医師が模擬患者にオンライン診療を行った後、アイン薬局に処方箋をFAXで送付。その後、アイン薬局の薬剤師がPHR(Personal Health Record)を活用してオンライン服薬指導を実施し、ドローンで処方箋医薬品を配送した。

医薬品の品質確保のため、配送時には施錠できて温度管理も可能な専用のボックスが使用された。また、患者への医薬品の確実な授与と紛失防止のため、ANAの配送追跡サービス(ADOMS)を利用し、「準備中」「集荷待ち」「お届け待ち」と配送状況をスマートフォンで確認できる。鍵の開錠の際の番号は、SMSで患者本人に通知する。

動画提供:アインホールディングス

  • 医薬品配送で使用した専用の容器、提供:アインホールディングス

アインホールディングス 上席執行役員の土居由有子氏は、「NEDOの予算外となるが、本実証ではオンライン診療・服薬指導をエビデンスに基づいて確実に実施できるように、PHRの血圧データを収集した」と明かした。

  • アインホールディングス 上席執行役員 土居由有子氏

空港内への物流用ドローン離着陸の実証実験では、稚内空港周辺エリアを利用して、稚内空港での物流用ドローン発着ならびに稚内空港敷地内外への飛行を行った。空港管理者や航空局と飛行ルートを事前に共有し、航空機の離着陸のない時間帯の飛行やドローンの飛行中止が緊急に必要な場合の連絡手段や体制の確保についての調整を実施した。

ANAホールディングスでは、今後、空港と離島間や全国の空港へとドローン配送を広げていく構想を描いている。だが、飛行機が飛ばない時間だけの飛行では、貨物の量が多い空港に展開していくのは難しい。そのため、信田氏は「有人の航空管制官など、関係者との緊密な連携が必要になる」と述べた。

  • ドローン物流と航空物流の連接

地上からの距離60メートルで密猟者の人相を撮影

海獣監視は従来、猟師による陸からの目視で頭数を把握していたが、実証実験ではドローンによる上空からの撮影で、沿岸で休むアザラシと定置網周辺で遊泳するアザラシの状況把握を実施した。

実験期間には定置網周辺でアザラシが出現せず、実際に観測はできなかった。岩礁地域では外的要因(水深、透明度、対象物が移動しているかどうか)に左右されるものの、休憩中の個体を風速2メートル以下、干潮時間帯においてアザラシの個体数を把握できた。また、ドローン接近によるアザラシへの威嚇効果があることがわかったという。

  • ドローンによるアザラシの頭数把握画像

密漁監視では、密猟者を発見する目的の熱赤外線カメラや、密猟抑止目的の拡声スピーカー、逮捕目的のスポットライトとズームカメラをドローンに搭載し、さまざまな技術的検証を夜間に目視外で行った。

  • ドローンによる密漁監視の撮影画像

北海道ドローン協会 事務局長の藤原達也氏は、「洋上からの熱赤外線を使用した捜索では、速度5~7メートル/秒程度、高度80~100メートル、カメラ角度20~30度程度が捜索の効率が高まる。スピーカーを使った警告では、高度150メートル、距離600メートルの範囲が注意喚起の範囲として設定可能であることがわかった。スポットライトは距離60メートルで人相を、距離80メートルで車両のナンバープレートを撮影可能だ。環境によっては距離60メートル程度でも気づかれる可能性は低いと考えられる」と報告した。

  • 北海道ドローン協会 事務局長 藤原達也氏