TSMCは、米国商務省の指示に従って中Huawei向け半導体製品の出荷を9月中旬以降中止しているが、ほかの多くの半導体メーカー同様に改めて出荷許可を得るためのライセンス申請している。

これについて、中国の一部メディアが、TSMCは5G向けではない28nm以上の成熟プロセスを用いたデバイスのHuaweiへの出荷のライセンスをすでに獲得したと報じている。この件に対し、TSMCは2020年第3四半期業績発表の場で「当社は法令を遵守している。この件についてはコメントしない。第4四半期のHuawei向け売り上げは立たない」と述べるのとどめた。この答えでは、中国メディアの報道が正誤の判断はできない。仮にTSMCがライセンスを取得し、Huaweiが注文を出したとしても、数カ月かけて製造することになるので売り上げが立つまで数か月を要するからである。

米国は、各社へのライセンスを個別案件であるため公表しないとしており、新たな輸出禁止の拡大についても公表せずに半導体製造装置メーカーなどの該当企業へ、個別に書簡を送って指示を出しているほか、ライセンスを取得した企業もそのことを公表していないため、すべてが闇の中の状態となっている。IntelやAMDは、Huaweiへ一部の半導体デバイスの出荷を許可されたとされているが、米商務省はもちろん両社ともそのことを公表していない。その一方で、IntelはHuaweiとのサーバー開発協業を発表し、上海で9月に新製品の共同発表も行っている。現在、米国企業のほか、ソニー、キオクシア、TDK、Samsung、SK Hynix、TSMC、MediaTekなど多数の米国外の半導体・電子デバイス企業が米商務省にライセンス申請しているといわれているが、今のところ(10月16日時点)一部の米国企業以外へのライセンス発行は確認されてはいない。

米中半導体業界に詳しい情報筋によると、米商務省は、中国の半導体メモリメーカー(SamsungやSK Hynixのような中国内に工場を持つ外資系ではなく、設計・製造技術の入手先がはっきりしない中国地元資本の半導体メーカー)が製造を始めたメモリチップが米国特許を侵害していないか関係機関の応援を求めて調査を行っているようで、特許侵害が判明次第、すでに制裁を加えたJHICCのように、米国製半導体製造装置の即日輸出禁止措置を実施する方向で検討に入ったようである。

中国でもっとも半導体メモリの開発が進み、128層3D NANDの量産準備を進めているYMTCのトップは、去る6月に上海で開催されたSEMICON Chinaの基調講演で、今一番気にかけていることは、ますます厳しさが増している米中のハイテク覇権争いや貿易戦争に自社が巻き込まれないようにすることだとして、知的財産権を最重視し、2000件を超す特許を取得し、米国を含むグローバルのパートナーから1600件を超す技術ライセンスを取得することで、特許侵害訴訟が起こらないよう細心の注意を払っていることをアピールしていた。しかし、こうした同社の思惑とは裏腹に、同社が対象になるかどうかは別問題として、米国の制裁が新たな中国企業に適用される可能性がでてきたと言えるだろう。