電子ビーム(eBeam)技術による新しい半導体製造技術の啓蒙と促進をおこなっている世界規模の業界団体であるeBeam Initiative(本部は米国シリコンバレー)は、9月下旬に「2020 Photomask Technology Conference」をバーチャルで開催し、会員企業のフォトマスクメーカーや関連産業および半導体メーカー、研究機関ユーザー42社(回答者77名)に対して今夏に行ったアンケート結果を発表した。
マスクメーカーやリソグラフィ業界の専門家が、現段階で、先端マスク製造やEUVリソグラフィ技術の方向性や実現可能性をどのように見ているか以下に紹介しよう。
なお、eBeam Initiative には、フォトマスクメーカー、EDA、半導体製造装置、半導体材料、半導体製造などのメーカーや半導体素子設計会社、EDAベンダー、研究機関が加入しており、今回の回答者の割合は、マスクメーカー38% 、装置メーカー22%、EDA/IPベンダー、および研究機関各12%、デバイスメーカー6%、そのほかとなっている。日本からアドバンテスト、キヤノン、大日本印刷、富士通セミコンダクター、日立ハイテクノロジーズ、ホロン、HOYA、日本電子(JEOL)、キオクシア 、日本コントロールシステム(NCS)、ニューフレアテクノロジー、東京エレクトロン、TOOL、凸版印刷が参画しており、実際されたアンケートにも回答している。
Q:新型コロナウイルスはマスク事業の売り上げに影響があるか?
2020年については70%が「影響がない」と答えたのに対して、6%が「売り上げ増加につながる」、24%が「減少しそうだ」と答えている。2021年については、「影響がない」が56%で、「増加見込み」の24%と合わせると80%となり、減少予測は2割にとどまる見込みで、eBeam Initiativeでは、フォトマスク業界は、新型コロナウイルスの影響をほとんど受けない数少ない産業の1つととらえている。
Q:今後3年間に成長するマスク描画技術はどれか?(今後3年間に描画装置を新規購入するとしたらどの分野の装置を選ぶか?)
マスク描画装置については96%の回答者がマルチビームのEBマスク描画装置の需要が伸びると回答しており、量産使用に問題のないレベルに到達していることをうかがわせた。マルチEBの導入の背景には、スループットと微細パターンの描画性能の両立があるためだ。なお、現在は、レーザービームを用いた描画装置が圧倒的なシェアを握っている。
Q:2020年、EUVマスクはマスクメーカーの売上増加に寄与すると思うか?
多重露光からEUVリソグラフィ(EUVL)への進化により、使用マスク枚数は減少するがマスク単価は上昇する。そのような状況の元で、多重露光からEUVLへ移行することはマスクメーカーとしての売り上げ増加につながると思うか? との問いに対し、66%がポジティブ、30%が中立と回答しており、マスクメーカー各社はEUVLの普及による売り上げは増加すると見ていることをうかがわせた。
Q:EUVリソグラフィでペリクル膜が使われるようになるのはいつからだと思うか?
現在、実用化に至っていないEUVL用のマスクの保護膜であるペリクルについては、55%の回答者が、2022年までに量産で使用できるようになると回答した。
また、2023年以降が32%、時期の予想ができないが13%、不可能が1%となっており、半数以上の回答者が2022年までの比較的早期の実用化が可能と判断している背景には、Intelやimecがペリクルに関する順調な開発成果を発表していることが挙げられるだろう。
Q:2023年までに量産ラインでのEUVマスク検査に使われる技術はどれだと思うか?
アクティニック(EUV光源)のマスク検査装置については、74%の回答者が2023年までに量産で使用されると回答した。複数回答でEBのマルチビーム方式も48%の回答者が量産ラインで使われるとしている。また、EBマルチビーム方式を用いたウェハ検査をマスク検査のための用いると回答した回答者の割合は51%だった。
Q:(従来の直線パターンに加えて)曲線パターンを採用したフォトマスクが2023年までにEUVリソグラフィで量産に採用されると思うか?
回答者の94%が、2023年までには193nm ArF液浸露光用向けに曲線パターンを有するマスクが何がしかの量産に使用されると予想する一方、85%の回答者が2023年までに、EUV露光にも曲線パターンを有するマスクが使用されると予想している。
Q:逆変換露光技術(Inverse Lithography Technology:ILT)は、2020年時点で量産ラインで使われているか?
調査回答者の84%が使われていると答えている。そのうち10%がすべてのクリティカルレイヤで、その他は一部の工程で使っていると答えている。
なお、ILTとは、目標とするウェハ上の露光形状を基に、光の振る舞いを数学的に逆算することによって、理想のマスク・パターンを導き出す手法である。回路レイアウトをマスクの基本形状とし、そこに修正を加えながらウェハ上の露光形状を調整していく従来の手法の逆の手法なので逆変換露光と呼ばれる。
Q:EUVリソグラフィのTAT(2023年時点)は、193i(ArF液浸)リソグラフィ(2020年時点)のTATと比較してどちらが長いと思うか?
この問いに関しては、73%の回答者が、2023年に至ってもEUVリソグラフィの方が長いと答えている。
Q:マスク製造の過程でディープラーニングはいつから有用になると思うか?
回答者の62%が2022年までに深層学習(Deep Learning)がマスク製造のいくつかの工程で競争優位を決定付ける要素となると予想している。また、2023年以降と答えたのは34%であった。