TSMCは、EUVリソグラフィ(EUVL)工程で使用されるEUVマスク上に付着したパーティクル(異物微粒子)の除去に、従来の薬液や純水を大量に使うウエット洗浄プロセスから、より環境にやさしい「ドライクリーン技術(Dry-Clean Technique)」をすべての量産ラインに導入することで、EUVLプロセスにおける製造歩留まりの向上を図っていることを明らかにした。

ドライクリーン技術は薬液や純水のかわりに物理力でパーティクルを除去してウェハ表面を清浄化する「ドライクリーニング技術」とも異なり、付着したパーティクルを1粒ずつ組成分析して同定し、発生源を特定してその発生源を排除することにより、マスク上にパーティクルが付着せぬようにする手法である。なお、Dry-Clean Techniqueは、TSMCの独自の呼び方である。

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    クリーンルーム内でのマスク表面画像観察 (出所:TSMC Webサイト)

EUVフォトマスクは、ペリクル膜(マスクの直上に貼ってパーティクルがマスクに付着せぬように保護するほぼ透明な膜)付きとペリクル膜なしの2つのタイプに分けることができる。

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    EUVマスク。ぺリクル膜付き(左)とペリクル膜なしのマスク(右)

TSMCは、ドライクリーン技術の導入に成功しマスクへのパーティクル付着を極限まで低減できたので、量産ラインではペリクル膜なしのEUVマスクを選択しているという。これにより、光透過率を高め、露光中のエネルギー損失を減らしているという。

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    ぺリクル膜なしのEUVマスクを使用すると、(1)エネルギー損失が減り、生産性が向上する、しかし、(2)落下するパーティクルを遮蔽する膜がないので、ぺリクル膜付きEUVマスクを用いる場合に比べて、ウエット洗浄の頻度が増え、純水や薬液の消費量が増えてしまう。(3)マスク修理のための返却の頻度が高くなり、生産能力が減ってしまう。そこで、一般には伝統的なウエットクリーン・フロー(下左)にしたがいパーティクルをウエット洗浄で除去するが、TSMCでは革新的なドライクリーン・フロー(下右)にしたがってパーティクルを分析同定し、発生源を特定し、その発生源を排除することで今後パーティクルが付着しないようにして歩留まり向上の仕組みを構築した (出所:TSMC Webサイト)

落下パーティクルを分析、追跡、排除し、製品品質を向上

TSMCの品質および信頼性部門は、技術開発およびファブ運用部門と協力して、2018年からマスクに落下して付着するパーティクルによって歩留まりが低下する問題を解決することを目的に、最初にパーティクルの正体を知るための組成分析手法の共同開発を始めた。

落下源が分析技術によって正確に特定されるようになったころから、パーティクルを完全に排除できるようになったという。落下するパーティクルの分析と汚染源の排除により、1万枚ごとのマスク付着パーティクル数は従来の数百個から1桁台にまで減少し、2020年までに99%の削減率を達成できたという。同社によれば、導入以来、節水量は約735トン、薬品節約量は約36トンとしている。

TSMCは、この革新的なEUVマスクのドライクリーン技術を活用することで、世界に先駆けてEUVプロセスによる大量生産を実現しただけではなく、リソースの利用効率向上も達成した。超純水や化学薬品の削減に加えて、マスクRR(Return to Repair)の頻度も、生産サイクルタイムの制御と管理システムに基づいて削減することに成功。2018年の導入以来、EUVマスクのデューティサイクルは80%以上増加し、高度なEUVマスクの寿命も延び、累計で20億NTドル(約70億円)の改善効果が生み出されたという。

2019年にはさらに、EUVマスクのドライクリーン手法を自動化することに成功した。これにより完成した自動量産システムは、2020年1月にEUVを担当するすべての300mmウェハファブ(Fab12B、15B、18)に導入された。現在、TSMCの品質および信頼性部門は、より小さな落下粒子の分析およびクリーン技術の研究を継続的に進めており、将来の高度なプロセスに対する品質管理の基盤を築くとともの環境にやさしいグリーン製造の取り組みを維持していくとしている。

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    TSMCにおけるEUVマスクのドライクリーン技術の開発から量産ライン導入までの流れ。2018年に開発、試用、発生源データベース構築、2019年に3つのファブに導入。自動化システム開発と試用、2020年に3つの量産ファブに自動化システム導入、50nm未満の粒径のパーティクルを分析し除去できるように手法最適化 (出所:TSMC Webサイト)

現在、IntelやSamsungも先端ロジックデバイスの試作・量産ラインにEUVリソグラフィを導入する動きを加速させているが、製造歩留まりの低迷に悩まされており、TSMCだけ大量量産に成功することで独り勝ち状態を築き上げたと海外メディアなどでは伝えられている。その陰には、今回のようなパーテイクル分析・発生源データベース構築やその自動化システム開発を含む地味な活動をはじめさまざまな歩留まり向上策の取り組みがあるのであろう。