英Armは9月29日、車載および産業機器向けIPとなる「Cortex-A78AE」、「Mali-G78AE」、「Mali-C71AE」を発表した。これらの新IPに関する事前説明会の内容を基に、具体的な内容についてご紹介したい。

元々ArmはAE(Automotive Enhancement)という車載向け製品として2018年9月にCortex-A76AEを、2018年12月にCortex-A65AEをそれぞれ発表している。

今回の製品はこれらに続くものであるのだが、ちょっと方向性が変わってきた。もちろん引き続き車載向けの製品であることは間違いないのだが、これに加えて産業機器向けもターゲットにすることになった形だ(Photo01)。

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    Photo01:右が従来の自動車向けのイメージ。自動運転なので運転席が後ろを向いているというイメージらしい。左はもう完全に産業向けのロボット制御のイメージ

これに関してChet Babla氏(VP Automotive & IoT Business)から「当初AEはあくまで車載向けであったが、産業機器向けのパートナーからも、高い性能と機能安全を実現するIPの提供を要求されるようになったので、新たに産業機器向けもターゲットに含める事にした」という説明があった。

もっとも産業機器向けと一口で言っても様々な業界に向けて異なる標準規格が定められていることもあり、とりあえず取り掛かりとしては自動車向けのISO26262に加え、IEC 61508をサポートする形で提供されることになる(Photo02)。

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    Photo02:IEC 61508はSIL 3までがとりあえずのターゲットの模様。SIL 4はとりあえず後回しと思われる

さて今回発表された製品であるが、まずCortex-A78AE(Photo03)は、2020年5月に発表されたCortex-A78をベースに自動車関連を中心とした機能安全の機能を追加した製品である。

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    Photo03:性能的にはCortex-A78そのままで、Cortex-A77比で20%、Cortex-A76比で30%の性能改善とされる

ISO26262 ASIL-B/DとIEC 61508 SIL2/3に対応しているが、特徴として新しいHybridモードのSplit Lockをサポートしている。Split-Lockは以前の記事でもちょっと紹介したが、簡単におさらいしておきたい(Photo04)。

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    Photo04:Split Modeの欠点は、プロセッサの動作を監視するDSU-AEが故障を起こすと、クラスタ全体が止まってしまう事である

自動車向けの場合、CPUコアは4つで1つのクラスタを構成している。ASIL BとかSIL 2の場合、この4つのコアを協調動作させなくても(Split Mode)故障率の目標の達成が可能だが、ASIL B/SIL 3になると故障率のターゲットが2桁減る関係で、コアの単独モードでは達成できない。そこで2つのコアを連動させるLock Modeを利用することで故障率を下げる形になる。Split Lockでは、起動時にこのクラスタ単位でLock ModeとSplit Modeのどちらで起動するか選べるというものだが、Cortex-A78AEではこのDSU-AEを常にLock Modeで動作させるHybrid Split Modeを実装した(Photo05)。

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    Photo05:ただこれ、Cortex-A76AEでも同じことが出来そうな気もするのだが、それについては確認し忘れてしまった

この結果として、DSU-AEが片方故障しても、システム全体の動作に影響が出なくなるという訳だ(Photo06)。

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    Photo06:ただしクラスタ全体の故障率は、要するにコアの故障率そのままになるから、引き続きASIL-B/SIL 2相当である

次がGPU。Mali-G78AE(Photo07)はMali-G78をベースとした製品だが、さすがにASIL-D/SL-3対応は提供されていない。

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    Photo07:コンシューマ向けは、1~6コアはMali-G68、7コア以上がMali-G78となっていたが、AEでは全部同じくMali-G78AEとされることになったようだ

表示部はまだASIL-B/SIL 2で十分ということであろう。その代わりAE向けの機能として最大4つまでのPartitioning機能が提供される。要するに単に画面表示だけでなく、GPGPUやAI Inference処理などで使う事もある、という前提で、内部のシェーダを任意のサイズでパーティショニングして、それぞれ別の処理に割り当てられるというものだ。もちろん従来からの仮想化を利用したパーティショニングも併用可能である。

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    Photo08:最近はインスツルメントクラスタとかナビなどのHMIの充実に向けた要望が激しいので、高機能なGPUが求められつつあるという事も一因であろう

最後がISPのMali-G71AEである(Photo09)。元々Armは2019年にMali-C71を自動車向けに発表しており、機能的には別に変化が無いが、ISO 26262 ASIL-B/IEC 61508 SIL 2への対応を行ったのが主な違いである。

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    Photo09:元々Mali-C71の発表時に、機能安全向けソフトウェアの開発を予定しているというアナウンスが行われており、これが実現した形だ

Mali-C71発表時と異なり産業機器向けも用途に加わっているが、ロボットなどでも安全確認とか動作のために多数のカメラを利用するから、こうしたものが提供されるのは理に適っている。

これに、すでに発表済のCortex-A76AEやCortex-A65AEを組み合わせる事で、自動車向けのみならず産業機器向けにも利用できる広範な製品ポートフォリオを実現できる、との事であった(Photo10)。

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    Photo10:まぁCortex-A78AEがあればCortex-A76AEは要らない、という議論もあるが、価格とか要求されるターゲット性能を鑑みてCortex-A76AEを敢えて選ぶユーザーも無いとはいえない

なお、今回発表されたCortex-A78AE/Mali-G78AE/Mali-C71AEは、いずれもすでにライセンスの提供が開始されている。