Intelは7月23日(米国時間)、決算発表に合わせて開発を進めている7nmプロセスの製造歩留まりが、量産に移行するための社内で定められた値に1年あまりにわたって到達できず、CPU製品の生産計画が従来よりも遅れていることを明らかにした。

Samsung ElectronicsのシステムLSI/ファウンドリ事業部門でも、EUVを多用する5nmプロセスを用いた先端ロジックデバイスの歩留まり低迷が続いており、Qualcommをはじめとする先端プロセス製品を必要とする顧客向けに出荷に支障をきたすのではないかとの噂がでている。Intelの株価は同社のこの発表後、一気に16%ほど下げた一方でTSMCの株価は11%上昇させるなど、超微細プロセスの半導体量産に関してはTSMCの1人勝ちが鮮明になってきた。

Intelが7nm製造を他社に委託する可能性も?!

Intelの最先端プロセス開発・試作ファブD1Xのあるオレゴン州の地元紙The Oregonianは7月24日付けで「Intelは、来たる7nmプロセッサの開発に1年遅れていると語った。これは、同社が現世代の10nmチップを生産するために何年もの遅れを経験してきた後の再び不吉な兆候である」と伝えている。Intelによると、7nmの市場への投入は2022年の終わりか2023年の初めになるという。

さらに同紙は、Intel CEOのBob Swan氏が、Intelが独自のプロセステクノロジーを提供できない場合、半導体デバイスの生産を他メーカー(ファウンドリ)に生産委託する「緊急時対応計画」(Contingency Plan)をすでに策定していると語ったことも伝えている。

さらにOregonian紙は、「世界でもっとも先進的なチップメーカーとしての地位を長く大切にしてきたIntelが2万人もの従業員を抱えるD1X試作開発ファブに数十億ドル規模の拡張に1年を費やしてきているが、D1Xにとって『緊急時対応計画』が何を意味するのかは明確ではないものの、恥辱的な計画だ」として、D1Xの将来に関する地元の不安を伝えている。Intelは、オレゴン州にとって最大の雇用主であり、同社が製造のアウトソーシングを行う様になれば、オレゴン州の雇用に重大な影響をもたらし、あくまでも仮定の話だが、もしもIntelがD1Xを売却するような最悪の事態となれば、オレゴンの経済は破綻しかねないとまで言及している。

  • Intel D1X

    Intel D1Xファブ内部の様子 (出所:Intel Press Kit)

プロセスの先進性がなくなれば自社製造のメリットも消失へ

Intelが、半導体製造をアウトソーシングするようなことになれば、高収益性が損なわれ、アーキテクチャの設計と製造を調整することでこれまで享受してきた会社の技術的・経済的利点を犠牲にする可能性がある。この点が投資家の不評を買って株価の急落をもたらしたようである。

Intelは、14nmプロセスまでは、真っ先に歪みSiやhigh-k・メタルゲート、FinFETなどといった新規プロセス技術を導入することで、TSMC、Samsung、GLOBALFOUNDRIES(GF)などの競合に差をつけてトップを快走して来た。しかし、10nmプロセスの開発でつまづき、長期に渡って製造トラブルに起因する製造歩留まり低迷が続いており、未だにPC用MPUの供給不足が解決されていない。

他社に対する製造プロセスの優位性がなくなってしまっては、もはや自社で製造する利点は消え失せ、むしろ他社の高歩留まりの製造プロセスを使ったほうがメリットとなる可能性が高くなる。ましてや、永遠のライバルであるAMDが、TSMCの最先端プロセスを使った新製品を市場に投入し、人気を集めており、微細化が思うように進まないIntelも内心穏やかではないだろう。Intelの微細化プロセスに不安を持つAppleも、Intel製プロセッサの採用をやめて自社設計プロセッサをTSMCに製造委託することを決めている。

このまま製造歩留まりが上がらなければ、Intelがファブライト化を進め、最終的にはファブレスになる可能性があると語る業界関係者もいるほどである。

歩留まり低下の原因はEUVか?

Intelは、7nmプロセスからEUVリソグラフィを生産プロセスとして導入することにしている。10nm世代まではArF液浸にマルチパターニング技術を組み合わせて微細化を図ってきたが、7nmからはEUVを導入することとしており、2019年末までにASMLに最新の量産機を複数台発注し、2021~2022年の量産に間に合わせると見られていた。

このため業界の関係者からは、IntelがSamsung同様にEUVリソグラフィの生産導入段階でトラブルを抱えているのではないかとの見方を示す声も出ている。先行してEUVを使いこなすことで、微細プロセスの開発を進めてきたTSMCは、すでに7nmや5nmプロセスを活用してAppleの次世代iPhone用プロセッサやHuawei向けプロセッサの量産を進めており、2021年には3nmプロセスを用いたリスク生産も計画していると言われている。

なお、Intel、Samsung、TSMC各社が語る製造プロセスはかつてのITRSが規定していたような厳密はものではなく、各社が自由に数字を語っており、必ずしも数値が小さいから性能が上とは言えないことに注意する必要がある。