宇宙航空研究開発機構(JAXA)は6月30日、2020年度の大樹航空宇宙実験場における実験計画を公表した。

それによると、今回明らかにされた実験としては「大気球による宇宙科学研究」と「航空機等に関する技術研究」の2つの活動が計画されているという。

大気球による宇宙科学研究

大気球は、限りなく宇宙に近い高度に長くとどまることができることから、日本では長年にわたって研究活用がなされてきた。2020年度の実験は、主に2019年度の実施を見送った実験を中心に、理学観測2実験、工学実証3実験を6月下旬から9月上旬にかけて実施する予定だとしている。

実は2019年度は2019年5月27日~8月1日にかけて実施されたが、ヘリウムガスが十分に確保できなかったため、当初予定していた理学観測3実験、工学実証実験4実験のうち、理学実験1実験、工学実証実験1実験のみを実施。それ以外は2020年度へと先延ばしされていた。今回は実験に必要なヘリウムガスの確保ができたため、すべての実験ができる見通しだという。

大気球を用いた5種類の実験の名称は以下のとおり。

  1. 工学実証:火星探査用飛行機の高高度飛行試験
  2. 理学観測:気球VLBI実験
  3. 工学実証:皮膜に網をかぶせたスーパープレッシャー気球の性能評価
  4. 理学観測:マルチクロックトレーサーによる大気年代の高精度化
  5. 極薄ペロブスカイト太陽電池の気球飛翔

火星探査用飛行機をなぜ気球で行うのかというと、火星の大気を再現しようと思うと、風洞試験では風速または気圧を大きく下げる必要があり、高い精度の空力データを取得することが難しいが、実は高度35km程度の地球大気が、火星の飛行環境を模擬できるためであり、この高度での機体の空力データの取得を目指すとしている。

また、気球VLBI実験は、気球を用いたVLBI電波干渉計の実現可能性を探ることを目的に実施されるもの。ただし、気球はその場に動かずにとどまっていることができないため、搭載される高精度時計の水晶発振子が振動によってずれるといった技術的な課題があり、そうした課題の解決に向けた技術検証を主として行うとしている。

空機等に関する技術研究

一方の空機等に関する技術研究も大きく以下の5つに分けられる。

  1. 救難ヘリコプタの飛行情報をパイロットに表示
  2. ヘリコプタの安全性・利便性向上 ~障害物検知の飛行実験~
  3. 小型無人機の自動飛行・ミッション性能向上技術の研究
  4. 火星衛星探査計画(MMX)搭載LIDAR EM性能確認試験
  5. 宇宙との光通信実現のための通信技術と航空機に対する安全確保技術の実証実験

救難ヘリコプタ用状況認識支援システム(SEVERH)は、ヘリコプタが細かい動きをするためにはパイロットが外の様子を見ながら操縦する必要があるが、夜間や悪天候時などでは外の状況を把握することが難しいという課題があったことから、地形データベースと3D LiDARの情報を組み合わせた地形情報と、赤外線画像による夜間時の情報補足をHMDを通じてパイロットに提供することで、操縦の際の負担軽減を図ろうというもの。MMX向けLIDARは、はやぶさ2の4倍となる測距距離100kmにまで伸ばしたもので、今回はそのエンジニアリングモデル(EM)の機能、性能などの確認を行う予定だとしている。

なお、これらの実験は6月下旬から12月にかけて実施される予定となっている。