宇宙航空研究開発機構(JAXA)は8月2日、乱気流事故防止機体技術の実証(SafeAvio)プロジェクトで開発してきた晴天乱気流検知システムを、米ボーイングが進めている「エコデモンストレーター・プログラム(ecoDemonstrator)2018」において、大型機(ボーイング777)に搭載して、飛行試験を行うことを発表した。

大型航空機の事故の約半数が乱気流が要因と言われており、中でも晴天乱気流と呼ばれる降水を伴わない乱気流は従来の気象レーダーで探知することができないため、その対策が求められていた。

同システムは、電波を使うレーダーではなく、レーザー光が空気中の塵に反射した信号から乱気流を検知することが可能なLiDAR技術を用いて開発されたもので、重量83.7kgで、機体前方の乱気流を検知できる距離17.5km(平均)を実現。これにより、例えば時速870km程度で飛行する航空機であっても、14km先の乱気流に対し、約60秒の猶予を得ることが可能となるという。これは、シートベルト着用に必要な1分以上の対処時間を与えることを目指したもので、17.5kmとすると約70秒間に相当するとしており、シートベルト非着用による負傷者を6割減らす可能性があるとされている。

LiDARの仕様はレーザー波長1.5μm、光出力3.3W、ビーム経150mm+50mm、重量83.7kg、消費電力936Wとなっている。1.5μmの波長を選択したことについて、JAXA 航空技術部門 航空時術実証開発ユニット ウエザー・セイフティ・アビオニクス技術研究グループの町田茂氏は、「海外では紫外線レーザー発振器を利用した取り組みなどが進められているが、そうした波長に比べて1.5μmはアイセーフティであること。ならびに、国内で高性能な1.5μm波長を用いたファイバアンプが存在し、さらなる高性能化、小型軽量化が図れそうだ、という判断から、選択した」とする。また、LiDARは±6°の角度でゆっくりとだが、動かすことが可能であるため、着陸時の旋回運動の際の、正面以外の乱気流検知などにも応用が期待できるとしている。

今回JAXAが開発した晴天乱気流検知システムの概要

これまでの実験としては、2016年12月17日から2017年2月10日にかけて、小型ジェット機に搭載して、高度2000~40000ftの水平飛行を19回実施。最大観測レンジの確認(仕様は32km。実証実験としてはそれ以上を確認できる場合もあったという)と、観測データをもとにパイロットへの情報提供システムの確認などを行ってきた。

今回のボーイング777への搭載は、晴天乱気流検知システムの実用化に向けた第2段階に位置づけられるもの。同プログラムそのものは2012年より開始されたもので、航空機に関する技術開発のスピードを加速させることを目指すほか、技術パートナーとの連携強化によるイノベーションの創出を図り、燃費向上や軽量化などを含めた、航空機の安全性向上や利便性向上も目指すものとなっている。

ecoDemonstrator 2018で実施される技術試験の例。晴天乱気流検知システムのほかにも、新素材や推進システム、コックピットの改良など複数のプログラムが用意されているという。画像のボーイング777が試験機となる予定だという

2018年のプログラムには、FedExが用いていたボーイング777(貨物機)を使用する予定。これまでのプログラムでは、ボーイング737やボーイング757、ボーイング787なども用いられてきたが、「試験に必要とされるエンジンの大きさに基づいたプラットフォームとして考えた場合、ボーイング777が最適であった」(Boeing Commercial Airplanes 2018 ecoDemonstrator Leader Enviromental PerformanceのDuglas.P.Christensen氏)とする。スケジュールとしては、機体が戻ってくるのが2018年1月とのことで、2月末までの間に機材搭載やシステム改良などを施し、3月~4月にかけて実際の試験を実施する予定で、その期間中、同システム専用の試験日を複数設ける予定だという。

JAXAが考えている晴天乱気流検知システムの実用化に向けたプロセスロードマップ

ボーイングが進めているecoDemonstratorの今後の見通し。毎年、その年に行うべき技術試験の内容などに合致する機体を選択してきた

なお、JAXAでは、同システムの航空機への搭載に向けたロードマップとして、最初の5年間を研究フェーズ、次の5年間を今回のボーイングとの協力も含め、装備品メーカー主体で活動し、標準化を進めるフェーズ、そしてその次の5年間を航空当局などに認識、搭載を進めてもらうフェーズとしている。またボーイングのエコデモンストレーター・プログラムは、今後も独立して進められていく予定で、すでに2019年にはボーイング787を用いてスマートキャビン関連の技術実証などを行うことを計画しているほか、2021年には小型の電気航空機や自動操縦の試験を実施することを計画しているという。

左からJAXAの町田茂氏、Boeing Resarch & Technology Research & Technology Projevt DirectorのCharlie Svoboda氏、BoeingのDuglas.P.Christensen氏