前回、本連載の大前提となる「CRMアプリケーションとは何か」について説明しました。今回は、実際にCRMアプリケーションを導入するとなった場合に、どのように製品選定・購入すればよいのかについて考えてみましょう。具体的な製品やサービスについてあれこれ言う前に、自社にとって最適なアプリケーションを選ぶために、事前に把握・検討しておくべき事柄について説明します。

誰が、何のために使うのか

CRMアプリケーションに限らず、どんなITツールでも同じことが言えますが、「誰が何のために使うのか」を明確にしておくことが必要です。この部分が曖昧だと、とりあえず手に入れやすいものや、広告などでよく見かける有名なものを選んだり、ソリューション・プロバイダーから提案されたものをそのまま受け入れてしまったりします。しかし、具体的に何の役に立つのかもはっきりしていないのに、新しいツールを使ってもらうのは難しいものです。結果的に自社内に浸透せず、利用されないままになる可能性があります。

第1回でお話したとおり、CRMとは顧客情報を管理し、それぞれの顧客に対して適切な対応を行うことで顧客満足度を高め、ひいては売上拡大を目指すことを指しています。それをより効率的に行うツールがCRMアプリケーションです。その導入にあたっては、まず自社の売上を上げるプロセス、つまり自社の営業活動をよく整理して、プロセスのどの部分をCRMアプリケーションによって改善すべきなのか、事前によく検討しておく必要があります。

一般的な営業活動の流れと、それに伴うCRMプロセス

図は、一般的な営業活動の流れと、それに伴うCRMプロセスです。CRMアプリケーションを使う目的には、「バラバラの顧客情報をデータ化して一元管理したい」とか、「営業活動の記録と共有のために使いたい」、「マーケティング活動に利用したい」、「集められたデータを分析して意思決定まで行いたい」といった具合に、さまざまなものが考えられます。例えば、データを元に意志決定を行いたいのであれば、分析やレポートの機能が充実しているものを選ぶべきですし、そもそもデータがきちんと収集できるような運用を徹底しておかなければなりません。

現行業務のプロセスを整理・分析することで、検討の範囲(使用するタイミング、目的、ユーザー)が明確になり、ツール選定の判断基準になります。例えば、「営業担当者の日々の業務を効率化させたい」、「上司が日報を確認したい」といった場合は、外回りの営業担当者が使いやすいようなモバイル対応しているもの、モバイルでの使い勝手が良いアプリケーションが良いでしょう。

また、プロセスの上流過程にあたる顧客開拓の部分を改善したい場合、マーケティング部門がマーケティング・オートメーションなどのツールと連携させたいと考えているかもしれません。CRMアプリケーションをLINEやTwitter、FacebookなどのSNSと連携させると、より大きな効果を見込めることがあるからです。そうしたニーズは、あらかじめ拾っておきたいところです。

さらに、自社の顧客の性質もツール選定に関係します。例えば、一般消費者向けの製品やサービスのように店舗で販売していて、全国に数万人規模の顧客がいる場合、個々の顧客の属性を管理するよりも、データを分析して全体の傾向を把握したいというニーズのほうが大きい可能性があります。

一方、年間の受注件数が少なく、営業1人あたりが対応する顧客数も多くない商材の場合、わざわざCRMアプリケーションを導入する必要がないかもしれません。営業担当者の頭の中や手帳に記録されていればよいようなデータについては、IT化といってもCRMアプリケーションではなく、Office365で管理すれば十分というケースもあるのです。

このように目的を明確化させるのと並行して検討しておくべきなのは、「誰がCRMアプリケーションを管理するのか」ということです。「基本的にはマーケティング部門が管理するが、ユーザーの追加は営業部門に任せる」など、誰がどのようにシステムを管理するのかについてもよく検討しておきましょう。

その他、セキュリティ面や、権限・ユーザーの管理機能、使いやすさなど、システムの管理/運用面のチェックは必須です。

最適な購入方法について考える

クラウド型で提供されるCRMアプリケーションの場合、わざわざソリューション・プロバイダーを通じて購入しなくても、オンラインでサインアップすれば利用できます。トライアル期間を設けている場合もあるため、まずは小規模で試してみて、社内に展開できそうであれば正式採用するといったことが可能です。ただし、煩雑な初期設定や既存データの取り込みが必要だったり、カスタマイズが必要だったりするのであれば、ソリューション・プロバイダーを通じて購入するほうが良いでしょう。

その場合、今度は「どのプロバイダーを選ぶか」が問題になります。基本的には、長年の実績があって多くの顧客を抱えており、豊富なサービスを提供できる大手プロバイダーを選べば間違いありません。しかし、そういったプロバイダーの場合、こちらがベンチャー企業や中小企業であったとしても、身の丈に合わない壮大な提案をされてしまう可能性があります。

では、中堅どころなら良いかと言うとその限りでもありません。中堅プロバイダーは専門性が高いことが多く、親身になってくれる点は良いのですが、将来的により高度な活用を検討したくなったとき、そのプロバイダーだけでは対応しきれなくなる可能性があるからです。

例えば、バックエンドの業務システムや高度なマーケティング・ツールと連携したいとなった場合、これまでお願いしていたプロバイダーはCRM領域だけを専門にしているので対応できない……といった具合です。

プロバイダーを選定する際には、こうした大手/中堅プロバイダーのメリット/デメリットを踏まえたうえで、検討する必要があります。

とは言え、これから初めてCRMを導入する企業では、将来的な連携やスケーラビリティまで想定できないかもしれません。その場合、まずは「自社にあったアプリケーションを販売しているかどうか」、「ニーズを満たしてくれるかどうか」、「期待以上のサービスを提供してくれるかどうか」が選定のポイントになるでしょう。

なお、フリーで利用できるCRMアプリケーションもありますが、導入を検討する際には注意が必要です。そうした製品は不具合対応などのサポート体制が不十分なために、運用管理の工数が想定以上にかかるケースが少なくないからです。「アプリケーションの導入によって売上向上を目指していたはずが、いつの間にかアプリケーションをうまく使うこと自体が目的になっていた」などという事態が起きかねません。

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今回は、自社に合ったCRMアプリケーションを選ぶために把握・検討しておくべき事柄について説明しました。適切なITツールを迅速に導入するには、常日頃から複数のソリューションを調査し、できれば実際に試しておくのが理想です。そのうえで、現状と目的を把握すれば、使うべきツールがわかります。導入そのものではなく、選択のために時間をかけることで、導入効果が高まるのです。

次回は、具体的にどういったCRMアプリケーションを選べばよいのか、いくつかのアプリケーションを例に出しながら説明していきます。

長谷川 雅宏
日本オラクル株式会社を経て、2008年ピープルデザイン株式会社を設立。CRM、ERPなどの基幹システムの導入コンサルティングやプロジェクトマネジメントと、アドテクノロジーをベースとしたデジタルマーケティングの領域における導入プロジェクトや新規事業開発の支援などを通じて、ITを活用した今あるべき業務スタイルの提案を行っている。