はじめに

本連載では、IT部門に配属されたばかり、あるいは、システム開発の経験はあるもののパッケージ化された業務システムの導入は初めてといったIT部門の担当者向けに、CRMアプリケーションを導入する際に検討すべきポイントについて解説していきます。初心者向けではありますが、「かつて導入を試みたが、うまくいかなかった」という経験がある方にも有益な内容になれば幸いです。

初回となる今回は、「CRMアプリケーションとは何か」について、最近の動向を交えつつご説明します。そして次回以降、適切なアプリケーションを選ぶためのポイントを解説するとともに、具体的なアプリケーションを紹介していく予定です。

何のためにCRMを導入するのか

CRM(Customer Relationship Management: 顧客関係管理)は、顧客の属性や顧客への対応履歴(商談の履歴など)を管理して、それぞれの顧客により適切な対応を行うことで顧客満足度を高め、売上拡大を目指すことを指します。個人であれば年代や性別、地域、趣向など、また、企業であれば業種や企業規模など、顧客の属性が違えば、行うべき営業スタイルやマーケティング施策も変わってきます。例えば、これまでにどのような営業アプローチをしてきたかや、顧客は少し興味を持っている程度なのか、もうすぐ商談成立に至りそうなレベルなのかといった状況を把握し、それぞれの段階に適した対応をすることで、成約率の向上が期待できるでしょう。

こうした顧客管理は、たいていの場合、長期にわたって実施することになります。例えば、健康食品や化粧品のように短期間で消費するものであれば、再購入/追加購入を促すことになるでしょうし、車や住宅のように購入回数は少なくても、アフター・サービスの需要があるものもあります。

「一度商品を売ったらおしまい」ではなく、「一度買っていただいたお客様に、さらに喜んでもらえそうな商品を紹介する」ことで、より良い関係を築ければ、売る側だけでなく顧客にとってもメリットが大きいのは想像できると思います。これは、優良顧客、いわゆる”お得意様”の確保にもつながるはずです。

進化する顧客管理

顧客管理そのものは、ここ数年で発生した概念ではありません。数百年以上の歴史の中で自然と培われてきた考え方ですし、個人商店から大企業まで、どんな商売でも当てはまります。ただし、昔と今とで大きく変わったのは、情報技術の発展により、顧客に関する情報が、営業担当者の頭の中や手帳ではなく、データとして管理/共有できるようになったということです。

CRMのためのアプリケーションが登場したばかりの頃は、顧客や商談の情報が主な管理項目で、主体となって使うのは営業部門でした。これは、SFA(Sales Force Automation: 営業支援システム)と呼ばれることもあります。その後、マーケティングやコールセンターを含むカスタマー・サポート業務のための機能が取り込まれ、今のCRMアプリケーションが形作られてきました。

その過程で、モバイル端末の進化やクラウドの登場など、CRMアプリケーションを取り巻く環境は大きく変化しました。外出が多い営業担当者にとって、顧客情報にモバイルでアクセスできるメリットは非常に大きいと言えます。また、クラウド・サービスとして利用できることで、システムの導入/管理にかかるIT部門の負担も減りました。こうしたことから、かつては大企業向けだったシステムの導入を中小規模の企業も検討するようになったのです。

今も、CRMアプリケーションは単なる顧客や商談データの管理ツールでなく、位置情報システムや分析ツールなどとも連携して売上を拡大させ、企業価値を高めるためのツールとして、年々進化しています。

次々に生まれる新たな試み

CRMアプリケーションの発展に影響を与えているのは、技術的な進化だけではありません。すでに先進的な企業では、ブログやTwitter、Facebookのようなソーシャル・ネットワーク上のコンテンツを顧客属性として取り込み、よりその顧客にマッチしたサービスを提供したり、プロモーションを実施したりといった施策に取り組んでいます。例えば、資料送付やトライアルの申し込みがあると、問い合わせてきた担当者のFacebookまでチェックしてから連絡をするといった具合です。また最近では、オンラインでの見込み顧客の獲得に効率性が求められており、マーケティング・オートメーションとの連携のニーズも高まっています。

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今回は、「CRMアプリケーションとは何か」について、最近の動向を交えて説明しました。本文でも述べたように、顧客管理自体ははるか昔から行われてきたものです。おそらく読者の企業でも、やみくもに営業活動をしているわけではなく、何かしらの指針を持ち、それに沿った施策を行っていることでしょう。そこで適切なCRMアプリケーションを使うことにより、より効果的/効率的な顧客管理と施策の実行ができるようになります。

では、どのようなCRMアプリケーションを選べばよいのでしょうか。そんな疑問にお答えすべく、次回からは、プロバイダー選定や導入にあたっての留意点について説明していきたいと思います。

長谷川 雅宏
日本オラクル株式会社を経て、2008年ピープルデザイン株式会社を設立。CRM、ERPなどの基幹システムの導入コンサルティングやプロジェクトマネジメントと、アドテクノロジーをベースとしたデジタルマーケティングの領域における導入プロジェクトや新規事業開発の支援などを通じて、ITを活用した今あるべき業務スタイルの提案を行っている。