米カリフォルニア州マウンテンビューにあるコンピュータ歴史博物館でWebブラウザの拡張機能の開発者カンファレンス「Add-on-Con」が開催された。

今月9日にGoogleがChromeの拡張機能のベータ提供を開始した。Chromeのベータリリース以来、拡張機能はユーザーからの要望のトップを独走してきたという。ユーザーはアドオンによるブラウザのカスタマイズに熱心であり、Webブラウザ・メーカーの多くは拡張機能の拡充に力を注いでいる。しかしながらアドオン市場の見通しは不透明だ。Firefoxのカスタマイズ機能として拡大してきたアドオンは、オープンソース・コミュニティティを中心にフリーウエアとして成長してきた。ユーザーは無料になれきっている。ユーザーの規模は大きいものの、商用ソフトウエア市場としては非常に規模が小さいというギャップがある。その溝をいかにして埋めるかが、今回のAdd-on-Conのメインテーマとなった。

Add-on-Con、オープニング基調講演は会場中でアドオンストアの必要性を議論

オープニングのキーノートは「アドオンにマーケットプレースは必要か?」というパネルセッションだった。XmarksのJames Joaquin氏いわく、アドオン市場には「無料と1セント(約0.9円)の間にきわめて高いハードルがある」。それほど「アドオンは無料」がユーザーに定着している。だが追い風も吹き始めている。AppleのApp Storeの成功で、ユーザーがオンライン・アプリケーションストアを受け入れる環境が整ってきた。加えてChromeの登場以降、アプリケーションの実行環境としてWebブラウザに対するユーザーの理解が急速に深まっている。このチャンスにうまく乗じれば、有料化へのハードルを越えられるという点でパネルの意見は一致した。では、アドオンを有料で提供するマーケットプレースは具体的に検討されているのだろうか?

MozollaのJustin Scott氏によると、2010年にFirefox用アドオンのマーケットプレース開設を計画しているという。現在addons.mozilla.org(AMO)でアドオンに対するユーザからの寄付を受け付けるプログラムを提供しており、同プログラムのデータ、さらに開発者の意見やコメントを参考にしながら開設の準備を進めていく。

アドオンの価格はカフェラテ1杯ぐらい

AMOの寄付プログラムではアドオン開発者が寄付の金額の提案を行えるようになっている。そのデータがマーケットプレースにおけるアドオンの価格設定の参考になる。Scott氏によると、もっとも効率的に寄付が集まるのは4-6ドル。5ドル以下だったものを5-10ドルに上げると寄付数が著しく減少する。10ドル以上は「寄付してくれる人もいる」という状況だという。人気アドオンになると、月に1,000ドルぐらいの寄付金を集めるそうだ。同プログラムを利用しているXmarksは試験的に寄付金の提案を5ドル→10ドル→7ドルと変えてきた。その経験からJoaquin氏はアドオンの適正価格を「カフェラテ1杯(3-4ドル)ぐらい」と考えている。

addons.mozilla.org(AMO)の寄付プログラムを利用しているXmarks

マーケットプレース開設に際してはトライアル(試用)の必要性も指摘された。オンライン音楽ストアのユーザーは試聴、またはテレビやラジオで聴いたことがあるから安心して99セントの曲を買う。有料アドオンの場合は実際にユーザーが触れられる機会が少なく、ユーザーの信頼や評価を得にくい。この問題はMozillaも認識しており、現在寄付プログラムではダウンロード時に寄付を呼びかけているが、実際に使用してからユーザーが寄付を検討できる仕組みの導入を考えているそうだ。

考えられる問題として「クロス-ブラウザ、クロス-プラットフォーム」も挙げられた。ブックマーク同期のXmarksのようなアドオンは、主要なWebブラウザ、ブラウザが対応するすべてのOSをサポートしてこそ大きな価値が生まれる。そのような「クロス-ブラウザ」なアドオンの場合、Firefox用アドオンのマーケットプレースが開設されたとしても、ほかのブラウザ向けのマーケットプレースがなければ、有料提供に移行できない。「ビジネス的にもクロス-ブラウザが実現しなければ、われわれがマーケットプレースに参加するのは難しい」とJoaquin氏。

クロス-ブラウザの問題を考えると、各ブラウザ専用ではなく、すべてのブラウザをカバーするサードパーティによるアドオン・ストアの方が、効果的にアドオン市場の成長をサポートできるという声も出てきた。米国ではAmazon.comがDRMフリーのMP3形式の音楽をダウンロード販売しているが、ほぼすべてのポータブル音楽プレーヤーと携帯電話をサポートする同ストアへの評価は高い。

MozillaのScott氏もサードパーティのアドオンストアを歓迎する姿勢を示した。ただし「サードパーティのアドオンストアをFirefoxの検索ボックスに組み込んではどうか?」という提案に対しては、ユーザーの利用状況を見極めていく必要があるものの、現時点では「サポートするのは難しい」と述べた。サードパーティのアドオンストアがストア用のアドオンを提供するのは問題ないそうだ。

「Mozillaは収入をアドオン開発者に還元すべき」という声も

マーケットプレース以外の収益モデルとしては、会場の開発者からFirefox向けに面白いアイディアが出てきた。現在MozillaはGoogle検索を通じて大きな収入を得ている。言いかえれば、これはユーザーのFirefox利用からの収入であり、Firefoxのエコシステム拡大のためにMozillaは収入をアドオン開発者に還元すべきと提案した。収入から、たとえば毎月10,000ドルをアドオン開発者サポート基金に充てる。そしてアドオンをダウンロードしたユーザーに、基金から5セントや10セントといった少額の寄付枠を提供する。寄付枠をもらったユーザーは、それを気に入ったアドオンに寄付する。これならばフリーウエアのまま開発者は収入を得られる。アドオンが充実しFirefoxユーザーが増えれば、広告収入がアップしアドオン開発者に還元される額もさらに増えるだろう。

こうしたユニークなアイディアも出てきたが、全体的にはアドオン・マーケットプレースへの期待が目立った。ただし課題は山積みで、来年マーケットプレースが実現したとしても、しばらくはマーケットプレースの問題点だけが浮き彫りになりそうだ。中でも「クロス-ブラウザ、クロス-プラットフォーム」は、次回のAdd-on-Conのメインテーマ有力候補だ。