米小売大手Walmartの一部の店舗やTargetの棚からポケモンカードが消えた。他にも、遊戯王カード、MLB/NFL/NBAのスポーツトレーディングカードの販売が一時中止になった。

人気の過熱が原因で、カードを求めるコレクターが店に殺到してトラブルが頻発していたためだ。小競り合いから相手を拳銃で威嚇する事件まで発生し、買い物客と従業員の安全のために店舗での販売中止を決めた(オンラインでは販売を継続)。

トレーディングカードで「なぜ、そこまで…」と思うかもしれないが、下のグラフを見て欲しい。「S&P 500」と「PWCC 500」の2008年1月から今年3月までのROI(投資利益率)だ。S&P 500は、NYSEやNASDAQなどに上場している代表的な株式銘柄500。そして、PWCC 500はトレーディングカード界のS&P 500と呼ばれるインデックスである。

  • eBayによるPWCC 500インデックス、S&P 500とROI比較

    eBayによるPWCC 500インデックス、S&P 500とROI比較

S&P 500のROIは175%、PWCC 500は756%だ。つまり、2008年に米国株とトレーディングカードに同じ額の投資したとして、12年後を比べると、トレーディングカードのポートフォリオの方が株式の4倍以上のリターンになる。

4月26日時点のスポーツトレーディングカードの最高額は、今年1月に落札されたミッキー・マントルのカード(1952)で520万ドル(約5億7000万ドル)。これはレジェンド選手の70年前のルーキーカードで、骨董品としての価値も高い。だが、今年4月にレブロン・ジェームスのサイン入りルーキーパッチ(2003-04)も520万ドルで落札された。現役選手のカードでも500万ドル超になり得るから、トレーディングカードは今、入荷されたら右から左に売れていく。

トレーディングカードの転売価格は、昨年春に新型コロナ禍が始まった後から高騰し始めた。新型コロナ禍の"ステイアットホーム"で自宅での時間を持て余していたところにコロナ禍の給付金が舞い込み、旅行や外食にも行けず、投資ブームが起こったものの、株や仮想通貨は分からないという人も多い。その点、トレーディングカードはスポーツファンやゲーム好きだったら価値が分かる。シンプルに投資できるところからブームに火がついた。

とはいえ、この半年ぐらいの過熱はバブルを思わせる。トレーディングカードの価値の源泉を考えると、大人による争奪戦で子供達がカードを入手できない現状は好ましくはない。そのため、Pokémon Caompanyは今年2月に入手困難なPokémon Trading Card Game製品については需要を満たすように追加で印刷することを明らかにした。

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だが、トレーディングカード会社の多くは30年前の苦い経験から、供給量を増やすことに慎重である。

トレーディングカードは、80年代にもスポーツトレーディングカードが大きなブームになった。その時に刷れば売れると考えたトレーディングカード会社はカードの供給を増やした。当時はNBAがマイケル・ジョーダン、マジック・ジョンソンやラリー・バードが活躍していた黄金期で、MLBにも二刀流のボー・ジャクソンやケン・グリフィー Jr.といった人気選手がいた。ところが、カードの希少性が失われてブームが下火になり、価値も下落。"Junk Wax"時代(1987-1994)と呼ばれることになる。

だからといって、トレーディングカードがただ投機対象になっていくのもトレーディングカード会社が望むところではない。供給を抑えて飢餓を煽るだけでは、いずれトレーディングカードが限られた人の間にしか流通せず、トレーディングカードそのものの人気が失われてしまう。スポーツやゲーム、アニメなどのファンあってのトレーディングカードである。

今後を見据えたトレーディングカード会社が今重視しているのは、このブームを通じてコレクターを増やし、古くさいと思われがちなトレーディングカードを新しい世代にも定着させること。カギは、新たな体験だ。

例えば、ソーシャルやインフルエンサーの活用。今コレクターの間で、ケースブレーキングやグループブレーキングが広がっている。ネットを通じてコレクターが集まって高額なトレーディングカードに共同出資し、箱買いしたカードをライブストリーミングで開封していく。スポーツのドラフト会議のようにハラハラする気持ちも手伝って人気が高まり、ケースブレーキングのためのアプリも登場している。インフルエンサーのケースブレーキングはさすがにうまく、ゲーム実況のように盛り上がり、Z世代のコレクターを増やすことにも貢献している。

デジタルカードの成長も著しい。ファンタジーフットボールゲームの「Sorare」はサッカークラブの選手のカードをNFT(Non-fungible-token)として発行し、ファンタジーチームで用いられるようにしている。すでに爆発的な人気を獲得しているのが、NBAとのパートナーシップによる「NBA Top Shot」だ。NFTを用いたデジタルカードに、その選手のプレイシーンのクリップが埋め込まれている。デジタル版は印刷版のトレーディングカードのように手に触れることはできないけど、Top Shotのカードはモーメントを通じてその選手の歴史の一部を手に入られたような感覚になれる。

転売価格の高騰で、トレーディングカードの売買がアート投機のようになり、トレーディングカードの価値を問う議論が広がっている。ただ、アートに比べると、選手やチームが「好きだから」というシンプルな理由でコレクションしやすい。価値の上昇を見越して資産として所有するコレクターも増え始めたが、基本的に今トレーディングカードを集めている大人の多くは、かつておこづかいをやりくりしてトレーディングカードを集めていた。そんなノスタルジーと金銭的なインセンティブが交差するところに、トレーディングカードの独特の価値があり、話題のNFTを活かしやすい環境にもなっている。