アラフィフを迎えた筆者ですが、これから自分がシニア世代になったときのことを想像すると、まわりにはスマホやパソコンなどのデジタル機器を上手に使いこなす人が多くいるように思います。私たちが老いとともに抱えることになる悩みや課題を、デジタルテクノロジーによって早めに正しくケアできれば、健やかな状態を長く保てるかもしれません。

たとえば聴力はどうでしょう。近年は、40代くらいから軽度の難聴を抱えつつも、自覚なしに過ごしている人が多くいると言われています。補聴器を適切な時期から正しく使えれば、人とのコミュニケーションを活発にこなし、音楽を聴いたり演奏したりする時間もより充実するはずです。

今回のテーマはシャープの「メディカルリスニングプラグ」という補聴器。シャープが独自に培ってきた無線通信やスマート家電のテクノロジーを生かし、オンラインでのカウンセリングやフィッティングサービスに対応する完全ワイヤレスイヤホン型の補聴器です。家電メーカーの中でも、特にスマート家電と関連サービスに力を入れているシャープならではの補聴器がどんな製品なのか、メディカルリスニングプラグを担当する井上理氏に聞いてきました。

  • シャープでメディカルリスニングプラグを担当する、通信事業本部 DHS事業推進部 参事の井上理氏。製品と「COCORO LISTENING」サービスの特徴を聞きました

シャープの補聴器「メディカルリスニングプラグ」はなぜ安い?

2021年秋に発売されたシャープのメディカルリスニングプラグは、左右独立型の完全ワイヤレスイヤホンと同じ形をした両耳タイプの補聴器です。管理医療機器の認証を取得しています。

  • シャープのメディカルリスニングプラグ。見た目には左右独立型の完全ワイヤレスイヤホンと変わりません

補聴器としての性能と機能、安全性を担保しながら、価格は一般的な補聴器のおよそ3分の1という99,800円(非課税)。井上氏は「日常生活でも身に着けていたくなる外観、負担の少ない価格感を実現することに腐心しました」と話します。

この価格が実現できた理由は、すべてのユーザーサポートを「COCORO LISTENING」というオンライン経由のリモートサービスにまとめたこと。井上氏の説明によると、サービスセンターを一極集中化して効率を高めることでサービスの稼働コストを減らし、商品の価格を下げることができたそうです。

  • モバイルアプリ「COCORO LISTENING」から、リモートフィッティングなど多くのサービスと機能を利用できます

さらに延長保証や紛失・盗難補償、リモートサービスの1年追加権利などを、別売オプションの「ケアプラン」(33,000円・税込)として切り分けることで、初期導入の垣根を低く抑えています。

「初めて補聴器を使う方も、最初のフィッティングから2カ月くらいの調整を続けて耳になじむことが多いため、3カ月目以降のサービスはオプションとしました」(井上氏)

一般的な補聴器は、購入後に何度もラボに足を運び、聞こえ方を調整する必要があります。「リモートのワンストップサービスによって色々な手間が省けることも、きっとユーザーの皆さまにとってメリットになるはず」と、井上氏が期待を込めて語ります。

補聴器として「人の声」が聴きやすくなるようチューニング

実機の写真を見るとわかる通り、メディカルリスニングプラグの見た目は完全ワイヤレスイヤホンとほぼ変わりません。初期設定を済ませてしまえば、以降はアプリを使わずに耳に装着するだけで補聴器として機能します。使っていないときはケースに入れて充電。これも標準的な完全ワイヤレスイヤホンと同じです。補聴器本体の内蔵バッテリーによる最長使用時間は約20時間、充電ケースによるチャージを合わせると約55時間の連続使用に対応します。

  • 形状は遮音性の高いカナル型イヤホン。本体に内蔵するマイクで周辺の環境音をモニタリングします

  • 充電ケースはパソコンのUSB端子に直接挿しても充電できます。反対側にはUSB Type-C(メス)の充電用コネクタがあります

メディカルリスニングプラグの動作モードをアプリから「ストリーミングモード」に切り換えると、音楽リスニング用のワイヤレスイヤホンとして使えるようになります。この場合、スマホなど音楽プレーヤー機器との常時Bluetooth接続が必要になるため、連続使用時間は約6時間になります。

  • 補聴器として使う「リスニングモード」と、スマホにペアリングしてBluetooth経由で音楽再生が楽しめる「ストリーミングモード」があります

本機は事前に入念なフィッティングが必要になる補聴器なので、音の聞こえ方はテストしていません。井上氏にチューニングの方向性を聞いたところ「オーディオ用のイヤホンよりも、さらに人の声がクリアに聞こえるように調整」とのことです。

  • メディカルリスニングプラグ専用のシリコンイヤーピース。パッシブな遮音性能と装着感を微調整できます

シャープの独自技術を投入した「COCORO LISTENING」

続いてメディカルリスニングプラグ専用の「COCORO LISTENING」サービスについて、デモンストレーションを交えながら紹介していただきました。

「一般的な補聴器の場合、使う人の聴力に応じて満足できる聞こえ方が得られるようになるためには、資格を持つフィッターがいる店舗に3回から10回ほど足を運ぶ必要があります。COCORO LISTENINGはユーザーがスマホアプリを使って、自宅にいながら補聴器の聞こえ方を遠隔調整できるサービスを実現しています」(井上氏)

COCORO LISTENINGサービスの拠点は日本国内にあり、認定補聴器技能者や、国家資格である言語聴覚士の資格を持つ「プロのフィッター」が複数名、専任スタッフとして常駐しています。

  • ユーザーは自宅などスマホをネットワークに接続できる任意の場所から、「COCORO LISTENING」サービスにアクセスして、プロのフィッターにメディカルリスニングプラグの調整(聞こえ方の最適化)を依頼できます

インターネットを介してユーザーがCOCORO LISTENINGサービスセンターと安定した相互通信ができる環境を実現したところに、シャープが5G通信デバイスや独自のオンライン会議プラットフォーム「LINC Biz」で蓄積してきたノウハウが生きています。

ユーザーはまず、アプリでパーソナルIDとなる年齢や性別などを入力し、さらに音の聞こえ方に関連するいくつかのアンケートに回答します。続いて左右の耳の聴力測定です。イメージとしては「健康診断の聴力検査」のように、10分間ほど異なる音のパターンを聞きながら、ユーザー個人の耳と補聴器(メディカルリスニングプラグ)のプロファイルを最適化します。

  • アプリによるカウンセリングを繰り返しながら、ベストの聞こえ方に調整

  • 左右の耳それぞれで、異なる音を7つのパターンに分けてチェック

現在のところユーザーの耳に合わせたフィッティングは、独自の計算式をベースにしてプロのフィッターが手動で行っています。井上氏いわく「将来はAIによるデータ解析を交えることによって、さらに速く、正確なフィッティングサービスを目指します」とのこと。

プロのフィッターがていねいなサポートを提供

「安心・安全に使える補聴器」を提供するため、プロのフィッターがていねいにサポートする仕組みを設けたことも、メディカルリスニングプラグの特徴です。

「最初のプロファイルを作成してから約1週間お試しいただいたころに、フィッターからユーザーに聞こえ方のバランスが合っているかといったご連絡を差し上げます。もちろんその前後にユーザーの皆さまからアプリ経由で再調整をリクエストすることもできます」(井上氏)

COCORO LISTENINGアプリには、ビデオ通話とテキストチャットの機能も搭載されています。「難聴度の度合い」をプロのフィッターからユーザーに伝えることは医療行為にあたるため、医師ではないフィッターがこれを提供することは禁じられています。したがってビデオ通話やチャットによる相談は、メディカルリスニングプラグの一般的な使い方に関する内容に限られますが、アプリ経由とはいえ、Webや取扱説明書のQ&Aにとどまらないていねいなサポートが受けられるメリットは大きいでしょう。

  • アプリにはビデオ通話によるカウンセリング機能も

補聴器のバリエーション展開や外部パートナーとの連携にも期待

ここまで充実した補聴器フィッティングサービスとユーザーサポートを、オンラインで提供できるブランドはシャープのほかにないと井上氏は胸を張ります。でも一方では、スマホやパソコンの扱いに慣れていないシニア層にとっては、少しなじみづらいサービスになっていないのでしょうか。

「メディカルリスニングプラグの価格が手ごろであるためか、確かに当社の想定よりも高い年齢層の方々から多くの引き合いをいただいています。ただ、今のところは初期設定の段階など、デジタル機器の扱いに慣れている家族の方々がサポートいただけているようです」(井上氏)

  • メディカルリスニングプラグは、完全ワイヤレスイヤホンで音楽を聴いている様子と区別が付かない外観。ビジネスシーンなどでは、イヤホンを着けたまま状態が相手に違和感を与えてしまうことも考えられます。今後はデザインや装着スタイルのバリエーションを広げていくこと必要かもしれません

補聴器が「見た目にいかにも医療器具っぽい」ことから使うことに抵抗を感じるという声は、年齢を問わずあるようです。メディカルリスニングプラグは完全ワイヤレスイヤホンの形をしているため、見た目の抵抗感は和らぐのではないでしょうか。でも、やはり「会議の最中にイヤホンを着けっぱなし」でいることには、何らかの説明が必要になるはずです。そして現在のメディカルリスニングプラグのサイズとデザインでは、女性には使いづらいかもしれません。井上氏は、今後の動向を見ながらバリエーション展開することも検討したいと話しています。

筆者としては、シャープが補聴器のバリエーションを開発するのではなく、補聴器のハードウェア設計・開発は外部のパートナーと手を組みながら進めて、シャープはCOCORO LISTENINGサービスの強化により注力する道もあるのではないかと考えます。あるいは現在のオンラインベースの仕組みを活用するリモートフィッティングサービスを、外部の補聴器メーカーに提供するビジネスモデルもつくれそうです。何はともあれ、これからより多くの人が抵抗感なく補聴器を利用できる未来が見えてきました。