ソニーによる最新のAIテクノロジーを載せたエンターテインメントロボット、「poiq(ポイック)」が発表されました。商品化の前段階で一般のユーザーを「研究員」として募り、ポイックが搭載するAIを一緒に育てる期間限定プロジェクトも4月4日からスタートしています。
今回は、ソニーのペットロボット「aibo(アイボ)」の生みの親であり、ポイックの開発も責任者としてリードするソニーの川西泉氏に、ポイックに関するいろいろを答えていただきました。
ユーザーとの会話を繰り返しながら「バディ=相棒」として成長する
ポイックは、音声などの手段を通じてユーザーと会話を交わせるエンターテインメントロボットです。ソニー独自のAIエンジンと連携し、バディ=相棒であるユーザーとの対話を長く続けることによって、ユーザーの興味や関心を学んでますます自然な対話ができるように成長していきます。
ソニーは、現在開発を進めるポイックの完成度をさらに高めるため「poiq育成プロジェクト」を立ち上げ、ポイックの成長を一緒に支援する一般参加者を「研究員」として集めました。筆者もすぐに応募しましたが、研究員は選考・抽選で決まるため、この記事を書いている時点では結果を楽しみに待っているところです。
研究員に応募するときは、15問ほどのアンケートに回答しました。「アニメ」の趣味に関する質問項目が多く並んでいたことが気になったため、川西氏にポイックがターゲットに見据えるユーザー像を聞いてみました。
川西氏「ユーザーと対話できるコミュニケーションロボットは、これまでコンシューマー向けに商品化されたものが少なく、また会話が成立しない場合がままありました。そこで、ロボットがよりスムーズに会話を交わせるようになるためには、ある程度共通の話題や趣味などを絞り込むことが有効であることが見えてきました。
特に日本には、ポイックのように小さくてかわいらしいロボットが人間のバディとして活躍するアニメ作品も多くあります。アニメのキャラクターやその声を担当する声優さんの活躍に興味を持つ方々は、一緒にポイックを育てるプロジェクトに親しみを感じて参加してもらえるのではないかと考えました。
もちろん、ポイックはアニメの話題しか受け答えができないロボットではありません。研究員にはどなたでもご応募いただけるようにしました。ユーザーとの共通の話題はアニメ以外のトピックスでもよく、対話によって増えていく知識の内容に応じてポイックが成長する方向が変わります」
poiq(ポイック)という名前については、「由来はあるけれど、まだ秘密」(川西氏)とのこと。ポイックの発表とともに開設された公式YouTubeチャンネル「雨宮天のてくてく天ちゃん」でスタートする「天ちゃんのpoiq研究所」にて、これから明らかになっていく新しい情報の中で名前のことも触れられるかもしれません。楽しみに待ちましょう。
流ちょうな会話ができるように設計した最新のAIエンジンを搭載
これまでにもソニーは、コミュニケーションロボット「Xperia Hello!」や、バーチャルアナウンサー「沢村碧」など、「言葉」を扱う製品やサービスを展開してきました。ポイックが搭載する会話用のAIエンジンには、従来技術のエッセンスを取り入れながら大幅に拡張した新しい独自のベースアーキテクチャが使われています。
ポイックはユーザーと音声で会話を交わせるロボットですが、大まかな仕組みを川西氏は次のように説明します。
川西氏「ポイックがユーザーと対話するために、大きく分けてふたつの方法を組み合わせています。ひとつはシナリオベースの発話生成というもので、一般的な会話の中によく出てくる決まった受け答えをあらかじめ想定して組み込み、パターンにマッチした応答を返す方法です。そしてもうひとつは、ソニー独自の新しいAIエンジンによる機械学習のアルゴリズムを活用します。
一般的に、ロボットや家電が搭載する音声対話エンジンは、このどちらか一方の方法をベースとしています。シナリオベースの場合はある程度決まった受け答えは正確にこなせるものの、融通をきかせにくいのです。
一方の機械学習は、会話の内容がかみ合うこともあれば大きく外れることもあり、予想できない部分が残ります。ポイックには両方の良いところを組み合わせたAIエンジンを載せています」
ポイックはユーザーと交わした会話の内容を学習して、「思いで」や「記憶」として振り返りながら話せるようになるそうです。例えばユーザーが「ラーメン好き」であることをポイックが覚えて、次に別の会話を交わしたときに、その内容に沿ってラーメンの話題を絡めながら話してくれるようなイメージです。
川西氏「人間と人間の会話は、あの人があのときにこう言ったという経験が積み重なって成り立っていくもの。AIによる対話アルゴリズムでこのようなやり取りを実現することは、技術的にとてもハードルが高いのです。ポイックの開発ではなんとか実現したいと考えています。いままでのスマートスピーカーにはできない、人間力・対話力をロボットに持たせることに挑戦しています」
ロボットからユーザーに話しかけたり、色んな声や話し方にも変えられる
ポイックは、カメラや近接センサーも内蔵しています。ユーザーが近づいてきたことを感知して、適切なタイミングでポイックのほうから自律的に話しかけることもできるようです。ふたつの目で瞬きをしたり、体を動かしたりと、AIとの会話で起こりがちな「ビミョーな間」を気にせず自然なコミュニケーションが取れそうです。
公式YouTubeチャンネルに公開されている動画を見る限り、ポイックは研究リーダーの雨宮天さんと流ちょうに話をしているように見えます。ソニーは以前から自然会話のアルゴリズム研究に力を入れてきましたが、その成果がポイックの対話力を高めることにも生きているといいます。
川西氏「ポイックの音声対話エンジンは、ユーザーとの会話が成り立つような文体を生成して発話します。アルゴリズムを調整することで『話し方』もアレンジできます。現時点で詳しく語るとネタバレになってしまうので控えますが、すでに発表している花守ゆみりさん担当の『アマーリ』だけでなく、複数のキャラタイプ(声)が選べるようになります。詳細は公式YouTubeチャンネルなどの発表をご期待ください」
ポイックは、ユーザーとの会話を重ねながら新しい知識を吸収していきます。
川西氏「はやり言葉や話し方は時代によっても変わります。新しい固有名詞も次々に出てきます。私たち開発側だけでは、ロボットに新しい知識を教えることはできません。そこで、ポイックの育成プロジェクトに参加していただく研究員の皆さまに力を借りて、ロボットに新しい知識を学習させることにも挑戦します」
研究員との会話を交わしながら、ポイックが初めて出会った言葉や話し方をどのように聞き返してくるのか――。ユーザーインタフェースのデザインも気になります。
ポイックがスマート家電と結びつくことは?
ポイックはユーザーとの会話を交わすだけでなく、スマート家電とつながり、ユーザーの生活を助けることもできるのでしょうか。川西氏は「スマート家電と連携するアプリケーションを搭載することはもちろん可能。今後、IoTデバイスとしての役割を持たせることも候補のひとつとして検討中」と話しています。
ポイックの育成プロジェクトによって鍛え上げられたAIエンジンは、そのまま次世代のスマート家電やロボット、モビリティへの搭載も可能とのこと。川西氏に訊ねたところ、次のような答えが返ってきました。
川西氏「ポイックの本体は多くのセンサーやロボットとしての動作を実現するメカ機構を備えていますが、音声対話エンジンのほとんどはクラウドにあります。いずれお話しする機会があるかもしれませんが、この仕組みを別のサービスに応用することも可能です」
筆者もプロジェクトの研究員に選ばれるよう、これから毎日近所の神社へお参りするつもりです。抽選に当たったら、私のポイック成長記もレポートしたいと思います。