(前編から続く)
シャープの屋台骨となったスマートワークプレイス事業
シャープは、家電のイメージが強い企業だが、2025年度実績を見ると、家電を中心としたスマートライフの売上高が5979億円であるのに対して、B2B事業を行うスマートワークプレイスの売上高は8338億円となっている。ブランド事業の6割弱をB2B事業が占めている
今回の事業戦略会において、スマートワークプレイス事業に関する説明は、シャープ 執行役員 Co-COO兼スマートワークプレイスビジネスグループ長の小林繁氏が行った。
2025年度は、Dynabookが、Windows 11への切り替え特需を取り込んだものの、スマホの販売が減少し、売上高は微減。営業利益は減益となったが、前年度の一過性要因を除くと実質的には増益になった。
小林Co-COOは、「PCの販売が大幅に拡大し、欧州ではITサービスが継続的に成長したことにより、オフィスソリューション事業が伸長した。また、国内コンビニ向けパブリックプリンティングサービスが安定的に収益を稼ぎだしている。ITサービス事業では、M&Aにより、ERP事業領域に参入し、基盤を拡充。衛星通信端末では、技術面での競争力を示すことができた。Dynabookは、国内法人向けノートPC市場でトップシェアを維持できた」とし、「2025年度は事業構造の変革と、新規事業創出の両面で確実な成果を出せた」と総括。「2026年度は、将来の成長に向けた事業構造の転換をさらに進める重要な1年になる」と位置づけた。
2026年度は、スマートワークプレイス事業としては、減収減益を見込んでいる。
PC事業では、前年度の特需の反動減、メモリーやSSDといった部材の価格高騰による売価上昇の影響があるため、PC市場全体で前年比30%以上も縮小することが、減収減益の要因としている。
スマホを担当するモバイルコミュニケーションと、PCを担当するコンピューティングソリューションでは、円安の定着に加えて、メモリーおよびSSDの価格高騰によって、厳しい市場環境下にあることを指摘する。シャープでは、いずれの製品も、高付加価値製品へのシフトや、LCM(ライフサイクルマネジメント)サービスの強化により、収益維持を図る考えだ。
「スマホはAIを強化したハイエンドやミッドレンジに注力し、これらの構成比を約40%から約70%に引き上げる。AQUOS senseは顧客満足度も高く、手応えはいい。また、ウェアラブル端末を新たに投入する予定である。PCでは、AI PCの比率を約20%から約40%へと、1年間で倍増させ、高付加価値化と上位モデルへのシフトを進める。需要の反動や価格高騰の影響は長期化はしないだろう」と述べた。
シャープが注力するLCMサービスは、調達から初期設定(キッティング)、運用、保守、廃棄、データ消去までを代行し、一元管理するアウトソーシングサービスで、これまでのPC向けのサービス展開に加えて、法人向けスマホにも対象を拡充。大手顧客への一括提案も進める。
「製品単体の販売から、ストック型の収益モデルへの転換を図る。PCとスマホの両方を提供できるのはシャープのユニークな強みである。大手顧客へのクロスセルやセット提案を強化したい」と語った。
一方で、オフィスソリューション事業は継続的に伸長。コンビニ向け複合機ではシェアナンバーワンの強みを生かして、サービス収入の拡大に注力。2026年度には、前年比10%増だったコンビニ向けプリンティングサービスの売上高を、2026年度には同13%増の成長を目指す。
業務用ディスプレイ事業においては、dvLED(直視型 LEDディスプレイ)を中心に、空港をはじめとする大型プロジェクト案件を欧米などで獲得することで、事業を拡大する計画であり、「dvLEDで培ったコンサルティング営業力を、さらに強化し、顧客の潜在的な課題にアプローチし、前年比約10%の売上伸長を目指す」と述べた。
小林Co-COOは、「スマートビジネスによる事業構造の転換を加速することが、2026年度の重要なテーマになる」と位置づける。
シャープでは、デジタル複合機やディスプレイ、POSシステムなどの「既存商材」に、エッジAIや通信、画像解析などの同社が持つ「独自技術」を掛け合わせることでスマートプロダクトを創出。そこに「AI・DXサービス」を組み合わせて、商品とサービスをハイブリッド型で提供するビジネスを「スマートビジネス」と定義している。ハードウェア事業よりも、サービスソューション比率が高く、収益性を高めることができる事業と定義する。2025年度には29%だったスマートビジネスの売上比率は、2027年度には35%に高める計画だ。
「スマートビジネスは、ハードウェアの顧客接点を起点にして、既存事業をサービスソリューション事業へとシフトさせるとともに、利益成長を担うための新規事業の創出を軸に、成長させることになる」と語る。
具体的な取り組みのひとつが、既存領域における「マネージドITサービス/ERPソリューション」の強化だ。
地域ごとに、M&Aを核にした事業拡大を進めるという。2024年12月にはフランスのアプシアを子会社化し、2026年3月にはニュージーランドのセキュアコムを子会社化して、マネージドITサービスやネットワークサービスの事業体制を強化。日本では、2026年3月にシナプスイノベーションを子会社化して、ERP統合ソリューションを提供できる体制を整えた。
「現場から経営まで総合的なITサービスを、お客様の一番近くで届けることができる会社になりたい」と意気込む。
もうひとつが、新規事業領域での取り組みだ。ここでは、2027年度中の事業化を目指す「衛星通信事業」、エッジAIやAIソリューションの拡充による「AIコンサルティング事業」、製造業向け提案の強化およびコンサルティングサービスの拡大を図る「ロボティクス事業」に取り組む。
「衛星通信事業」においては、近日中に、今後の新たな展開を説明できるとしており、前述した世界最小レベルの衛星通信端末を活用した事業化を推進することになる。「衛星通信事業は、スマートワークプレイスビジネスグループの新たな事業の柱になるのは間違いない」と位置づけ、「シャープは、スマホで培った卓越した通信技術を保有している。スマホは高付加価値を進める一方、強固なセキュリティ技術、優れたAIおよびUX、高周波通信技術などは、衛星通信事業などの新たな事業に展開できる」とした。
また、通信技術を活用したウェアラブル端末の新製品を発表する予定であるほか、通信技術やUXを活用したコミュニケーションロボット「ポケとも」を台湾にも展開。決済端末では、2024年12月に発売した第1号機が順調に販売を伸しており、2026年度内は後継モデルを投入する予定だという。
「AIコンサルティング事業」では、オンプレミス型AIサーバーの投入や、エッジAIを搭載したデバイスの販売を開始しており、コンサルティングを通じて、現場でAIを活用した新たなワークフローの提案などを行うという。
「ロボティクス事業」では、AMR(自律走行搬送ロボット)による戦略的案件の獲得に加えて、将来的には、AMRとヒューマノイドロボットが共存した環境を想定。それに向けて、疑似量子アニーリング制御技術の進化にも取り組むという。
「AMRとロボティクス制御ソフトウェア、さらには伴走コンサルティングの強みを生かして、物流や製造現場において、生産性が大きく改善させることができたという事例が生まれている。ハードウェアは、鴻海グループが持つ製品を含めて、シャープ製にはこだわらずに活用し、現場を革新するための支援をしていくことになる」と述べた。
今回の説明会では、アセットライト化を進めているディスプレイデバイスの状況についても説明した。
現在、シャープのディスプレイデバイス生産拠点は、XR (VR/MR/AR)やePosterといった高付加価値マルチ工場と位置づける「白山工場(H1)」、車載パネル専用ラインとなる「亀山第1工場(K1)」、ノートPCやタブレット、スマホ向けパネルを生産しており、2026年12月には生産を停止する予定の「亀山第2工場(K2)」、ウェアラブルやデジカメ向け、産業分野向けパネルを生産する「三重第3工場(Fab2)」の国内4カ所となっている。
2026年度の事業計画は、60億円の営業赤字の見通しだが、亀山第1工場および白山工場などの継続事業では黒字化を実現するという。
シャープ 執行役員ディスプレイデバイス担当兼シャープディスプレイテクノロジー社長の川合勝博氏は、「K1では、2026年度下期から、欧米車載メーカー向け大型プロジェクトの生産がスタートする。また、H1では、高付加価値製品の販売拡大が継続することになる。どちらも第6世代の生産拠点であり、車載、モバイル、産業用途の販売拡大に取り組む」とした。
一方で、K2については、「生産停止プロセスにおいてモデルミックスが悪化したこと、顧客需要への対応に伴い、定時時期が、8月から12月に後ろ倒しとなったことで、同工場だけで90億円の赤字を見込んでいる。だが、K2を停止することによって、90億円の赤字が解消されることになるともいえる。K2の停止により、アセットライト化に区切りがつく」と位置づけた。
2025年度までのアセットライト化では、三重第2工場の生産停止やOLEDの生産停止、K2の生産能力の25%削減、Fab2の生産能力を半減したほか、2026年6月にはFab2の生産能力を最少化し、2026年12月にはK2を生産停止することになる。これにより、2026年度には、経費および固定費が、2023年度比で45%減になるという。2027年度にはさらなる削減効果を見込んでいる。
また、2027年度までの2年間は、選択と集中により、残存ビジネスで利益を回復させる期間に位置づける。
K1では、車載向けビジネスに特化していく考えだ。自動車の出荷台数には大きな成長は見込めないが、大画面化や複数パネルの搭載に伴って、車載パネルの需要が拡大することを捉え、LTPS液晶モジュールを生産している強みを生かすという。
「地政学的リスクを避けるために、日本で生産しているシャープのパネルを選択する動きがある。すでに、欧米の大手自動車メーカーの複数プロジェクトを獲得している。車載ビジネスは、一度契約すると3~5年は安定する。これを武器に安定したビジネスにしたい。また、特殊な内部構造と反射膜を活用した低反射ディスプレイに対する評価が高い。こうした尖った提案も進めたい。勝てるビジネスに絞り込み、リソースの再配置を進める」とした。
K1は、2025年度には750億円の売上高だったが、2027年度には、約1.9倍となる1400億円の売上高を目指す。
また、H1では、スマートフォン向け中心から、車載およびモバイル、産業用途に対応したマルチ工場への転換が完了したことを報告。1000ppi超の高精細LCDの供給や、シャープ独自のIGZOプロセスの導入でも成果があがっているという。
「成長が著しいVR/MR製品向けや医療用モニターなど、超高精細のディスプレイによる高付加価値製品の販売拡大で収益を最大化する。マルチ工場の特徴を生かして、複数の製品により、稼働率を高め、高収益化を図る」とした。
H1では、2025年度の売上高400億円を、2027年度には1000億円にまで引き上げる計画だ。
さらに、ディスプレイデバイスでは、2028年度以降に、新たな成長エンジンを創出し、成長を目指すことになるという。
ここでは、ePosterやnanoLEDによる「非液晶ディスプレイの展開」、導光板、可変NDフィルターといった液晶技術を用いた光学部材のほか、においや指紋などの各種センサーなどによる「新規デバイスの開発」に加えて、インテルなどが参加している半導体後工程自働化・標準化技術研究組合(SATAS)による後工程技術開発プロジェクトへの取り組みや、先端パネルレベルパッケージプロセス開発による「半導体後工程市場への参入検討」に取り組む。
ePosterでは、E Inkの表示素子に、シャープのIGZO技術を組み合わせることで、ePosterの表示性能を進化させるとともに、新規市場の開拓に乗り出す。表示保持時には 消費電力がゼロという特徴を生かした提案を進めているほか、曲げることができる次世代ePosterの提案により、新たな需要を開拓していくという。
また、AR向け光学部材として、導光板を提供。今後、拡大が見込まれるスマートグラスに応用できると見込んでいる。「シャープが提案する液晶材料や生産方式を用いた体積ホログラム方式(液晶ホログラム方式)は、コスト面や性能面でも優れている。量産プロセスを確立し、事業化を推進したい」と述べた。
新規ビジネスについては、シャープブランド製品への活用を通じて、「シャープの成長エンジンとしての一翼を担いたい」と述べた。
なお、シャープの三重工場では、シャープ製マスクの生産を行っているが、シャープの川合執行役員は、「コロナ禍において、社会貢献ができることはないかというなかで、不織布が入手できたこと、半導体工場で空いているエリアがあり、クリーンルームを活用して、マスクを生産し、供給できると考えて開始した事業である」と振り返り、いまだに注文があり、それなりの規模があり、継続的に生産を続けている。社会貢献のひとつとして、長い期間、一定量の生産を続けたいと考えている。現時点で止めるという計画はない」とコメント。シャープの菅原Co-COOは、「マスクの需要は全体的に減少しているが、継続的な発注をもらっており、年平均10%減程度で推移している。シャープ製マスクを継続的に利用しているお客様がいる。生産維持するために必要なボトム量を割り込まない状況が継続できている。販売を継続したい」と述べた。






















