デル・テクノロジーズが、2026年第1四半期(2026年1月~3月)の国内法人向けPC市場におけるブランド別シェアで首位となった。同社がこの分野でトップシェアとなったのは5年ぶりのことだ。デル・テクノロジーズ クライアント・ソリューションズグループ(CSG)セールスのAPJC担当バイスプレジデントであるジャシンタ・クワァー氏は、「サプライチェーンの強みと、日本のお客様に寄り添った提案が功を奏した」とし、「継続的なシェアの維持に取り組む」と、今後の成長戦略にも意欲をみせる。クワァー氏に、日本における法人向けPC事業への取り組みや、先ごろ、米ラスベガスで開催したDell Technologies World 2026において発表した製品、サービスの注目点を、CSGの立場から総括してもらった。

  • デル・テクノロジーズ クライアント・ソリューションズグループ(CSG)セールス APJC担当バイスプレジデントのジャシンタ・クワァー氏。手にしているのはNVIDIA DGX Sparkを搭載する「Dell Pro Max with GB10」

    デル・テクノロジーズ クライアント・ソリューションズグループ(CSG)セールス APJC担当バイスプレジデントのジャシンタ・クワァー氏。手にしているのはNVIDIA DGX Sparkを搭載する「Dell Pro Max with GB10」

―― 2026年5月に、米ラスベガスで開催されたDell Technologies World 2026では、なにが重要なポイントとなりましたか。

クワァー氏: CEOのマイケル・デルは、Dell Technologies World 2026の初日の基調講演のなかで、「世の中に豊富なインテリジェンスが存在する時代がやってきた。AIは実験の段階から、実装の段階に入っている」と発言しました。AIは使うべきか、どのモデルを選択すべきかといった議論は終わり、AIをどこに実装するべきかという具体的な検討段階に入ってきたといえます。デル・テクノロジーズのアプローチは、AIをユーティリティのように簡単に利用できるようにすること、AIに関するあらゆるものを統合し、導入のリスクを削減すること、そして、AIを本番環境で使えるまでの時間短縮に貢献するというものになります。さらに、AIエージェントについても、経済性を保ちながら、広範に利用できることや、拡張性についても支援をしていきます。お客様が、適切なAIを、適切な場所で、適切な形で導入するための支援策を、デル・テクノロジーズが用意し、コスト、パフォーマンス、セキュリティ、プライバシーをしっかりと担保することを訴求したイベントになったといえます。

  • Dell Technologies World 2026で講演するマイケル・デルCEO

    Dell Technologies World 2026で講演するマイケル・デルCEO

これを象徴するキーワードが「トークノミクス」です。これまでは、データ側にAIを持っていくという考え方であり、クラウドやデータセンターを通じてAIを活用していました。しかし、AIエージェントの時代になると、AI側にデータを持っていくという世界が訪れます。そりひとつの形が、デスクサイドにAIを置くという考え方です。従来はチャットボットに相談するといった使い方であったものが、AIエージェントの登場によって、複数の作業を自律的に行うようになり、それに伴い、トークンの量が急激に増加するといった状況が生まれています。トークンひとつあたりのコストは下がってきていますが、生成されるトークンが比較にならないほど増加しているため、結果として、クラウドを利用したままだとコストが急上昇することにつながります。これまではあまり意識しなかったトークンが、企業のバランスシートにも影響を及ぼす可能性が出てきたわけです。また、エンタープライズ企業にとって重要なカギのひとつがソブリンティ、プライバシー、セキュリティに対する懸念です。こうした問題を含めて解決するのが、デスクサイドに置くという提案です。これによって、トークンの量を気にせずに、AIエージェントを利用でき、さらに、自分の手元で動かしますから、ソブリンティなどにおける課題も解決できます。

そうしたニーズに対応したソリューションとして、Dell Technologies Worldでは、ローカル環境で自律型AIエージェントを稼働させることができる「Dell Deskside Agentic AI」を発表しました。

  • 多くの人が訪れ、注目を集めた今年のDell Technologies World

    多くの人が訪れ、注目を集めた今年のDell Technologies World

―― Dell Deskside Agentic AIはどんな特徴がありますか。

クワァー氏: Dell Deskside Agentic AIでは、2000億パラメーターのモデルまで対応する「Dell Pro Max with GB10」、インテル Xeon600プロセッサーと最大5つのNVIDIA RTX PRO Blackwell Workstation Edition GPUで構成し、300億~5000億パラメーターのモデルまで対応できる「Dell Pro Precision 9」、NVIDIA GB300 Grace Blackwell Ultra Desktop Superchipを搭載した「Dell Pro Max with GB300」のほか、OpenClawに基づき、AIエージェントを管理するオープンソースの基盤である「NVIDIA NemoClawリファレンス スタック」や、AIエージェトのライフサイクル全体に渡ってガイダンスを提供する「Dell Services」によって構成しており、統合したAIソリューションとして提供することができます。

必要に応じて1兆パラメーターのモデルにも対応するだけでなく、Dell AI Factory with NVIDIAとつなげて、高度なAIエージェントを構築することができます。デスクサイドからデータセンターまで、同じプラットフォームを活用し、自社のAI戦略を実践することで、AIネイティブ企業への進化を支援します。

これは、日本のユーザーにとっても有効なソリューションになります。製造、金融サービス、医療、公共などでは、機密性が高いデータを扱うため、クラウドでのAI利用を懸念する声があります。Dell Deskside Agentic AIを利用することで、デスクサイドでも大規模モデルを稼働させることができます。

Dell Technologies Worldで示された事例では、24時間に渡ってAIエージェントを使用した場合、パブリッククラウドでは3400ドルかかっていたものが、デスクサイドに置けば、トークンにかかる費用はゼロになります。AIエージェントの活用が増えるのに従い、経済的なメリットは増すことになります。当社では、Dell Deskside Agentic AIの導入により、2年間で最大87%のコスト削減が可能だと試算しています。

一方で、クライアント・ソリューションズグループ(CSG)に関する様々なソリューションを発表したことも、今回のDell Technologies Worldの大きなトピックスでした。AI PCの提案のほか、3次元データの活用や、ロボットとのインタラクティブな連携、メディアエンターテイメント業界向けや製造業、医療、教育のための各種ソリューションも展示しました。これまでは新製品の仕様などにフォーカスした訴求が中心だったものが、AIと最新PCとの組み合わせによって、どんな価値を創出できるのかといったことを、実践レベルの具体的な事例を通じて示すことができたといえます。実際、Dell Technologies Worldの3日間の会期中には、CSGだけで、40以上のお客様事例を公開しました。すでにAIが実装段階に入り、成果をあげていることを示すことができ、この点でも、Dell Technologies Worldは大きな意味を持ったイベントだったといえます。

―― Dell Technologies Worldの参加者は、AI時代のフェーズチェンジのようなものを感じたのでしょうか。

クワァー氏: そうだと思います。そして、それは非常にポジティブな反応だったと思っています。昨年のDell Technologies Worldでは、AI PCとはなにかといったことに関心が集まっていましたが、今年のDell Technologies Worldでは、AIはすでに前提となり、それをどう活用するかといったことが話題の中心となっています。また、昨年は、すべてが生成AIを中心にした話題であり、モデルの学習にフォーカスが当たっていましたが、今年の話題はAIエージェントに移行しています。生成AIでは、生産性が20%~30%向上する程度に留まっていたものが、AIエージェントでは200%~300%、あるいは1000%といった生産性向上が期待できることが示され、生産性向上を示す直線角度はリニアではなく、爆発的ともいえる変化が起きるとの指摘もありました。実際、デル・テクノロジーズにおいても、ソフトウェア開発者がAIエージェントを導入することで、コードを生成する速度が800倍になった実績があります。

  • 今年のDell Technologies Worldでは、AIはすでに前提となり、それをどう活用するかといったことが話題の中心となっていた

    今年のDell Technologies Worldでは、AIはすでに前提となり、それをどう活用するかといったことが話題の中心となっていた

これは、組織のワークフローを再定義する必要が生じているともいえます。COOのジェフ・クラークは、AIはひとつの運用モデルとして見るべきだといっています。AIは、いまの仕事に当てはめるだけでは効果がなく、ワークフローを再定義しなくては、AIネイティブの組織になることはできません。そして、先にも触れたようにトークンの量が増えるため、経済的な観点での見直しも必要です。

  • ジェフ・クラークCOO。「AIはひとつの運用モデルとして見るべきだ」という

    ジェフ・クラークCOO。「AIはひとつの運用モデルとして見るべきだ」という

一方で、AIが人の仕事を取ってしまうという考え方に対しても、多くの人の見方が楽観的になってきたと思っています。AIは仕事を奪うのではなく、人の仕事を効率化し、より創造的な仕事にシフトできるようになります。そうした転換点が訪れています。AIは、人から仕事を奪うのではなく、AIを活用する人が、AIを使わない人から仕事を奪うことになる、というのが正しい理解ではないでしょうか。

―― AIネイティブ時代の到来に向けて、いま、日本の経営者がやらなくてはならないことはなんでしょうか。

クワァー氏: デル・テクノロジーズが、アジア太平洋地域におけるエンタープライズ企業のAI採用状況を調査したところ、日本のAI PCの導入率は39%となり、最も導入率が高いオーストラリアの65%とは大きな差がありました。日本は、アジア太平洋地域において9カ国中で7番目となっています。もともと日本の企業は、新たなテクノロジーに対しては保守的なところがあります。しかし、保守的というのは、その価値を知らないということではありません。調査のなかでは、AI PCに対して10%以上の追加料金を支払うことに前向きと回答した組織の割合が、日本では71%にものぼっています。つまり、AI PCの重要性をしっかりと理解しているわけですし、AIによって、イノベーションがもたらされることも知っています。問題は、安全に使えるか、安心して使えるか、法律に準拠した環境で使えるかという点で慎重になっているにすぎません。こうした課題が解決された段階で、日本のAI PCの導入には弾みがつくと思っています。

  • 日本のAI PCの導入率は39%で、先頭グループと比べると導入はかなり遅れている。しかし、これは日本が「AI PCの重要性を理解していない」ということではなく、環境が整えば一気に導入へ弾みがつく機会はあると考えている

    日本のAI PCの導入率は39%で、先頭グループと比べると導入はかなり遅れている。しかし、これは日本が「AI PCの重要性を理解していない」ということではなく、環境が整えば一気に導入へ弾みがつく機会はあると考えている

AIを使っている企業と、使っていない企業との差は、どんどん開くことになります。PCの価格が上昇するなかで、いまのPCのままでいいのではないか、といった判断をする企業があるのも事実ですが、その一方で、AIをもっと動かすためにはどうしたらいいかといったことに注目し、投資をする企業も少なくありません。これからは、企業、個人を問わずに、AIを使うことが重要となり、そのためにはAIの効果やイノベーションに対する理解を深めることが大切です。インターネットが登場したときには、それを理解し、使いこなすことに努力をしましたが、いまではインターネットを使うことは、人に求められる基本的な能力になっています。AIも同じ道を歩むことになるでしょう。

デル・テクノロジーズでは、AIに関する包括的なトレーニングメニューを提供しています。日本の経営者も、自らがAIを学習し、実践していくことが大切です。外国語を学ぶのと同様に、AIも繰り返し練習し、使い方を学習することで、使いこなせるようになります。そして、AIを活用することは、これまでやってきたことを変えることでもあり、そこにもハードルがあります。失敗をしながら学ぶことを恐れない姿勢が必要です。

会社の同僚は人間だけというのは、私たち世代が最後になると思っています。これからは人とAIエージェントが同僚になります。こうした新たな仕事の仕方も、学んでいくべき事柄のひとつになります。

―― 日本におけるデル・テクノロジーズの法人向けクライアントソリューション事業の進捗はどうですか。

クワァー氏: デル・テクノロジーズは、2026年第1四半期(2026年1月~3月)の国内法人向けPC市場において、ブランド別シェアでは1位となりました。5年ぶりのことです。日本の市場は、グローバルと比較しても堅調であり、そのなかでシェアを拡大し、18.0%を獲得することができました。ただ、グローバル市場では23.5%のシェアを持っていますから、まだ成長させることができるともいえます。

―― 日本市場において、シェアを拡大した理由はなんですか。

クワァー氏: 大きな理由のひとつが、サプライチェーンの力の差だといえます。SSDやメモリ、CPUが世界的に不足しているなか、お客様の関心は、どのPCメーカーであれば、約束した納期に、欲しい台数のPCを提供してくれるのかという点に集まっています。デル・テクノロジーズは、多様性を持った堅牢なサプライチェーンを構築し、幅広い製品に搭載するために、多くの部品を調達しています。これまでの実績をもとにした調達力は大きな強みとなっています。デル・テクノロジーズであれば、お客様に対して、明確な納期を示すことができるという強みがあります。

デル・テクノロジーズは、お客様と一緒にいる時間を増やし、お客様の課題やビジネスの目的を理解し、成功を支援しています。そのために、最適なPCを提案し、タイムリーに提供することに力を注いでいます。そこに、AI PCの強みや、日本におけるマーケット戦略が加わり、成長につながっていると自己分析しています。市場を見渡しても、PCからクラウドまでの包括的なAIソリューションを提供できる企業は、デル・テクノロジーズだけだといえます。

  • 国内法人向けPC市場で、5年ぶりのシェア1位。クワァー氏は「まだ成長させることができる」とも語る

    国内法人向けPC市場で、5年ぶりのシェア1位。クワァー氏は「まだ成長させることができる」とも語る

―― AI時代において、デル・テクノロジーズに対する期待は変化していると感じますか。

クワァー氏: PCは、一般的に、3~5年ほど使用して、買い替えるケースが多いのですが、ここ1年ほどは、買い替えの際には、価格だけでなく、AI対応力を考慮して、機種を選定するという動きが増えてきました。これから3~5年を見越して、その間に登場するAIアプリが動作するのか、AIエージェントが活用できるスペックなのかといったことを検討材料にあげる企業が増えています。また、これまで以上にセキュリティや管理性に対するニーズも高まっています。PCは生産性向上のためのツールという位置づけに加えて、データプラットフォームのなかの一部になってきたといえます。つまり、AIのデータプラットフォームの入口がPCになるわけです。デル・テクノロジーズへの期待も、そうしたところに変わってきていると感じています。

物価高騰や物不足のなかでも、お客様のIT予算は増えない状況にあり、しかも、AI対応が迫られています。お客様に寄り添い、要望を聞き、投資が最適化するようにお手伝いをしたいと考えています。

お客様の事業継続をサポートすること、AI導入に関する具体的な提案をすること、お客様やパートナーの声を聞き、改善すべきところがあれば改善し、要望にフォーカスした戦略を立案し、実行していきます。そして、日本でのトップシェア獲得は、一過性の勢いではなく、これからも継続させたいと考えています。