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パナソニック、強く「成長」誓う新戦略の焦点 - 楠見雄規CEOインタビュー (前編)
https://news.mynavi.jp/article/newsinsight-449/

パナソニック ホールディングスの楠見雄規グループCEOは、「パナソニックグループは、2026年度からは、成長フェーズに入る」と宣言する。2025年度までに大胆な構造改革を完了させ、グローバルで1万2000人の人員削減を実施。課題事業や再建事業の方向づけも行った。2026年度には、調整後営業利益で1450億円の改善効果を見込み、持続的成長の基盤確立につなげる。合同取材に応じた楠見グループCEOは、人員適正化の成果を示す一方、収益構造の改革、社内カルチャーの変革に、継続的に取り組む姿勢をみせた。

  • パナソニック ホールディングス 代表取締役 社長執行役員 グループCEOの楠見雄規氏

    パナソニック ホールディングス 代表取締役 社長執行役員 グループCEOの楠見雄規氏

パナソニックグループでは、構造改革の取り組みの一環として、1万2000人の人員削減を実施した。当初は1万人の削減計画であったのに対して、そこから2割も増加。さらに、当初は国内外5000人ずつという計画だったものが、国内8000人、海外は4000人という結果となった。国内では当初計画の1.6倍という水準だ。

  • 構造改革として、1万2000人の人員削減を実施

    構造改革として、1万2000人の人員削減を実施

ここではいくつかの事実に触れておきたい。

国内の8000人の削減は、社員の自主的な応募が中心であったのに対して、海外の4000人は、会社が主導し、20以上の拠点の統廃合によって削減したものである。つまり、海外の人員削減数が想定よりも低かったことは、拠点の統廃合が想定通りに実行できていないと見ることもできる。

また、事業会社では、インダストリーでは、構造改革費用として160億円を計画していたものが、実績では561億円となり、削減規模は約3倍に膨れ上がっている。

それに対して、本社部門であるパナソニックホールディングス(PHD)およびパナソニックオペレーショナルエクセレンス(PEX)を含む「その他」で、当初の500億円の計画に対して、278億円の実績に留まっている。

構造改革では、本社をリーン化することを掲げていたのに対して、実績値では、PHDおよびPEXの構造改革費用が計画よりも少なく見えるが、楠見グループCEOは、「PHDおよびPEXはほぼ想定通りの削減が進んだ」と説明する。ここでは、計画値の段階では、その他に含まれていたテレビ事業などを行うパナソニックエンターテインメント&コミュニケーションズ(PEAC)が、実績値ではスマートライフのカテゴリーに移行するなど、数字の組み換えがあったことが影響しているという。

また、1万2000人という想定を上回る人員削減について、楠見グループCEOは、「用意したパッケージが、応募した人たちにとってメリットがあった。また、インダストリーでは、地方の生産拠点が多く、農業と兼業している社員が、農業専業でやろうと判断したケースもあった。様々な要因があわさった結果、想定を上回る応募があった」とし、「想定よりも人員が大きく減少した部門では、テンポラリーを活用するケースもある。だが、仕事の中身を見直す機会となり、AIの利活用を徹底するきっかけにもなっている。インダストリーでは、事業の選択と集中を進めるなかで適正化ができた。全体的に、一歩踏み込んだ改革を進めることができた」と自己評価する。

  • 各セグメントにおける構造改革の費用と効果の実績

    各セグメントにおける構造改革の費用と効果の実績

では、今回の人員削減で、楠見グループCEOが想定した成果は出ているのだろうか。

「100点満点とは言えないが、ほぼ想定通り。個々に見れば、この人には辞めてほしくなかったというケースもあるが、それは仕方がない」とする一方、「体制が軽くなったか、経営のスピードが出ているのかといったことは、人員削減の数による効果ではなく、経営の構造の問題だといえる。たとえば、パナソニック株式会社では重層構造が無くなり、意思決定のピードが確実にあがっている。また、各事業会社のトップを、事業CEOとして、PHDの執行役員相当として入ってもらい、経営層でのコミュニケーションの機会が増え、全員でのディスカッションの機会が増えている。今後の意思決定の質とスピードの向上につなげることができる」と総括した。

2025年度の構造改革効果は1450億円を想定。当初目標の1220億円を上回る。

「2026年度に調整後営業利益で6000億円という目標を達成する上で、利益の上積みになる」と期待する。

  • 直近の決算で発表した2026年度の業績見込み

    直近の決算で発表した2026年度の業績見込み

  • 6000億円の営業利益に対するセグメント別の増減要因

    6000億円の営業利益に対するセグメント別の増減要因

楠見グループCEOは、1万2000人の削減を、人員適正化という言葉で表現する。

「ここ数年は、事業会社化したことで、それぞれに間接部門の人員が増えたという背景があった」としなから、「人員は適正な規模でないといけない。適正な規模だからこそ、創意工夫をして、仕事のやり方を変え、頭を使うことになる。人が余剰となっている状況では、創意工夫をしなくても、仕事がまわる環境となり、人は育たない。また、会社が大きくなればなるほど、内部の仕事が多くなる。これを排除しなくてはならない。人員を適正化することで、これらの課題が解消できる。50歳以上の社員の構成比はまだ大きい。定年で1人辞めたら、1人補充するのではなく、残った人数でできるようにするなど、継続的な適正化を進めていく」とする。

一方で、国内8000人の退職者に対しては、「国内の雇用環境が不足している。新たなチャレンジを外でもしてもらい、成長してもらうことが、社会から人材をお預かりしている立場として、やらなくてはならないことである」と説明した。

楠見グループCEOが目指しているパナソニックグループの姿は、社員が自律性を持って、創意工夫を続ける企業文化の定着である。

「確実に変わっている部門がいくつもある。この事例をビジネスユニット長以上のすべての経営責任者が共有し、横展開することが必要である」とし、今後は一部で創出している適正化による成果を、広く浸透させる段階に入ってきたことを示す。

  • 「人を生かすコミュニケーション」の必要性を訴える

    「人を生かすコミュニケーション」の必要性を訴える

最近、楠見グループCEOが社内で訴えているのが、「人を生かすコミュニケーション」の必要性だ。

「たとえば、新入社員に対して、仕事のやり方を教えるというのは、極めて簡単な方法である。しかし、それを繰り返していると、その新入社員は何も考えなくなる。言われたことだけをやればいいということになる。仮に、『いままでは、こういう方法でやっていたが、もっといい方法を考えてほしい』といえば、新入社員も頭を使って考えるようになる」とし、「これまでは上意下達の文化があったため、変えるまでには少し時間がかかるかもしれないが、こうしたコミュニケーションに満ち溢れる企業を目指したい。早く変えたい」と述べる。

パナソニックグループは、2000年以降、社内全体に上意下達の文化が浸透していたと、楠見グループCEOは指摘する。

「パナソニックの本来のカルチャーは、衆知を集めた経営である。創業者である松下幸之助氏は、上意下達と下意上達の両方をバランス良く行わなくてはならないと言っていた。だが、上意下達のなかでずっと育ってきた社員が、いまは40代後半になり、部課長に就いている。この人たちにも、下意上達のコミュニケーションを取り入れてもらい、むしろ、下意上達を促進する役割を担ってほしい」と語った。

2025年度の構造改革では、1万2000人の人員削減が話題を集めているが、楠見グループCEOは、「構造改革とは、収益構造の改革だと思っている」と語る。

「人員削減は、ひとつの手法であり、しかも一時的な手段である。AIインフラ事業に注力するのも、他の事業領域よりも高い収益性が見込めるという観点からのものであり、構造改革の一環となる。中長期的に収益構造を改善することができる。サービス、メンテナンス領域での事業拡大も同様の意味がある。収益構造の改革によって、収益性が高まれば、再投資の機会が増えてくる。こうしたサイクルを回すことが、本来の企業経営である」とする。

  • 新たな成長戦略では、AIインフラ事業への注力を明確にした

    新たな成長戦略では、AIインフラ事業への注力を明確にした

その上で、「そのためには、意思決定の質とスピードを高める必要がある。2000年以降、成長していないということは、経営の質もスピードも高まっていないということの証左である。全体最適をもとにした意思決定を、事業CEOとともに行い、収益構造を持続的に高めていくことに取り組む。これが、現時点でのパナソニックグループの構造改革のゴールである」と述べた。

パナソニックグループでは、以前、グループ戦略会議を設置し、事業部門のトップが参加して、経営の意思決定に参加していた。

だが、楠見グループCEOが就任して以降、事業会社のトップは、持株会社の役員を兼務しない仕組みを採用。持株会社と事業会社が分離した形で経営判断が進められていた。

楠見グループCEOがこの仕組みを採用した背景には、自ら事業責任者であったとき、他の事業部門の案件を議論しても、そこに参加する意味のなさを感じたからだ。

「大切なのは、将来を議論すること。なにをすれば質が変わるのかを議論する場が必要だと感じた」

事業CEOとして、事業責任者をグループ全体の議論に参加させるようにしたのもその狙いからだ。その意思は、「グループトランスフォーメーションラウンドテーブル」という名称に変更したことからも伝わってくる。

「事業CEOには、各事業の判断においても、グループの全体最適の視点から取り組んでもらうようにした。お互いが学び合い、シナジーを出せることをベースにしている。グループ戦略会議とは、形が似ているが、中身はまったく異なるものになっている」という。

パナソニックグループが新たに打ち出したグループ成長戦略は、これまでの3年単位での中期戦略とは異なり、毎年、次の3年を見据えてローリングする方式に変更した。

「1年ごとに修正しながら、3年後、6年後を示す。計画を実行することよりも、戦略を研ぎ澄まことにシフトした。その点では、1年どころか、半年ほどで、見直す必要が出てくるかもしれない」とする。

そこにも、質とスピードを高めた経営にシフトする姿勢が見える。