タイガー魔法瓶の土鍋炊飯器が、2006年の第1号製品の発売から20周年の節目を迎えた。伝統工芸である三重県四日市市の「萬古焼」の技術を受け継ぐ職人たちとのコラボレーションによって実現した業界初の土鍋炊飯器は、同社独自の「熱コントロール技術」などと組み合わせることで、深い甘みと粒立ちによって、ご飯をおいしく炊き上げるのが特徴だ。同社では、20周年の節目にあわせた新たなフラッグシップモデルとして、「土鍋ご泡火炊き JRT-A100」を、2026年6月21日から発売する。「土鍋の形状」と「加熱制御」を刷新し、理想の熱対流を極めたという。テレビCMには、昨年に続いて、俳優の松坂桃李さんを起用。土鍋ならではおいしさをアピールする。タイガーの20年間の土鍋炊飯器の歴史を振り返るとともに、2026年度の事業戦略を追った。

  • 20周年記念フラッグシップモデル「土鍋ご泡火炊き JRT-A100」

    20周年記念フラッグシップモデル「土鍋ご泡火炊き JRT-A100」

  • 土鍋釜は三重県四日市市の「萬古焼」の技術を受け継ぐ職人たちとのコラボレーションによって実現している

    土鍋釜は三重県四日市市の「萬古焼」の技術を受け継ぐ職人たちとのコラボレーションによって実現している

国内炊飯器市場は、コロナ禍以降、縮小傾向にある。

2020年度までは年間550万台前後で推移していたが、2021年度に499万9000台と、出荷台数が500万台を割りこんで以降、年間500万台以下で推移。2025年度は、5年ぶりに前年実績を上回ったが、449万7000台と、450万台を下回る水準とに留まっている。

  • コロナ禍以降の縮小傾向が目立つ

    コロナ禍以降の縮小傾向が目立つ

だが、その一方で、見逃せないのが平均単価の上昇だ。

2020年度の平均単価は1万9148円だったものが、年を追うごとに平均単価は上昇。2025年度には2万4453円と過去最高を更新しており、高価格帯の商品に対するニーズが高まっていることを裏づけている。

  • 平均単価は上昇

    平均単価は上昇

実際、価格帯別にみても、5万円以上の高価格帯製品の割合は、2020年度には27%だったものが、2025年度には37%へと10ポイントも拡大。逆に3万円未満の低価格モデルの比率は、35%から28%へと縮小している。

  • 高単価製品の割合が増えている

    高単価製品の割合が増えている

こうした市場環境の変化は、付加価値路線を追求するタイガーの炊飯器には追い風となっている。

タイガー魔法瓶では、「炊きたて」の商品名で、1970年から炊飯器事業を推進しており、累計販売台数は8000万台を突破。なかでも、高価格帯の商品には、「ご泡火炊き」のブランドを与え、2019年から展開している。

タイガー魔法瓶 執行役員 ソリューション本部長の岡本正範氏は、「ご泡火炊きシリーズは、販売金額が前年比32%増となっており、販売金額シェアは着実に上昇している。2019年度には15.2%のシェアだったものが、2025年度には29.1%となり、業界2位のボジションを維持。2026年1月~4月は、販売台数でトップシェアになっている」と好調ぶりをアピール。「『令和の米騒動』と言われる銘柄米の価格高騰や備蓄米の放出などにより、お米への関心が高まるとともに、おいしく食べたいというニーズの高まりが背景にある」と自己分析する。

  • タイガー魔法瓶 執行役員 ソリューション本部長の岡本正範氏

    タイガー魔法瓶 執行役員 ソリューション本部長の岡本正範氏

  • 2025年度は業界2位のボジション。2026年1月~4月は、販売台数でトップシェアに

    2025年度は業界2位のボジション。2026年1月~4月は、販売台数でトップシェアに

また、食費の高騰が続き、エンゲル係数は28.6%に上昇し、45年ぶりの歴史的高水準に到達。ここにきて、節約志向が強まっていることも、炊飯器の高価格帯製品の需要拡大には追い風になったとみている。

  • エンゲル係数は歴史的高水準だ

    エンゲル係数は歴史的高水準だ

市場調査によると、家では、食事が楽しく、心地よいと答えた人の割合は70.9%と高く、食品や料理を選ぶ際に重視することとしては、「おいしいこと」が75.0%と最も高く、「価格が安いこと」の61.9%を上回っている。

「おうちでの食体験に、お金を払う層が拡大傾向にある。それが炊飯器の平均単価の上昇に影響している」とし、「タイガーが2025年に発売した120台限定の約20万台の最高級モデルは、即日完売になった」と、高機能製品に対するニーズが強いことを裏づける。

  • 高単価の炊飯器が人気であることの背景として、食費高騰だからこそ、「おうち」で「おいしいこと」への価値が高くなる、という見方も

    高単価の炊飯器が人気であることの背景として、食費高騰だからこそ、「おうち」で「おいしいこと」への価値が高くなる、という見方も

タイガーの魔法瓶が、2006年に発売した土鍋炊飯器「JKF型」は、業界で初めて本物の土鍋を内釜に採用。高級炊飯器市場を牽引する存在となった。それまでは、高くても3万円程度だった炊飯器が、土鍋炊飯器は約7万円という高価格帯で投入。それでも、好調な売れ行きを見せた。

  • 20年にわたる、歴代の土鍋炊飯器

    20年にわたる、歴代の土鍋炊飯器

  • 2006年に発売した初の土鍋炊飯器「JKF型」

    2006年に発売した初の土鍋炊飯器「JKF型」

2008年には極センサーで繊細な温度コントロールを実現した「JKL型」を発売したのに続き、2010年に発売した「JKN型」では、熱風循環システムを採用し、効果的に熱を加えることで、ごはんのうまみを引き出した。

  • 熱風循環システムで効率的に熱を伝える進化を遂げた「JKN型」

    熱風循環システムで効率的に熱を伝える進化を遂げた「JKN型」

そして、2012年には土鍋と圧力を組みわせた「JKX型」を発売。圧力炊飯方式を採用した圧力IH炊飯ジャーの第1号として、約300℃の高温炊き上げを実現することに成功した。

  • 土鍋に圧力を組み合わせて、約300℃の高温炊き上げを実現した「JKX型」

    土鍋に圧力を組み合わせて、約300℃の高温炊き上げを実現した「JKX型」

2014年に発売した「JPX型」では、大土かまどの二重発熱構造によって高火力を実現。2019年には、「ご泡火炊き」の第1号機として、「JPG型」を発売し、高火力と泡でうまみを守り、高温蒸らしによって、ごはんをふっくらと、香り高く仕上げることができた。また、一合を最適な炊飯空間で炊きあげる一合料亭炊きも、同モデルから新たに搭載した。

  • 「ご泡火炊き」のブランドを冠した初号機は2019年に発売

    「ご泡火炊き」のブランドを冠した初号機は2019年に発売

さらに、2020年には、デザインを一新した「JPL型」を発売。「炊きたて50周年記念モデル」と位置づけ、ハリつやポンプによって、理想的なおひつ保温を実現してみせた。

  • 2020年発売の「JPL型」がデザインを一新。「炊きたて50周年記念モデル」と位置づけた

    2020年発売の「JPL型」がデザインを一新。「炊きたて50周年記念モデル」と位置づけた

また、2023年に発売した「JRX型」では、WレイヤーIHにより、土鍋に適した加熱を実現し、「ご泡火炊き」を新たな次元へと引き上げた。

  • 2023年に発売した「JRX型」では、WレイヤーIHにより、土鍋に適した加熱を実現した

    2023年に発売した「JRX型」では、WレイヤーIHにより、土鍋に適した加熱を実現した

タイガー魔法瓶 炊飯器ブランドマネージャー兼商品企画担当の辻本篤史氏は、「タイガーが土鍋にこだわっているのは、土鍋にしか実現できないおいしさがあるからだ。金属釜では200℃程度だが、土鍋釜は約300℃という直火に近い圧倒的な大火力によって、甘みを引き出すことができる。また、約4倍の遠赤効果がうまみを引き出し、泡が米を包んで優しく炊き上げることができる」とし、「一般的に、陶器は一品一葉のものであるが、炊飯器の土鍋は同じ大きさで作り上げる必要がある。世界中から10数種類の土を厳選し、その日の湿度や温度にあわせて配合を変えながら作っている。1200℃以上の熱を使い、通常の陶器づくりでは行われない三度焼きを行っている。完成までに3カ月間を要するといった手間暇をかけても土鍋を採用し続けている」と、土鍋づくりへのこだわりを示した。

  • タイガー魔法瓶 炊飯器ブランドマネージャー兼商品企画担当の辻本篤史氏

    タイガー魔法瓶 炊飯器ブランドマネージャー兼商品企画担当の辻本篤史氏

今回発表した「土鍋ご泡火炊き JRT-A100」は、土鍋炊飯器の20周年記念モデルに位置づけており、2026年6月21日から発売する。

理想の熱対流を極めるために「土鍋の形状」と「加熱制御」を刷新。タイガー魔法瓶の辻本氏は、「料亭ごはんのような格別な甘みと食感を理想とし、ごはんそのものが主役となる『至福のごはん』を目指した。タイガーの土鍋は最高到達点に向かうことになる」と位置づけた。

開発は、料亭の炊き技を紐解くことから開始。吸水や高火力での炊き上げ、吹きこぼし、蒸し炊きの工程に着目したという。

  • 「土鍋ご泡火炊き JRT-A100」の特徴。20年の集大成といえる新技術と様々な工夫を盛り込んでいる

新開発の「旨み対流形状」の土鍋は、緻密な設計変更によって、多方向に攪拌する熱対流を発生させ、釜全体に熱を伝えることで、炊きムラを抑え、均整のとれたごはんを炊きあげることができる。また、「センサースポット」を設けることで、センサーの接触個所を極限まで薄型化。熟練の成形技術によって高度な加工を実現することで、ダイレクトに温度センサーへと情報を伝達し、お米の芯にまで均一に熱を届ける精密な温度管理を可能にしている。これにより、深い甘みと土鍋釜ならではの力強い弾力を引き出することができるという。

さらに、「とろ火IH制御」は、「間引き」の発想による新たな制御を採用。料亭の技である「弱火で連続的に加熱して、甘みを最大限に引き出す工程」を、科学的に再現することで、至高の土鍋ごはんを実現できるとした。

加えて、「とろ火IH制御」を活用した「匠おひつ保温」を実現。精密な温度管理によって、ごはんのベタつきや黄ばみを抑え、炊きたてのおいしさを長時間維持し、最後の一膳までおいしさの余韻を楽しめるという。

また、米・食味鑑定士協会の協力のもと、国内外から約5000を超える計測データを活用して、水分率、たんぱく質、アミロースの量など、各銘柄の持つ特長を科学的に分析。79銘柄&6地域の産地炊きで、85種の炊きわけによって、それぞれのお米に合った炊き方でおいしく炊きあげる。メニューには、「サキホコレ」や「はれわたり」のほか、「カルローズ」などの銘柄を追加している。さらに、玄米の栄養と白米の食べやすさを兼ね備えた「分づき米」専用メニューも新たに搭載した。、

本体上部には、視認性と操作性を高めた「スムーズタッチディスプレイ」を新たに採用。どの角度から見ても鮮明な大画面のIPSディスプレイにより、スマホ感覚で、スムーズで、直感的な操作が可能となる。

そのほか、ピッチ間隔を最適化した波紋形状を土鍋の底面に配置することで、力強い撹拌を実現。底面に2層IHコイル構造を採用して、大火力および土鍋を直火で炊くような炎の温度差を再現した「300℃ WレイヤーIH」を引き続き採用した。また、新たに搭載した「おねばポケット」では、炊飯器内部の調圧構造を変更して、ふきこぼれに強い構造に進化させ、理想の火力を実現するとともに、お手入れ性も改善したという。

そして、「一合料亭炊き」では、専用の土鍋中ぶたを用いて炊飯空間を小さくすることで、お米に熱を均等に伝えることができるため、お茶碗一膳(0.5合)にも、炊込みごはんにも対応。「一流料亭のような炊きたてごはんを、おいしく食べられる」とした。

「毎日の食卓に料亭の土鍋ごはんの感動を届ける」というのが、今回の新製品のコンセプトだという。

なお、同社では、今年秋から、「土鍋20周年プロジェクト」を開始することを発表した。飲食店コラボレーション施策「タイガー土鍋ごはんの名店」では、東京、大阪を中心とした飲食店において、土鍋化炊飯器で炊いたごはんを提供する。また、全国試食イベント「幻の土鍋料亭タイガー」は、ポップアップ店舗で志試食できるという。

説明会では、イメージキャラクターである俳優の松坂桃李さんが登場。CM撮影には、朝食を抜いて挑んだというエピソードを披露しながら、「パクパク食べられて、撮影は幸せな時間だった」と振り返った。

  • イメージキャラクターである俳優の松坂桃李さん

また、「土鍋炊飯器で炊いたごはんは、一粒ひと粒が粒立っていて噛んだ瞬間から甘みが広がる。ごはんがおいしいと、ごはんそのものを楽しむのはもちろん、おかずを創作しようという意欲が湧く」と、ごはんを起点に食事を楽しんでいる様子にも触れた。

さらに、米飯管理士の資格も持つタイガー魔法瓶の辻本氏の指導のもと、おにぎり作りにも挑戦。3回握るだけがフワっとしたおにぎりをつくるコツだという話に、普段からおにぎりを作っているという松坂さんは、「もっと握らないと不安」としていたものの、実際に、自分で3回だけ握ったおにぎりを食べ、「ふわふわでおいしい。今日からは3回にする」と語り、会場を湧かせた。

タイガー魔法瓶では、2026年度の炊飯器事業の取り組みとして、「炊飯器事業の収益拡大」、「こだわりのモノづくりへの昇華」、「炊飯器メーカーとしての使命」という3点をあげた。

  • 「炊飯器事業の収益拡大」

    「炊飯器事業の収益拡大」

  • 「こだわりのモノづくりへの昇華」

    「こだわりのモノづくりへの昇華」

  • 「炊飯器メーカーとしての使命」

    「炊飯器メーカーとしての使命」

「炊飯器事業の収益拡大」では、国内においては、高付加価値製品の創出し、国内シェアナンバーワンの奪取を目標に掲げるほか、海外向けにはラインアップを拡大するなど、市場開拓に向けた投資を加速。さらに、ザプライチェーンマネジメント(SCM)の進化と深化を目指すという。

タイガー魔法瓶の岡本氏は、「地政学リスクや人件費の上昇、フードロスや環境負荷への対応など、経営環境が厳しくなるなかでも事業成長を加速し、環境に打ち勝つ事業体を目指す」と述べる。

2つめの「こだわりのモノづくりへの昇華」においては、「短期的視点でのモノづくりではなく、未来に向けたこだわりのモノづくりを意識している」とし、大阪府門真市の本社に、設計、開発、品質保証、生産、企画、営業のすべての部門を集約。オールインワンパッケージで事業を展開していることを強調した。さらに、土鍋の生産には、土づくりから三度焼きを行い完成させるまで、約3カ月を要していることに触れ、「手間暇をかけたこだわりのモノづくりを推進している」とも述べた。

  • 土鍋の生産は「手間暇をかけたこだわりのモノづくり」

    土鍋の生産は「手間暇をかけたこだわりのモノづくり」

そして、「炊飯器メーカーとしての使命」という観点では、「多様化するコメ環境、多様化するニーズ、多様化する志向と社会に対応するため、本質的なおいしさの追求、顧客に応える商品政策、企業ポリシーと発信への取り組みを進めている」とし、「お米を最高のごはんに変えて、幸せな団らんと、日本の食文化を守るというゴールに向かい、メーカーの使命を果たしていく」と語った。

土鍋炊飯器の登場から20周年の節目を迎えたタイガーの炊飯器は、徹底したおいしさの追求を続ける決意を示す年ともいえる。市場環境の変化を捉えた加速ができるかが鍵になる。