パナソニック ホールディングスの楠見雄規グループCEOは、合同取材に応じ、同社が5月12日に打ち出した新たな「グループ成長戦略」の狙いなどについて改めて説明した。

同社では、AIインフラを支える事業に対して、5000億円の戦略投資を行い、デバイス領域およびソリューション領域での成長戦略を推進する計画を発表。楠見グループCEOは、「2025年度の構造改革は、次の成長に向けたファーストステップであった。なにがなんでも成長に転じなくてはならない」と、今後の成長戦略に強い意思を見せるとともに、2032年の姿として、「AIインフラと社会オペレーションを支える」ことを掲げた。これがパナソニックグループの目指す方向性となる。

  • パナソニック ホールディングス 代表取締役 社長執行役員 グループCEOの楠見雄規氏

    パナソニック ホールディングス 代表取締役 社長執行役員 グループCEOの楠見雄規氏

新たな柱へ、成長戦略で注目される「AI」への積極投資

今回発表した「グループ成長戦略」において、注目されるのがAIへの積極的な投資だ。

2028年度までの3年間を「フェーズ1」として、デバイス領域におけるAIインフラを支える事業の売上高および利益を大きく拡大させ、グループ全体の成長を牽引することになる。

パナソニックグループでは、2028年度の調整後営業利益で、2026年度見通しに対して1500億円増となる7500億円以上を見込むが、その成長のうち、1300億円をAIインフラ関連が占めることになる。

  • 2028年度までの3年間は「フェーズ1」。2026年度見通しに対して営業利益を1500億円増と見込むが、うち1300億円をAIインフラ関連が占める

    2028年度までの3年間は「フェーズ1」。2026年度見通しに対して営業利益を1500億円増と見込むが、うち1300億円をAIインフラ関連が占める

  • 「フェーズ1」の3年間で、AIインフラを支える事業に対して5000億円を投資する

    「フェーズ1」の3年間で、AIインフラを支える事業に対して5000億円を投資する

また、2028年度には、BBU(Battery Backup Unit)を中心としたAIインフラ向けデバイスの売上高で1兆3800億円を計画。同社が掲げた経営指標から逆算すると、グループ全体の2割弱を占める可能性がある。

しかも、2028年度のAward(顧客との開発推進合意案件および受注案件)獲得率は80%に達しており、計画達成の確度は極めて高い。

パナソニックグループの新たな成長の柱が創出されたといっていい。

多くの人が知っているパナソニックのすべてを変える

楠見グループCEOは、2025年1月、米ラスベガスで開催したCES 2025の基調講演に登壇し、2035年までに、AIを活用したハードウェアやソフトウェア、ソリューション事業の売上比率を約30%に拡大する目標を発表している。

楠見グループCEOは、「CES 2025で発表したAI関連事業は、AIを活用した事業化であり、今回発表したAIインフラを支える事業とは異なる側面がある」と前置きしながら、「炊飯器をはじめとした様々な家電にAIを活用したり、ホームエネルギーマネジメントシステムにAIを活用したり、Blue YonderはAIによって差別化を図ったりといったように、AIを活用した事業が増加している。サービス領域においても、AIを活用できるチャンスがある。2035年度の3割という目標に向けた取り組みを進めている」と述べた。

また、「そこに、今回発表した『デバイス領域におけるAIインフラを支える事業』を加えれば、2032年度に前倒しをしても、3割という数字は完全に達成できる」とも語る。

  • CESでAI関連事業での売上比率を約30%まで拡大すると発表。これは「デバイス領域におけるAIインフラを支える事業」とは切り分けて定義している

    CESでAI関連事業での売上比率を約30%まで拡大すると発表。これは「デバイス領域におけるAIインフラを支える事業」とは切り分けて定義している

だが、楠見グループCEOは、CES 2025で示した領域を、ハードウェア、ソフトウェア、ソリューションとして完成した製品であることに加え、AIを活用した製品という定義を持たせているようであり、「このなかに、AIインフラ向けデバイスを入れると反則になる」と笑う。

とはいえ、BBUには、ピークシェーブ機能など、パナソニック独自の付加価値が組み込まれており、対象となるAIインフラ分野は、広い意味でAI関連ビジネスと捉えることもできるだろう。また、CES 2025の発表時点では、BtoC向けのAI関連ビジネスが含まれていたが、それらの事業を2025年度末までに終息しており、その組み換えのなかで、AIインフラ事業を取り込むことも可能だといえる。

一方、CES 2025の基調講演で、楠見グループCEOは、AIを活用した事業が3割に達する2035年のパナソニックグループの姿について、「多くの人が知っているパナソニックのすべてを変えることになる」と語っていた。

その発言に関連して、楠見グループCEOは、「今回のグループ成長戦略は、パナソニックのすべてを変える第一歩になるという意味で発信したものになる」とも位置づけた。

ソリューション領域でビジネスモデル転換、Blue Yonderへの期待は変わらず

そして、パナソックグループの新たな姿は、AI関連ビジネスの成長とともに、ソリューションという観点からも進化することになる。

「ソリューション領域は、これまでは寄せ集めという感じがあった。だが、今回のグループ成長戦略のなかで、ひとつの軸を示すことができた」と自信をみせる。

ソリューション領域は、「社会オペレーションを支える事業」と位置づけ、フェーズ1とする2028年度までの3年間で、ビジネスモデル変革を推進し、ハードウェアを中心としたビジネスモデルから、サービスによる価値提供へと重心を移行。2029年度以降のフェーズ2で、収益成長のコアに成長させる考えを示している。

  • ソリューション領域は「社会オペレーションを支える事業」へとビジネスモデルを転換

    ソリューション領域は「社会オペレーションを支える事業」へとビジネスモデルを転換

パナソニックグループは、商業施設やビル、住宅、工場、航空機、流通などでハードウェアを提供し、これらの市場で高いシェアを持っている。これを「MIF(Machines In the Field)」と呼び、このベースを拡大させるだけでなく、周辺へのサービス、エンジニアリングによって事業の幅を拡大。AIとデジタルの力も活用しながら、コンサルティングから保守、メンテナンスまでをカバーする体制に強化する。

  • 高いシェアを持つハードウェアの優位を活かし、サービス提供の幅を広げる

    高いシェアを持つハードウェアの優位を活かし、サービス提供の幅を広げる

事例のひとつが、パナソニック エレクトリックワークス(EW)での展開だ。

「照明器具は、蛍光灯からLEDになると、寿命が長くなり、交換の頻度が減る。一方で、照明制御によってお役立ちをすることができるというチャンスが生まれる。現時点では、サービスやメンテナンスでによる売上げ比率が低いが、言い換えれば、事業拡大のチャンスがある。また、エネルギーコスト削減でのお役立ちは、EWが得意とするところである。そこにも価値が提供できる」とし、ハードウェアにサービス、エンジニアリングを加えた事業のシナジー拡大に挑む姿勢を強調した。

フェーズ1となる3年間は、ソリューション領域においては、ビジネスモデルの転換と、種まきの期間だと、楠見グループCEOは語る。

だが、振り返れば、ソリューションに関しては、この数年間、注力領域に位置づけるとともに、エネルギーソリューションおよびSCMソリューションを成長エンジンとし、体制強化を進めてきた経緯がある。それだけに、フェーズ2を成長時期とし、それまでの3年間のフェーズ1では、種まきを含めた準備期間とすることに違和感があるのも事実だ。体制強化の遅れを感じざるを得ないともいえる。

これに対して、楠見グループCEOは、「準備期間という表現そのものについては、グループ成長戦略の発表前にも社内で議論があった」と明かしながら、「実際には、ソリューション提供につながるコネクティッドな製品を、すでに販売しており、準備はできている。だが、リカーリング収益を積み上げるには一定の期間が必要である。また、トータルソリューションとして提案する力もつけていかなくてはならない。そこに対して、3年間という期間で準備を進めることになる。ハードウェアを提供すればいいというビジネスから変革し、サービス、メンテナンスの体制も万全にしていく期間である」とする。

そして、「パナソニック エレクトリックワークス、パナソニック HVAC&CC、パナソニック コネクトの3つの事業会社が協力し、シナジーを生み出せる体制を作る期間でもある。それぞれの事業会社がバラバラにやっていたものを、それぞれが持つ知恵を集め、それをお客様に提案していくことになる」とする。

すでに、パナソニック エレクトリックワークスの大瀧清社長 CEO、パナソニック HVAC&CCの片山栄一社長、パナソニック コネクトのケン・セインCEOの3人が、お互いに知見を持ち寄り、学び合いながら、シナジーが生む体制が構築しているという。

さらに、こうも語る。

「これまでは、ソリューションといっても、お客様が望むものをそのまま持っていくという形だった。だが、本当の意味でのソリューションは、お客様のビジネスにどう貢献するか、収益にいかに貢献するかということである。そのためには、お客様の理解をもっと深めなくてはならない。考え方を根底から改めていかなくてはならない」

SAPジャパンで社長を務めていた鈴木洋史氏が、2026年4月に、パナソニックグループ入りし、SRO(Solution Revenue Officer)に就いたのも、新たなソリューションビジネスを模索する狙いが背景にあることを明かす。

「本当の意味でのソリューションを理解し、ビジネスを進めてきた人材である。この考え方をパナソニックグループのなかに広げてもらうことになる」

これまでのように、ハードウェアを組み合わせて提案するだけでは、顧客への価値提供には限界があるというのが、楠見グループCEOが持つ危機感だ。

すでにテイクアウト型外食産業向けには、店頭での業務を集中管理するソリューションを提供し、ハードウェアだけの提案から、サービスを含めた付加価値により、企業の成長を支援している事例があることも示した。こうした事例をどれだけ増やせるかが、ソリューション領域の準備期間中にも求められる要素だといえる。

ソリューション領域において、コア事業のひとつとなるのがBlue Yonderだ。その位置づけは、現在も変わらない。2025年度のBlue Yonderのスタンドアローンの業績を見ると、SaaS ARRやSaaS NRRといったSaaS関連指標は好調に推移。継続的な戦略投資により、開発を進めてきたコグニティブソリューションも収益に貢献しはじめている。

  • Blue Yonderのスタンドアローンの業績。「SaaS is Dead」と言われるが、指標は好調に推移している

    Blue Yonderのスタンドアローンの業績。「SaaS is Dead」と言われるが、指標は好調に推移している

  • Blue Yonderの2026年度の業績見通し

    Blue Yonderの2026年度の業績見通し

コグニティブソリューションは、AIを活用したクラウドネイティブなソリューションであり、現時点ではほとんどの部分で開発が完了している。いまは、オンプレミスからの移行を促進するためのツールの開発にも取り組んでおり、2026年度は、コグニティブソリューションの導入に向けた施策を強化することになる。

一方で、Blue Yonderを中心としたSCMソリューション事業の上場計画については、現時点では変更がないが、環境変化に応じて様々な可能性を模索していることを明かす。

楠見グループCEOは、「最近、トーンが変わってきたと捉えられがちだが」と前置きしながら、「Blue Yonderが属している業界が、『SaaS is Dead』の影響を受けて、評価が下がっており、様々な選択肢を考えなくてはならない段階に入っている」とコメント。「Blue Yonderは、コグニティブソリューションというすばらしい製品群を完成させた。それによるパイプラインも積みあがっている。Blue Yonderへの期待は変わっていない」と語った。

家電事業はコスト改革を徹底、白物を復活させていく

その一方で、家電を中心としたスマートライフ領域では、中国のサプライチェーンを活用したグローバル標準コストを徹底し、収益基盤を強化する方針を示している。

「冷蔵庫は中国・無錫に、洗濯機は中国・蘇州に、それぞれは製造拠点だけでなく、設計拠点も一定規模で保有している。これまでは、中国とそれ以外という体制で製品戦略を分けていた。そこで生まれたメリットは、中国向け製品については、中国メーカーと戦うために体質を変え、日本からの『呪縛』から解き放たれたモノづくりを始めたことである。その結果、部材の選択、工場の進化などを通じて、中国市場に最適化したコストを実現することができた。日本では、工場設備が古くなっても、メンナテンスをしながら使い続けることが基本だったが、中国では新たな設備を導入し、刷新しながら、生産性を高めることが重視され、パナソニックも中国では同様の取り組みを行ってきた。いまは、そこで得た力を生かせるようになってきた」とする。

パナソニックが語るグローバル標準コストとは、部材コストの話だけでなく、モノづくり全体を指したコスト構造への変革であることが、この話からもわかる。

  • 楠見CEOは「日本、中国、アジアで白物家電を復活させていく」と意気込みをみせる

    楠見CEOは「日本、中国、アジアで白物家電を復活させていく」と意気込みをみせる

「日本の家電市場で戦う場合でも、競合相手は中国や台湾のメーカーがバックにおり、中国で戦える力がないと太刀打ちできない。そのために、日本で求められる品質を維持した形で、中国のコスト構造を持ち込み、経営層や事業部長にも中国での経験者を多く登用した。私は、2~3年前にこの形を作りたいと考えていたが、なかなか進まなかった。これの取り組みを、2026年度から本格化させ、日本、中国、アジアで白物家電を復活させていく」と意気込みをみせた。