2021年度税制改正大綱が昨年12月21日閣議決定されました。

2021年度税制改正大綱では、コロナ禍のさなかにあって、「ポストコロナに向けた経済構造の転換・好循環を図る」とし、管政権の大きな柱であるデジタルトランスフォーメーションやカーボンニュートラルに向けた投資を促進する措置などが中心になっています。

そのなかで、中小企業等の効率的なデジタル化を促進することに寄与すると思われるのが「電子帳簿保存法」の改正です。今回はその「電子帳簿保存法」の改正についてみていきましょう。

「電子帳簿保存法」の歴史

「電子帳簿保存法」は1998年に制定された法律です。正式名称は「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」で、紙で保存することが本則である国税関係帳簿書類の保存について、電子データで保存することを特例として定めた法律です。

当初は、企業等が自ら電子計算機で作成する帳簿(総勘定元帳や仕訳帳など)や書類(決算報告書や請求書控えなど)が電子保存の対象でした。

その後、2005年のe-文書法施行に伴い、「電子帳簿保存法」も改正され、「国税関係書類」として企業が受領した請求書や領収書などをスキャナで読み取った電子データの保存が認められるようになりました。ただし、この時点では電子保存可能な請求書や領収書などは3万円未満のものに限定され、さらに電子署名が必要となるなど使い勝手の悪いものでした。

そこで2015年には、請求書や領収書などの金額の上限が廃止され、電子署名も不要になりました。また、2016年にはデジカメやスマホで撮影した電子データによる保存も認められるようになりました。

そして、2020年の改正では、キャッシュレス決済の場合、紙の領収書の代わりに電子の取引明細でも保存可能というように変わってきました。

また、e-文書法施行当時から「電子帳簿保存法」に規定されていた「電子取引」という項目があります。国税庁の「電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】」の「問2 電子取引とは、どのようなものをいいますか。」では、「電子取引」について以下のように規定されています。

「「電子取引」とは、取引情報の授受を電磁的方式により行う取引をいいます。なお、この取引情報とは、取引に関して受領し、又は交付する注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類に通常記載される事項をいいます。」

つまり、最初から電子データとして作成され、そのまま電子データとして授受される請求書や領収書などの保存について規定されているのが、この「電子取引」という項目です。こちらの保存要件については、発行者または受領者がタイムスタンプを付すこと、または自らの規定により訂正または削除を防止することとされていました。これが、2020年の改正では、訂正または削除を行った場合その履歴が残ること、または、訂正または削除ができないシステムであれば良いこととなりました。

以上のように何度かの改正を経た現在の「電子帳簿保存法」は(図1)のような構成になります。

「電子帳簿保存法」の課題

以上のように、長い歴史を持つ「電子帳簿保存法」ですが、実際の利用者数はどうなっているのでしょうか。後掲((図3))の経済産業省の資料によると、2020年3月時点の承認件数は、帳簿等の電子保存(以下、電子帳簿保存)は約27万件、領収書等のスキャンした電子データ保存(以下、スキャナ保存)は約4,000件となっています。

電子帳簿保存については、1998年から20年以上かけて27万件の企業が利用するまでになっていますが、この数では、まだ大半の中小企業には利用されていないものと思われます。 領収書等のスキャナ保存に至っては、2005年の創設以来、何度も改正を経てきたにもかかわらず、4,000件足らずの利用に留まっています。

前回も取り上げた、規制改革推進会議の成長戦略ワーキング・グルーブの10月12日の会議に新経済連盟が提出した資料「DX推進のためのアナログ原則撤廃に向けて~電子帳簿保存法と領収書の電子化に関する要望を中心に~」では、(図2)の通り、「中小企業が電子帳簿やスキャナ保存の利用申請しない理由」を挙げています。

(図2)のアンケートの回答者は、クラウド会計ソフトを利用している中小企業の経営者や経理担当者です。(図2)では、すでにクラウド会計ソフトで会計業務をIT化している中小企業の「電子帳簿保存法」に対する考え方が示されていると言えます。

「電子取引」を除く電子帳簿保存やスキャナ保存では、(図1)の通り税務署長の承認が必要です。そのため、電子帳簿保存やスキャナ保存をするためには、中小企業が申請をしなければなりません。その申請に「手間・時間がかかる」というのが、(図2)の利用申請しない理由では、トップにきています。この税務署長の承認までには、申請から3ヶ月かかるとされており、それだけ申請内容も項目が多く申請に手間や時間がかかるわけです。その手間や時間に見合うだけのメリットが得られないと中小企業では考えていることが、この回答からは伺えます。

2番目に多い回答は、「制度が複雑で社内の理解を得るのが難しい」というものです。電子帳簿保存やスキャナ保存にあたっては、税務署長の承認に加えて、一定の要件を満たすことが要求されます。

例えば電子帳簿保存では、(図3)のような要件を満たすことが認められます。

ここでは、「電子保存等」の「帳簿」の要件をみていきます。税務署長の承認以外に5つの要件を満たす必要があります。

これらの要件を機能面からみていくと、会計システムでは、通常「帳簿間での記載事項の相互関連性の確保」や「検索機能の確保」などの機能は満たしているはずです。ただし、「訂正・削除・追加の事実及び内容を確保」すること(制度の要件に沿ってログを残していくこと)は、会計システムの通常機能の範囲外と考えられます。したがって、この機能を装備している会計ソフトが「電子帳簿保存法」対応ということになります。

中小企業では、この「電子帳簿保存法」対応の会計ソフトを利用すれば電子帳簿保存が可能になるのですが、訂正・削除・追加のログを残すということが、(図2)の4番目にある「紙より保存要件が厳しいため税務調査が不安」という考えとも相まって、「制度が複雑で社内の理解を得るのが難しい」という回答になっているのではないでしょうか。

次に、スキャナ保存の要件は、(図4)の通りです。

ここでは、受領した領収書等のスキャナ保存は、「重要書類」に該当しますので、そこだけみていきますが、何より要件の多さにまずびっくりしてしまいます。これらの要件を満たしたスキャナ保存対応システムも販売されていますので、それを使用すれば良いわけですが、利用者が守らなければならない要件もあります。例えば、「タイムスタンプの付与」では「受領者等が読み取る場合、受領後、受領者等が署名の上、特に速やか(おおむね3営業日以内)に付す必要あり。」とされています。これらの要件から、「制度が複雑で社内の理解を得るのが難しい」という回答となっていると考えられます。

また、(図2)の3番目の回答はスキャナ保存に関するものですが、この制度では、領収書等の紙段階での改ざん等に対処するためとして、スキャナ保存した紙の領収書等をその時点で廃棄することはできず、「定期的な検査」が行われるまでは紙のまま保存しておかなければなりません。

これでは、これまでなんども改正をしてきたにもかかわらず、利用件数が伸びず4000件に留まってしまうのも無理はないのではないでしょうか。

2021年度税制改正で大幅に緩和される「電子帳簿保存法」

こうした課題を抱えた「電子帳簿保存法」ですが、2021年度の経済産業省の改正要望を受けて、大幅に改正される見通しです。

(図5)は、経済産業省の「令和3年度(2021年度)経済産業関係税制改正について」の資料のなかの、「電子帳簿保存法」に関する部分です。

そして、これを受けて閣議決定された2021年度の税制改正大綱では、(図5)に示された経済産業省の要望に対応した「電子帳簿保存法」の改正内容が記載されています。

「令和3年度税制改正の大綱」の96ページ以降に「納税環境整備_電子帳簿等保存制度の見直し」の項があります。

まず、電子帳簿保存及びスキャ保存とも、「承認制度を廃止する」とされています。前項で取り上げた、電子帳簿保存及びスキャ保存が利用されない第一の理由が取り除かれることになりました。

そして、電子帳簿保存においては、「システムの概要書その他一定の書類の備付け」と「ディスプレイの画面等に、整然とした形式及び明瞭な状態で、速やかに出力することができる」、そして税務署員等から「ダウンロードの求めがある場合には、これに応じること」が要件となっています。

求めに応じて電子帳簿のダウンロードに応じることが新たな要件に加わっていますが、訂正等の履歴などは必須ではなくなったということです。なお、現行の訂正等履歴要件や相互関連性要件、検索要件のすべてを満たして電子帳簿保存を行う場合は、税制上のメリットが受けられるようになるようです。

また、スキャナ保存においては、タイムスタンプの付与の期限を現行の3営業日以内から、受領した領収書等の記録事項の入力期間(最長約2ヶ月以内)と同様とするとされました。また、スキャナ保存する書類について、訂正又は削除を行った事実及び内容を確認することができるシステム、または、訂正又は削除を行うことができないシステムにおいて保存する場合は、タイムスタンプの付与は不要とされました。さらに、スキャナ等で読み取る際の署名も不要になり、「定期的な検査」も廃止になりますので、スキャナ保存した紙の領収書等は、即座に廃棄できるようになります。

電子取引においても、電子データにタイムスタンプを付与する場合の期限がスキャナ保存同様に最長約2カ月以内となりました。

なお、スキャナ保存や電子取引での電子データ保存については、保存されたデータについて改ざんが認められた場合は、ペナルティが課されることになります。

以上の改正は、2022年4月1日に施行される予定で、それ以降保存を行う場合に適用されることになっています。

ここで取り上げた「電子帳簿保存法」の改正内容は主要なものだけですが、そのほかの改正内容も含めて、ほぼ(図5)の経済産業省の改正要望を満たす内容となっています。

今回の改正内容で大きいのは、承認制度が廃止されたことです。承認申請をしなくても良くなることで、(図2)で中小企業が利用申請しない最も大きな理由がなくなります。また、電子帳簿保存における訂正・削除・追加のログを残さなければならない要件がなくなることにより、中小企業でも、通常の会計システムをそのまま利用していくだけで、電子帳簿保存ができる可能性が大きくなりました。特に、クラウド会計ソフトのように会計データの保存管理を自ら行わなくても、会計データが保全されているシステムを利用すれば、電子帳簿保存にかかる手間はほぼなくなります。電子帳簿保存に取り組めば、電子でデータを作成しているのに、紙に総勘定元帳などを印刷して保管・管理していた手間をなくすことができます。

スキャナ保存についても、タイムスタンプ付与の期限が延長され、さらに一定の要件を満たせばタイムスタンプは不要になりました。また、「定期検査」など細々と規定されていた「適正事務処理要件」も廃止されました。(図2) 中小企業が利用申請しない理由の「制度が複雑」な部分はほぼ解消されました。また、「定期検査が終わるまで紙を保存しておく必要」もなくなりました。

ただし、中小企業が取り組むとすれば、誰がいつどのような方法でスキャナ保存するのか、など社内での決め事はきちんとした上で、漏れのないように取り組む必要があることは留意しておく必要があります。このような点がネックとなり、今回の改正でも、まだ利用が進まない可能性もあるではないかと考えます。

むしろ、前回取り上げた「電子インボイス」のように、現場で電子データとして作成された請求書が、電子データのまま流通し、「電子取引」として、そのまま保存できるようにした方が、中小企業としても取り組みやすくなると考えます。

「電子帳簿保存法」は、正式名称の通り、紙の保存が原則で電子保存は特例とした法律です。今回の改正でも、その点は変わらないようですが、承認申請が廃止されることから、電子保存を特例とすることから電子保存が原則となる方向へ、かなり前進した内容となっています。

今回の税制改正のなかでも、管政権が掲げるデジタルを原則へという方向性が反映した改正内容と言えるのではないでしょうか。

改正のような動きが、今後の中小企業のより効率的なIT化の推進、生産性の向上につながるような相乗効果に期待して、推移をみていきたいと思います。

中尾 健一(なかおけんいち)
Mikatus(ミカタス)株式会社 最高顧問

1982年、日本デジタル研究所 (JDL) 入社。30年以上にわたって日本の会計事務所のコンピュータ化をソフトウェアの観点から支えてきた。2009年、税理士向けクラウド税務・会計・給与システム「A-SaaS(エーサース)」を企画・開発・運営するアカウンティング・サース・ジャパンに創業メンバーとして参画、取締役に就任。現在は、2019年10月25日に社名変更したMikatus株式会社の最高顧問として、マイナンバー制度やデジタル行政の動きにかかわりつつ、これらの中小企業に与える影響を解説する。