新型コロナウイルスの感染拡大が続き外出自粛が求められている中、携帯電話各社がスマートフォンなどから取得した位置情報を基にした位置情報データを活用し、人の流れを把握する動きが進んでいる。こうしたデータはどのようにして集められているのか、またプライバシーへの配慮はどのようになっているのかを確認してみたい。

携帯3社や関連する企業が行政にデータを提供

今なお世界的な感染拡大が続く新型コロナウイルス。一時と比べれば落ちてきているとはいえ、国内でも感染拡大が続いていることから、2020年4月7日に発令された政府の緊急事態宣言が5月31日まで延長されている。

そうしたことから多くの地域では2020年5月時点でも不要不急の外出を自粛するよう求められており、特に13の特定警戒都道府県では、依然として人との接触を7~8割減らすことが求められている。そして外出自粛に向け人の動きを把握するための手段として、政府は2020年3月31日、携帯電話会社などに人の移動を統計的に集計したデータを提供するよう要請している。

そうした要請を受けてか、携帯電話各社は利用者の位置情報から人の動きを把握できるデータやツールを、政府や自治体などに提供する動きが広まっているようだ。実際NTTドコモは、新型コロナウイルス感染防止のため「モバイル空間統計」を活用した人口変動分析情報を公開。KDDIも利用者の位置情報ビッグデータを分析する「KDDI Location Analyzer」を自治体に無償提供する取り組みを進めている。

  • KDDIは技研商事インターナショナルと共同でauスマートフォンの位置情報などから人口動態を把握する「KDDI Location Analyzer」を開発

    KDDIのプレスリリースより。KDDIは技研商事インターナショナルと共同でauスマートフォンの位置情報などから人口動態を把握する「KDDI Location Analyzer」を開発、緊急事態宣言を受け自治体への無償提供を打ち出している

またソフトバンクは、傘下のAgoopという企業が提供している「人口流動データ」を政府や自治体などに提供。同社は2020年4月30日に厚生労働省と「新型コロナウイルス感染症のクラスター対策に資する情報提供等に関する協定」を締結したことも発表している。

では一体、各社はこれらのデータをどうやって取得しているのかというと、その方法は大きく2つある。1つはスマートフォンのGPS等を使ってアプリから位置情報を取得する方法であり、各社が提供しているアプリ利用者の位置情報を取得、集計することで各地域での人口変動を把握している訳だ。

  • Agoop発表資料より。同社は提供するアプリのGPS情報を収集し、人の流れを把握する「流動人口データ」を提供している

そしてもう1つは基地局の位置情報である。携帯電話は基地局に接続して通信する仕組みなので、「どの端末がどこの基地局に接続しているか」を知れば利用者の大まかな位置を知ることができる。そこで基地局の接続データから利用者の情報を集めることで、人の流れを把握している訳だ。

  • NTTの「モバイル空間統計」では基本的に、基地局に接続している携帯電話のデータから利用者の大まかな位置情報を取得することで人の流れを把握している

どちらの方法を用いて位置情報を取得しているかは企業によって異なる。Agoopの人口流動データは前者、NTTドコモのモバイル空間統計は後者を主に用いており、KDDIの位置情報ビッグデータは双方を活用しているようだ。

コロナ以前からの取り組み、プライバシーへの配慮も

携帯電話会社やそれに関連する企業が、位置情報を基に人の流れを把握するデータを提供するという取り組みは、実は新型コロナウイルス以前から存在している。モバイル空間統計などは2013年より実用化に向けた動きが進められているし、Agoopのデータはかつて、現在のソフトバンクに当たるソフトバンクモバイルがエリア改善のため積極活用していたことで知られている。

なぜこうしたデータを提供する動きが進んだのかというと、そもそも広域での人の流れを把握することはこれまで非常に難しいことであったが、有益性が高くビジネスチャンスにもつながるためだ。実際新型コロナウイルスの対策以前にも、こうしたデータは自治体の災害対策や、企業の広告・マーケティング活動などに活用されてきた実績がある。

  • NTTドコモと電通が2019年に設立したLIVE BOARDでは、モバイル空間統計のデータなどをデジタル屋外広告の配信に活用する取り組みを進めている

一方で、多くの人が気にするのはプライバシーへの配慮ではないだろうか。各社が位置情報をはじめとしたさまざまな情報を取得することが、特定の個人の行動を把握できてしまうことにもつながり、何らかの形でプライバシーを大きく侵害してしまう可能性が出てくることを懸念している人も少なくないと考えられる。

だが各社は、当初からデータのビジネス活用を念頭に入れていたこともあり、プライバシーへにはかなり配慮した上でサービス提供をしている。データを取得する際には事前に利用者の同意を得ており、どうしてもデータ提供をしたくない人にはそれを解除する方法も用意している。

また取得したデータから特定の個人を特定できないよう、位置は大まかなエリア単位で集計する、年齢なども「30代」といったように大まかな区分に変換するなどの措置が取られている。さらに人数が少ないエリアの数値を除去することで、一層人物を特定できないよう秘匿性を高める配慮もなされているのである。

  • モバイル空間統計ではプライバシーへの配慮のため、個人が特定できないよう個人を識別できる情報を排除して集計し、さらに少人数の場所は除去して秘匿性を持たせるなどの取り組みをしている

新型コロナウイルスの影響は今しばらく続くと思われるが、だからといって海外でいくつかの事例が見られる、スマートフォンアプリなどを通じて行政がプライバシー侵害の可能性がある管理・監視を進めてしまうことは、今後個人の権利保障を大きく損なってしまう懸念がある。それだけに、プライバシーに配慮したデータの活用こそが、感染拡大防止に寄与することに大いに期待したいところだ。