新型コロナウイルスの感染拡大による政府の緊急事態宣言発令で外出自粛が続き、自宅での動画視聴やテレワークによるビデオ会議の利用が増えるなどしてデータ通信のトラフィックが急増している。だが携帯大手3社によると、モバイルでのデータ通信はあまり増えておらず、むしろ減ったとの声もある。なぜモバイルのデータ通信は増えなかったのだろうか。

ビデオ会議の利用拡大も、モバイル通信は微増~微減に

世界的に猛威を振るっている新型コロナウイルスの感染者が国内でも急増したことから、政府は2020年4月7日に緊急事態宣言を発令し、外出自粛や一部業種への休業要請などを実施。2020年5月25日に全国での解除がなされるまで、最も長い関東の4都県では1カ月半、外出自粛が続いたこととなる。

その影響で長時間自宅で過ごす人が増え、利用が拡大したのがインターネット関連サービスだ。自宅待機が続いたことで動画配信などエンタテインメント系サービスの利用が増えたというのはもちろんだが、特に利用が急増したのは、テレワークでの打ち合わせや、友達・家族とのコミュニケーションに多く用いられた「Zoom」などのビデオ会議サービスではないだろうか。

実際、傘下企業が法人向けにZoomを販売しているソフトバンクは、2020年3~4月のZoomの新規契約ID数が、感染拡大前となる2020年1~2月の41倍に達したとのこと。2020年5月には、グーグルが「Google Meet」を一般のアカウントにも無料で提供したこともあり、ビデオ会議サービスの利用はこの1、2カ月のうちに大幅に拡大しているようだ。

  • 傘下企業が企業向けにZoomを販売しているソフトバンクは、3~4月のZoomの新規契約ID数が、1~2月の41倍に急増したとしている

    傘下企業が企業向けにZoomを販売しているソフトバンクは、3~4月のZoomの新規契約ID数が、1~2月の41倍に急増したとしている

だがそうした映像を扱うサービスは、やり取りするデータ量が多いので通信回線のトラフィックを大幅に増やし、ネットワークの混雑を生み快適に利用できなくなることにもつながってくる。実際NTT東日本が公表している資料によると、2020年5月18日週の東日本全域における「フレッツ光」の平日トラフィックは、感染拡大前の2020年2月25日週と比べ、昼間の時間帯で最大61%、夜間帯で15%増加したとのこと。平日の昼間を中心に大幅な伸びを見せているようだ。

  • NTT東日本のWebサイトより。同社の「フレッツ光」の平日の通信トラフィックは、感染拡大前と比べ平日昼間に約6割伸びたという

なのであれば、スマートフォンでのデータ通信利用も増えてモバイルのトラフィックが大幅に増えているのでは? と考える人も少なくないだろう。だがゴールデンウィーク前後にかけて携帯電話大手3社が実施した決算説明会で語られた内容を振り返ると、意外にもモバイルデータ通信はあまり増えていないようなのだ。

実際、NTTドコモは、新型コロナウイルス感染拡大によるモバイルデータ通信への影響は「限定的」と説明。ソフトバンクも固定通信のトラフィックは昼間に倍増したとする一方、モバイルのトラフィックの伸びは数十%伸びているとしながらも、固定通信程ではない様子を示している。

しかもKDDIに至っては、モバイルデータ通信トラフィックがむしろ減少していると説明していた。一体どういうことなのだろうか。

固定に流れたトラフィック、むしろ伸びたのは音声通話

各社の説明から見るに、緊急事態宣言下でモバイルデータ通信のトラフィックが大きく伸びなかった要因は大きく2つあるようだ。1つは自宅待機が続いたことで、自宅の固定回線を利用する機会が大幅に増えたためである。

元々光回線などを引いている家庭であれば、自宅ではスマートフォンでも料金や通信量を抑えるため、Wi-Fi経由で通信する人が多い。それゆえ外出自粛で自宅にいる時間が長い状況下では、スマートフォンで発生したデータ通信トラフィックの多くが、必然的にWi-Fi経由で固定回線に流れたと考えられる訳だ。

そしてもう1つは、やはり外出自粛の影響によって、外でスマートフォンを利用する機会が大幅に減少したためだ。特に都市部では通勤・通学時や昼休みの時間帯などに、外でスマートフォンを利用する機会が多い傾向にあるが、外出自粛でそうした需要が激減したことから、動画の利用などで伸びたトラフィックを相殺する結果に至ったのではないかと推測される。

データ通信のトラフィックがあまり増えなかった一方、利用が大幅に伸びたとされているのが音声通話である。テレワークの増加で社員同士のコミュニケーションが取れなくなったことから、誰でも利用できる最もスタンダードなコミュニケーション手段として、音声通話が多く用いられたようだ。

だが現在は、各社とも定額で音声通話がし放題になる料金プランやオプションなどを提供している。それゆえ音声通話のトラフィックが増えても、それが大幅な収入増につながらないというのは、携帯電話会社としては残念な所であろう。

  • NTTドコモの2019年度決算説明会資料より。テレワークでもモバイルのデータ通信トラフィックは伸び悩む一方、音声通話は大幅に伸びているという

とはいうものの、今回の騒動によってビデオ会議やそれに類する映像でのコミュニケーションを多くの人が認知したことから、今後インターネットを介した映像によるコミュニケーションはよりスタンダードな存在になっていくと考えられる。さらに今後、4Gよりもはるかに高速大容量の通信を、場所を選ばず定額で利用できる5Gが広く普及することで、必ずしも固定回線を引く必要もなくなってくるだろう。

  • モバイル回線を固定回線として利用するWi-Fiルーターなどは、高速大容量通信に強い5Gのエリアが広まるとともに、固定回線の代替として利用が拡大する可能性が高い

そうなれば将来同様の事態が発生した時は、モバイルでも音声通話よりデータ通信のトラフィックが大幅に増えるようになる可能性が高いだろう。5Gが主流となる“アフターコロナ”の世界では、モバイルを取り巻く環境も大きく変わっていくのではないかと筆者は感じている。