2019年10月に電気通信事業法が改正され、楽天モバイルを含む携帯電話4社は分離プランの導入義務化に加え、端末値引きやいわゆる“2年縛り”の違約金に大幅な規制が加えられている。だがその規制の影響は、低価格競争の立役者でもあるMVNOにまで及んでいる。なぜだろうか。
改正法の対象は大手3社だけではない
2019年、携帯電話業界で起きた大きな出来事と言えば、真っ先に挙げられるのは10月に実施された電気通信事業法の改正であろう。
この法改正によって、携帯電話料金と端末代を明確に分離した「分離プラン」の義務化がなされたほか、いわゆる“2年縛り”の違約金を従来の10分の1水準にまで規制。さらにスマートフォンの値引きも、一部例外を除き2万円までと、非常に厳しい規制がなされることとなった。
改めて、なぜこのような法改正がなされたのかといえば、スマートフォンを「実質0円」など極度に安い値段で販売し、その代わりに利用者の契約を長期間拘束するという携帯電話業界の手法を行政側が長年問題視していたため。その商習慣を根絶し、通信料金の値下げ競争を加速するべく、総務省を中心に行政が積極的に動いて法改正の実現に至ったのである。
そしてこの規制対象となっている企業の1つは、「携帯電話サービス」及び「全国BWAサービス」(BWA=Broadband Wireless Access)を提供していること、つまり自らネットワークインフラを構築している事業者とされている。それゆえNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの大手3社は規制対象となり、その中にはソフトバンクのサブブランド「ワイモバイル」も含まれる。
また自らネットワークを提供しているということで、新規参入の楽天モバイルも規制対象となる。さらに言えばKDDI傘下のUQコミュニケーションズも、自ら「WiMAX 2+」方式によるBWAサービス「UQ WiMAX」を全国的に展開していることから、同社が展開しているスマートフォン向けの通信サービス「UQ mobile」も規制対象だ。
だが、改正法の規制対象となっているのは、そうした携帯電話大手やそのサブブランドだけではない。実はMVNOのいくつかも規制対象となっており、大手と同様に端末値引きや“縛り”などさまざまな面で規制を受けてしまっているのだ。
MVNOの競争環境を考えると疑問が残る規制
その1つは、携帯電話大手のグループ会社がMVNOとして展開しているサービスである。代表的な例としては、ソフトバンク傘下のLINEモバイルが展開している「LINEモバイル」や、KDDI傘下のビッグローブが展開している「BIGLOBEモバイル」などが挙げられるだろう。
また少々意外な所では、NTTコミュニケーションズの「OCNモバイルONE」も、NTTドコモの傘下企業ではないがグループ会社という扱いとなるため規制対象だ。OCNモバイルONEといえば、NTTコミュニケーションズ傘下のNTTレゾナントが展開するECサイト「goo Simseller」で、同サービスのSIMとSIMフリースマートフォンをセットで購入すると激安価格で購入できることで人気を獲得していたが、法改正による規制を受けたことを受け、現在はその値引き額も2万円以内に制限されてしまっている。
そしてもう1つ、規制対象となっているのは、モバイル通信サービスの総契約者の0.7%を超える加入者を獲得している企業である。分かりやすく言えば、約100万契約を超えている企業がその対象になると考えていいだろう。
現在、純粋な独立系のMVNOで、なおかつ100万契約を超えているのは「IIJmio」を展開するインターネットイニシアティブと、「mineo」を展開するオプテージの2社。これらも改正法の規制対象となるため、10月以降端末の値引きなどには制限がかけられているのだ。
もちろん、100万契約を超えていないMVNOは規制対象外なので、端末とのセット販売による大幅値引きで顧客を増やすことに問題はない。だがそれによって多くの契約を獲得し、100万契約を超えると途端に規制対象となることからリスクは非常に大きいのも事実。MVNOはかなり安い水準の通信料金でサービスを提供しており、通信料金の値下げによる競争は既に難しい状況にあるにもかかわらず、端末値引きで競争力強化を図ることも難しくなってしまった訳だ。
それゆえもし今後、行政の思惑通りに携帯電話会社の料金競争が加速し、携帯電話大手の料金が大幅に値下がりした場合、大半のMVNOは生き残ることができず廃業ラッシュが起きてしまうかもしれない。比較的弱い立場であるMVNOの将来を考えると、行政側は規制の対象をそこまで広げる必要があったのか? と疑問符がついてしまうというのが正直な所だ。