タブレット端末がビジネスで使われはじめた

2012年9月。新たな製品ブランド(パナソニックではプロダクトネームと呼称)として「タフパッド」が登場した。

頑丈設計とセキュリティを実現したタブレット端末として開発したもので、タフパッドの第1号製品となったのは「FZ-A1」。10.1型XGA液晶パネルを搭載し、OSにはAndroid 4.0を採用していた。

  • タフパッドの第1号製品となる「FZ-A1」

    タフパッドの第1号製品となる「FZ-A1」

発端となったのは、2010年1月に、アップルが発表したiPadによって、タブレットという新たな市場が創出されたことが背景にある(日本では2010年5月28日に発売)。当初はコンシューマユーザーの利用が多かったが、2011年3月のiPad2、2012年3月に第3世代のiPadが発売され、進化を遂げたのにあわせて、ビジネス用途でiPadの導入を検討する企業が増加してきた。また、同時に、Androidを利用したタブレットをデバイスメーカー各社が発売。タブレット市場が一気に形成され、ビジネス用途での利用が急増していった。

そうしたなかで、一般的なタブレット端末では、頑丈性能やセキュリティ、屋外での視認性などの点で課題が生まれはじめ、現場で使うことができるタブレットに対するニーズが膨れ上がってきたのだ。パナソニックは、ここにタフブックで培ってきたノウハウが活用できると考えた。

  • タブレット市場は、初代iPadが創出したと言って間違いないだろう

    タブレット市場は、初代iPadが創出したと言って間違いないだろう

アップルのiPadに代表されるように、タブレットがパッドと呼ばれ、新たな市場が形成されていたことから、この領域における製品マーケティングに適した名称として、パッドを使用することを決定。そこで考案された新たなブランドが「タフパッド」であった。堅牢性の高いタブレットという同製品の狙いを象徴するという点で、最適な名称であったといえる。

第1号製品となった「FZ-A1」は、120cm落下試験や、IP65準拠の耐水性能や防塵性能を備え、ハードウェアレベルのセキュリティ機能、屋外での視認性を高めた500cd/m2の高輝度を持つ液晶パネルなどを搭載。筐体内側のケースはマグネシウム合金、コーナーガードとしてエラストマー樹脂を一体成型し、落としてもガラス面に影響が及ばない構造とした。それでいて、970gの軽量化を実現している。

パナソニックでは、「FZ-A1」に続き、2013年3月には、Windows 8 Proを搭載した堅牢タブレット「FZ-G1」を発売するとともに、7型WSVGAを搭載したAndroidタブレット「JT-B1」を投入。さらに、2014年7月には、5型液晶パネルを搭載したハンドヘルド型の「FZ-E1」(Windows Embedded 8 Handheld搭載)および「FZ-X1」(Android 4.2.2搭載)を追加。2014年2月には、20型4K液晶パネルを搭載した「UT-MB5」も市場投入した。

  • タフパッドブランドの「FZ-E1」(左)と「FZ-X1」

    タフパッドブランドの「FZ-E1」(左)と「FZ-X1」

このようにして、タフパッドの製品ブランドで、頑丈タブレットや頑丈ハンドヘルドとして、続々と製品ラインアップを拡充。2016年6月には、WindowsおよびAndroidともに、4.7型、5型、7型、10.1型の幅広い品揃えを実現し、新たな市場を積極的に開拓していったのだ。

ちなみに、2016年6月に発表した「FZ-A2」の記者会見では、マイナス20度で24時間氷漬けにした状態のタフパッドを会場に持ち込み、ハンマーで氷を砕き、電源を入れてもしっかりと動作するという驚くべきデモンストレーションを行ってみせた。動作保証外の実験ではあったが、記者会見でそこまで披露したのは、まさに堅牢性への自信の表れだったといえる。

  • 2016年6月に発表した「FZ-A2」

    2016年6月に発表した「FZ-A2」

  • 「FZ-A2」の発表会では、マイナス20度で24時間氷漬けにした状態をハンマーで砕き、電源を入れるという驚くべきデモストレーションを行ってみせた

    「FZ-A2」の発表会では、マイナス20度で24時間氷漬けにした状態をハンマーで砕き、電源を入れるという驚くべきデモストレーションを行ってみせた

タフパッドには、複数の潮流がある

その潮流を、組織体制の変化とともに、捉えてみたい。

ひとつめの潮流は、タフブックを展開してきたITプロダクツ事業部によるものだ。堅牢ノートパソコンのノウハウや実績をベースに、新たに堅牢タブレットを開発。初代タフパッドとなったAndroid搭載の「FZ-AI」や、初めてWindowsを搭載したタフパッド「FZ-G1」などが、これにあたる。

もうひとつは、決済端末やファクシミリなどを製品化してきたパナソニックシステムネットワークス(PSN、旧・九州松下電器)による展開だ。

ここには、2つの流れがある。

PSNでは、2012年7月から、ビジネス向けタブレット「BizPad」を独自に展開してきた経緯があり、このノウハウを活用した製品として、7型液晶パネルを搭載し、150cm落下試験をクリアしたタフパッド「JT-B1」などを開発した。

その一方で、パナソニックグループで、携帯電話事業を行っていたパナソニック モバイルコミュニケーションズ(PMC、旧・松下通信工業)が、2013年9月に、ELUGAブランドで展開していたスマホ事業から撤退することを正式に発表。PMCでは、フィーチャーフォンに事業を集中させるとともに、設計チームの一部がPSNのターミナルビジネスユニット(TSBU)に異動。スマホで培ったノウハウをタフパッドのモノづくりに生かせる体制を整えた。

この動きと並行するように、2013年7月には、パナソニックのITプロダクツ事業部とPSNのTSBUが、一体経営を開始。2014年4月には、成果の第1弾として、5型液晶パネルを搭載したタフブック「FZ-E1」および「FZ-X1」を、PSNが発売した。

「FZ-E1」および「FZ-X1」は、当時の実人口カバー率で99%を達成していたプラチナバンド 800MHzの「4G LTE」に対応し、防塵、防水、耐落下性能、衝撃性能を向上させたのに加えて、6200mAhの高容量バッテリーを搭載。画面が濡れていたり、手袋をしたりといった状況下でも画面操作が可能であるほか、バーコードリーダーの搭載を可能とし、電気、ガス、水道、公共といった屋外での作業が中心となる用途や、物流、小売、製造分野においても、バーコードを使った業務効率化を可能にした。同製品が、音声通話の機能を持っていることからも、スマホを起点としたモノづくりを継承していることがわかる。

3つの潮流から生まれたタフパッドは、いずれも堅牢性を追求したタブレットデバイスという点では共通しており、それぞれの開発チームが蓄積したノウハウを生かしながら、WindowsおよびAndroidを搭載した製品群をラインアップし、幅広いユーザーニーズに対応できるようにしていった。

2015年4月には、パナソニックAVCネットワークス社ITプロダクツ事業部と、PSNのターミナルビジネスユニット、パナソニック モバイルコミュニケーションズの一体経営を開始。その成果として、2016年2月には、タフパッドとして最も小型となる4.7型液晶パネル搭載の「FZ-N1」および「FZ-F1」がPMCから発表されており、堅牢技術と移動体通信技術の掛け合わせをさらに進化させてみせた。

  • タフパッドとして最小となる4.7型液晶を搭載した「FZ-N1」

    タフパッドとして最小となる4.7型液晶を搭載した「FZ-N1」

  • 「FZ-N1」および「FZ-F1」はバイクに取りつけた利用も提案

    「FZ-N1」および「FZ-F1」はバイクに取りつけた利用も提案

米国市場では、政府や警察などへの導入を中心にして、大画面モデルに対する需要が高いため、タフブックの販売比率が高かったが、欧州市場では、現場に持ち込んで利用する民間企業での利用が多かったこともあり、タフパッドの売れ行きが大きく拡大した。

欧州のある自動車メーカーでは、故障診断の現場での利用に続いて、営業現場でもタフパッドを利用。その成果を製造ラインにも拡大していったという。また、ある鉄道会社では、車掌が運行管理にタフパッドを利用。4000台のタフブックに続いて、4000台のタフパッドを導入したほか、別の鉄道会社では、従来は専用端末を利用していた車掌向けデバイスを「FZ-G1」に置き換え、車掌運行マニュアルを表示したり、車両や線路のメンテナンスにも利用し、通信機能による故障診断やレポートの収集に利用したりといった活用を行ったという。こうした相次ぐ一括導入商談の成果もあり、タフパッドは、欧州の鉄道分野において、圧倒的なシェアを獲得したのだ。さらに、ガスや水道、通信、流通といった領域でもタフパッドの導入が進んでいった。

日本では、近畿日本鉄道(近鉄)が、7型液晶パネルを搭載した「FZ-B2」を2016年3月から導入。2016年5月に、三重県の伊勢志摩で「G7伊勢志摩サミット」の開催により、訪日外国人観光客が増えたことにあわせて導入した多言語車内放送システムの端末として活用した事例がある。

また、北海道岩見沢市では、除雪作業車による除雪位置の指示にタフパッド「FZ-G1」を使用。高精度測位システムとの連携により、10cmという範囲での測位を可能とし、雪に覆われた道路建造物を可視化して、除雪車が除雪作業時に側溝に落ちてしまうという事故を事前に防ぐことができるようになった。この技術は幅広い応用範囲が見込まれた。鉄道の鉄道保線管理では、草が生い茂って場所が特定できない場合に活用。自治体における水道制水弁位置管理、建設・土木の地質調査やボーリング調査などの際の位置誘導、貨物コンテナ管理、土壌および水質の環境調査にも用途を広げることができたという。

  • 北海道岩見沢市で実証実験を行った「CF-G1」を使用した除排雪作業支援システム

    北海道岩見沢市で実証実験を行った「CF-G1」を使用した除排雪作業支援システム

2016年6月に、兵庫県神戸市の神戸工場で行ったタフパッド「FZ-A2」の発表会見では、タフブックの事業開始から20周年の節目ということもあり、タフパッドの導入事例を数多く紹介してみせた。

日本では、先に触れた近畿日本鉄道のほか、ALSOK、日本マクドナルドなどが導入。海外では、電力会社のErgon Energy、堅牢カスタムカーサービスのSurvivor Truck、土木建設のFULTON HOGAN、オンラインスーパーマーケットのOcado、カーメンテナンスのMODAS、自治体としては米イートン群を紹介。幅広い業種の企業からコメントが寄せられ、現場の使いやすさや堅牢性、長時間駆動に対する高い評価のほか、故障の減少によるコストダウンや、労働時間の短縮、現場業務の簡略化などでも成果が出ていることが示された。

  • パナソニックコネクト神戸工場でもフォークリフトにタフパッドを搭載して現場作業の効率化を図っている

    パナソニックコネクト神戸工場でもフォークリフトにタフパッドを搭載して現場作業の効率化を図っている

「パッド」から「ブック」へ、進化の先にあったブランド統一

タフパッドの出荷台数は、2013年度には、タフブックシリーズ全体の約15%を占め、さらに、その後は、3割以上にまで拡大していったという。

だが、2018年10月に発売したハンドヘルド端末「FZ-T1」では、タフブックの製品ブランドを採用。これをきっかけに、その後の堅牢タブレット、堅牢ハンドヘルドは、すべて「タフブック」にブランドを統一することになった。

製品ブランドの統一には、いくつかの理由がある。

当初は、筐体の形状が異なり、用途も異なる製品であったことから、別のブランドとしていたが、タフブックとタフパッドを組みあわせたビジネス利用が進展。ブランドが分散していることでのマイナス面が見られ始めたこと、タフパッドで目指した商品マーケティング戦略において、当初の目的を達成したと判断したこと、そして、グローバルのブランドエクイティ(資産価値)を高めるためには、タフブックに製品ブランドを統合することが得策であると判断したことなどが背景にある。

ここでは、組織再編の動きも少なからず影響しているといえそうだ。

先述したように、タフパッドの製品ブランドがスタートした時点では、大きく3つの潮流があり、それぞれにタフパッドブランドの製品を開発していたが、2015年4月に、パナソニックのITプロダクツ事業部と、パナソニック モバイルコミュニケーションズのターミナルビジネスユニット、パナソニック モバイルコミュニケーションズの一体経営を開始したのに続き、2016年9月には、ITプロダクツ事業部を傘下に収めるパナソニックAVCネットワークス社の事業再編が本格化。2017年4月にコネクティッドソリューションズ社を設立する一方、パナソニック モバイルコミュニケーションズ(PMC)に、移動体通信事業と決済端末事業を統合。2018年度には、タフブックを推進するコネクティッドソリューションズ社モバイルソリューション事業部に、これらの体制を一本化していったのだ。

2012年9月に第1号製品を投入した「タフパッド」であったが、その製品ブランドは、6年間で消えることになった。

だが、グローバルで認知度が高いタフブックに製品ブランドを一本化することで、堅牢なデバイスのイメージをさらに高めることができるようになったのは明らかである。