これまで3回にわたり、飛来する極超音速飛翔体に対する「探知・追尾」と「情報処理」の話を書いてきた。これらはいずれも、飛来する極超音速飛翔体を撃ち落とすための前段階となるプロセスである。撃ち落とすには、撃ち落とすための道具が必要だ。

どこで迎え撃つか

弾道ミサイルが対象の場合、すでに「ブースト」「ミッドコース」「ターミナル」と3つのフェーズに分けて、それぞれに最適化した迎撃手段を配備する方向性が固まっている。それと比較すると、極超音速飛翔体が相手の場合、そもそも「どの段階で何を使って迎え撃つか」という話が明確になっていない。

アメリカの動向を見ると、弾道弾迎撃用のミサイルを転用する案が出ているが、個人的にはレーザー兵器に期待している部分もある。なにしろ「光の速さで交戦できる」メリットは無視できない。ただ、飛来する極超音速飛翔体を破壊できるほどの出力を備えたレーザー兵器がモノになるには、まだかなり時間がかかると思われる。

何を使って迎え撃つかが確定していない以上、何を使って迎え撃つことになっても対応できる土台を作っておく必要がある。前回に書いたように、まず、飛来する極超音速飛翔体に関する追尾情報を得て、情報処理を行う指揮管制システムがある。すると交戦の段階では、その指揮管制システムに何らかの迎撃手段を接続することになるので、そのための仕掛けを用意しておかなければならない。

それは要するに、物理的なインタフェースであり、その上でデータをやりとりするための仕組みであり、データや指令を記述するためのデータ・フォーマット策定である。

コンピュータ・ネットワークの世界と同じで、これら各レイヤーの構成要素がそろっていなければ、指揮管制システムと武器システムの「会話」ができない。「会話」ができなければ、武器を使った交戦ができない。ミサイルを撃つには、脅威に関する情報を与えてやる必要があるし、レーザー兵器を撃つには脅威にレーザーを指向するための情報(方位、高度、針路、速力など)が要る。

当節、ウェポン・システムの業界は「オープン・アーキテクチャ」が合言葉になっており、「カスタマーが求める機器や兵装を組み合わせることができます」という触れ込みになっている。そうでなければ商売が成り立たない。

といっても、センサーにしろ交戦用の武器にしろ、単にポン付けするだけで使えるようになるわけではない。システム・インテグレーションのプロセスや、組み合わせたものが意図した通りに機能するかどうかを確認する試験のプロセスは不可欠。いざ実戦となってから「相性問題」が出た、なんてことになっては困るのだ。

陸の上にも指揮管制システム

艦艇の場合、センサーと情報処理と武器がひとつのプラットフォームの上にまとまっている。そして、使用するセンサーや武器についてカスタマーの要望に対応できるようにするため、以前からオープン・アーキテクチャ化の掛け声は賑やかだった。

また、弾道ミサイル防衛についても、広い範囲に展開したさまざまなセンサーや武器を連携させなければならないので、それらをネットワークで結んでデータや指令をやりとりできるようにして、指揮管制装置で面倒を見る必要がある。

米軍の場合、その指揮管制装置がC2BMC(Command and Control Battle Management Communications)で、担当メーカーはロッキード・マーティンだ。

これも当然ながらオープン・アーキテクチャになっているから、後から出てきた新型のセンサーや武器をC2BMCに連接できるようになっているほか、段階的な機能拡張・能力向上も図ってきている。ただ、何を使ってどこで迎撃することになるかわからない極超音速飛翔体の場合、C2BMCが面倒を見ることになるかどうかはわからない。

艦艇はひとつのプラットフォームで完結しているから、イージスのような艦載指揮管制システムに極超音速飛翔体を迎撃するための武器を組み合わせるだろうが、陸上で迎え撃つことになった場合はどうするか。

  • 米国ミサイル防衛局のC2BMCの様子 写真:米国ミサイル防衛局

実は、陸上でも防空用の指揮管制システムを開発している事例がある。それがノースロップ・グラマンのIBCS(Integrated Air and Missile Defense Battle Command System)で、航空機だけでなく、巡航ミサイルや弾道ミサイルもカバーしている。

そのIBCSの、当初の触れ込みはこうだ。

「センサーとシューターを単一のネットワークに統合化。ソフトウェアの共通化とインタフェースの標準化により、モジュラー化とオープン アーキテクチャ化を実現する」

  • 統合防空ミサイル防衛 (IAMD) 戦闘指揮システム (IBCS) 用に、米陸軍に納品された最初の生産試作品となる交戦運用センター 写真:ノースロップ・グラマン

センサーとは、レーダーを初めとする探知手段のこと。AN/MPQ-64センティネルみたいな移動式の対空捜索レーダーが主体となる。シューターとは、MIM-104パトリオット地対空ミサイルみたいな交戦手段のことだ。

そしてここでもオープン・アーキテクチャ化が謳われている。もしも米陸軍が極超音速飛翔体の迎撃手段を配備すると決めれば、そこで使用する武器をIBCSに組み合わせることになると思われる。

先にも書いたように、まだどんな武器が使われるかは確定していないから、何が出てきても対応できる「受け皿」は用意しておかなければならない。もちろん、組み合わせる武器の側でも同様の配慮は要るのだが。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。