有機ELが市場を席巻する中小型FPD/スマホ市場

IHSの早瀬宏シニアディレクターは、中小型FPD市場の動向として、2017年11月に、iPhone10周年モデルと位置付けられたAppleのスマートフォン「iPhone X」が、新たにフルスクリーンタイプのフレキシブル有機ELパネルを採用するなど、従来からのデザインを一新した、新世代のiPhoneとして登場したことを取り上げ、今後の有機ELの需要を占う存在として、その売上台数の推移が注目されるとした。

2017年は、第3四半期より、iPhone X向けに有機ELの出荷が立ち上がり、第4四半期に向けて大きく出荷を伸ばした事で、有機EL全体の市場規模を押し上げる結果となった。これにより、2017年の中小型FPD市場の出荷金額は、前年比27%増という高い成長率を達成した模様だ。ただ、この市場の成長をSamsungが独占的に享受する結果となろうとしているとのことで、有機ELを採用したiPhone Xの登場は、有機ELに対する期待を高めたとともに、中小型FPD市場に大きな影響を与えたと言えるだろうともした。

LCDを継ぐ次世代FPDとして期待されている有機ELは、フレキシブル性でLCDとの差別化を図り、上位機種のスマホ需要を一気に担おうとしている。ただし、フレキシブル有機ELの技術的難易度からSamsung Electronicsの独占供給が続いていることから、供給面での懸念とコスト高を鑑み、中級機クラスでの採用は後退する動きを見せているという。代わりに、中級機クラスではa-Si TFT-LCDからLTPS TFT-LCDへと移り変わりつつあり、需要の伸びに呼応して技術的に向上した中国LCDメーカーが出荷数を伸ばしており、FPD全体におけるLTPS数量が拡大することが期待されるという。

  • 2017年のスマートフォン向け有機ELメーカー(左)、LTPS TFT-LCDメーカー(中央)、a-Si TFT-LCDメーカー(右)の出荷数量シェア見通し

    2017年のスマートフォン向け有機ELメーカー(左)、LTPS TFT-LCDメーカー(中央)、a-Si TFT-LCDメーカー(右)の出荷数量シェア見通し。有機ELはSamsungの独占供給状態に大きな変化はない。LTPSはジャパンディスプレイがトップシェアを守ったが、中国メーカーが出荷数を伸ばしており、Tianmaが出荷数量で2番手に躍進。a-Siは中国メーカーの寡占化が進むとみられる (出所:IHS Markit)

携帯電話市場では、2018年に入りフルスクリーン化に伴うワイド化、サイズのさらなる大型化が加わる事で、表示容量や画面サイズに関する予測が大きく変化したものの、全体の数量規模は大きな変動は無い。

なお早瀬氏は、差別化と高付加価値化で大きな市場規模を獲得した有機ELだが、今後、さらに数量を伸ばそうとすればTFT-LCDとの競合により価格の下落につながる可能性が高い。プレミアム路線で成功した有機ELはどの様に数量と金額の規模を平衡させていくか、極めて難しい舵取りを求められる事になるだろうともコメントしていた。

スマホ以外のモバイル市場は車載用途に注目

このほか早瀬氏は、スマホに需要を侵食され、生産規模の縮小が続いてきたスマホ以外の中小型のアプリケーションの動向にも触れた。携帯ゲーム機などで復調の兆しが訪れているとし、長期予測では、多くのアプリケーションで前回予測から、上振れに変化しているとしつつも、市場全体におけるスマホの比率がタ余っており、全体の中小型FPDの出荷数そのものに大きな変化はないとした。

ただし、車載モニタ市場は安定的かつ持続的な成長を維持しているとし、2017年の車載モニタ用TFT-LCD出荷数量は前年比11%増の1億4600万枚との見通しを示した。また、将来的に、自動車がフルガラスコックピットを目指す流れがあるとし、クラスタモニタは大画面化と共に多彩なデザインのFPDが採用されるようになるほか、センターディスプレイはタブレットPCを意識した操作性や多段化による利便性の向上が進められ、HUDも軽自動車クラスにまで採用が広がりを見せるなど、今後、自動車でのさらなる需要拡大が期待されるとし、今回の市場予測では、新たに車載モニター全体の大画面化・高精細化が加速するものと見直しを加えたつつ、総需要は年間2億枚規模を目指して順調に成長が続くとの従来の予測に変化は無いとした。

  • 2017年TFT-LCDメーカーの車載モニタ用パネル出荷数量シェア見込み(左)、および2017年車載機器メーカーのTFT-LCD調達数量シェア(右)

    2017年TFT-LCDメーカーの車載モニタ用パネル出荷数量シェア見込み(左)、および2017年車載機器メーカーのTFT-LCD調達数量シェア(右)。パネルメーカーではジャパンディスプレイが首位を維持、2位以下は僅差で順位が入れ替わる状態になっている。納入先ではContinentalがTFT-LCDの調達数量を大きく伸ばしている (出所:IHS Markit)

ノートブックPC市場

IHSの台湾在住アナリストであるJeff Lin氏は、2018年のノートブックPCの出荷台数は、コンポーネント供給の制約を受けて前年比1.1%減になるとの予測を示した。

キーボード操作を主体とする通常のノートPCの使い方の他に、タッチディスプレイを使った(キーボードを使用しない)タブレット型端末としての使い方にも対応するコンバーチブルPCは北米では人気があるが、中型/高価格帯の製品として定義されているため、その需要は継続的に増加することはないという。そのため、PCブランド各社は2018年以降、より低価格のコンバーチブルPCであるChromebookへの注力を加速するとしている。

(次回は2月7日に掲載します)