東京発の家電ベンチャーとして、2020年に誕生したEPEIOS。日本、中国、韓国などを拠点に、日本のものづくりの知見を活かした調理家電や生活家電などを自社開発している。

2022年秋には、新たなブランド「FoElem」シリーズを発表。エルメスのデザイナー2名が参加し、先進的なデザインとアイデアを盛り込んだ4製品を展開する。

  • EPEIOSの新ブランド「FoElem」シリーズは、「Four Elements(4元素=風・火・水・土)」に由来した名称。4元素のそれぞれを象徴する製品として、加湿器、ノンフライオーブン、コーヒーメーカー、サーキュレーターの4つをラインナップしている

今回は、EPEIOSの会長と社長に、FoElemシリーズの開発秘話を聞いた。

ピザ窯みたいな半円形オーブン、フォルムの実現に苦心

第1弾の加湿機(2022年11月発売)に続き、同年12月に発売されたのが「スマートノンフライオーブン Chef(シェフ)」だ。

四元素のうち“火”をテーマとした製品で、ピザ窯に着想を得た、半円形のユニークで愛らしい形が目をひく。

EPEIOS 代表取締役社長の駒崎竹彦氏は「(オーブン前面に)顔が付いたデザインなどいろいろなアイデアがありましたが、火をテーマにしていることから、最終的なデザインのイメージはピザ釜になりました」と明かす。

  • シリーズ第2弾製品として2022年12月に発売された「スマートノンフライオーブン Chef(シェフ)」(39,800円)。ピザ窯をイメージしたドーム状のフォルムがユニークだ

EPEIOS 代表取締役会長の金成賛氏も、次のように振り返る。

「最初の段階からピザ釜という印象で、かわいいなと思っていました。ノンフライオーブンは上の部分がフラットになっているものが多いのですが、何かを上に載せると危険ですし、製品にとってもよくないです。そのため、何も載せないでくださいと注意喚起しているメーカーも多いのですが、この形にすればそもそも置くことができないので、安全面でも良いですよね」(金氏)

しかし、「この特徴的なフォルムが一番の難しいポイントで、結構難産でした」とも明かす。

「デザイナーのブノワ・ピエール エミリー氏(以下、ブノワ氏)とダミアン・オー シュリバン氏(以下、ダミアン氏)は、最初に『(オーブンの)外側に(排気の穴も含め)何もつけない』と言っていました。

彼らの出してくれた初期案を、サプライヤーと製品安全の観点でディスカッションした結果、どうしても横に排気口は必要だとなりました。

さらに議論を重ね、中のファンの火力や出力、位置などを全部改良してテストした結果、排気のための穴を開けなくても、安全面では問題ないとなりました。

ただ、サンプル製造のタイミングで苦労しましたね。密閉性を担保し、安全上表面が熱くならないようにもしなければなりません。ドーム状を実現するために、最終的にパーツを2つに分けているのですが、工場でどうやって嵌めるかにも苦労しましたね」(金氏)

安全面からガラス窓になった扉部分も、骨が折れた部分だという。ガラス部分は既存の製品とはまったく構造が異なるそうだ。

「Chefに使っているガラスは1枚だけなのですが、外から見える部分以外にも扉に嵌めている部分がもう1カ所あって、階層をつけています。つなぎ目もできるだけ少なくし、前のモデルより強度を上げています。

扉の裏側も、最初は全面フラットでしたが、熱の作用でどうしてもポコポコと凹んでしまいました。実はサプライヤーチームのディレクターが、スーツケースのRemowaに関わってきた人で、手を替え品を替えさまざまな方法を試してみたところ、現在の溝の入れ方で解決しました。

見た目にはまったく影響しないのですが、実際に使っていて扉がボコボコするのは嫌ですよね。開け閉めの感覚も大事にしています。(手ごたえが)軽すぎても一気にプラスチック感が増してしまいますから、相当検証を重ねて使いやすくしています」(金氏)

  • 扉の裏側が熱で凹んでしまう問題を、スーツケースのRemowaに着想を得た加工を施したことにより解消した

今回、お手入れのための機能も既存製品から強化されている。

「スチーム機能として、庫内の汚れを落としやすくするモードと、中のダクト部分を洗浄するモードの2つを搭載しています。調理機器ですので、洗えないところが気になる方も多く、しっかりとケアできるような機能を用意しました。

前のモデルは『庫内が広くて、ロティサリー機能が使える』のが非常に評価の高いポイントでしたので、庫内容量の大きさを維持しながら、さらに美味しさや使い勝手をアップするのも力を入れたところです」(駒崎氏)

「熱が発生する機器なので、水のタンクを内蔵するとなると安全面や、使用する素材も議論しました。サプライヤー側は工数で考えます。工数が増えるぶん原価も当然上がってしまいますが、我々としてはデザイナーさんを最大限にリスペクトしたいので、デザイナーさんのアイデアを100%として、99%ぐらいは再現したいと考えました。

他に案がないのかなど、サプライヤーとこまめにコンタクトを取りながらプロジェクトを進めました。その成果もあって、デザイナーさんの案を本当にそのまま再現できるようになったと思いますね」(金氏)

  • スチーム機能を搭載したことで、水を入れるタンクやダクトを設ける必要が発生。さらに、コンパクトかつドーム型の形状の実現と、庫内容量の確保を両立しなければならなかった

個性的な4製品をファミリーにみせる“共通点”

「FoElem」シリーズでは、第3弾としてコーヒーメーカー、第4弾としてサーキュレーターの発売を近く予定している。ブランド共通のデザインについて意識した点を次のように語った。

「デザイナーのお二人の中で『家電っぽくないデザインにしたい』との思いが強くありました。例えば加湿機の本体の仕上げに関して、一般的な製品のように白でのっぺりとしているものではなく、若干グレーがかったような彫刻のようなデザインを採用し、質感にもこだわっています。

FoElemシリーズの裏テーマとも言える部分なのですが、各製品に円のイメージがデザインの象徴として入っています。例えば、加湿機であればボウルの円の形状だったり、ノンフライオーブンであれば外側のドーム型の形状。あとは素材を同じにしたりとか、共通のテーマを盛り込んでいくようにしました」(駒崎氏)

「ブノア氏は、4製品を一緒に置いてもファミリーみたいに、違和感のないようにという点を意識されていました。共通したギミックを4製品に取り入れていて、そこは技術的に苦労したところですね」(金氏)

  • 「FoElem」シリーズ4製品に共通したデザインは『円』。どの製品も個性的だが、素材に統一感をもたせ、アイコニックな円の意匠を盛り込んだ

既発の2製品のうち、金氏と駒崎氏が最後まで悩んだのは、加湿機の操作ボタンを常に表示するかどうか。「ブノア氏のアイデアを邪魔したくない」という思いで、ボタンを最小限に収めることにしたそうだ。

「何のボタンか表面にプリントして示す一般的な方法は、ユーザーの使いやすさが担保される一方、デザイナーさんの原案にあった、彫刻のような家電らしくないデザインを壊してしまいます。

そこで、ユーザビリティも保ちつつ、美しさも両立できるということで、ライトで浮かび上がるように表示しました。真ん中の部分を押せば、すべてのボタンが出てくるので、視覚的な面白さも保ちつつも、使いやすさも確保できるようにしました」(駒崎氏)

「ラグジュアリーブランドのデザイナーが手がけた優れたデザインを、できるだけ安価に実現したい」という思いから誕生した「FoElem」シリーズ。デザインだけでなく機能や質にこだわりつつも、価格がリーズナブルなことに驚きを隠せない。ブランドへの思いや決意を最後にそれぞれ次のように語った。

「日本の若い人たちにスタイリッシュなデザインの製品を届けたいというコンセプトのもと、手に届きやすい価格設定をするようにしました」(駒崎氏)

「例えば、加湿機のボウルの素材をガラスにした場合、工場側の不良率も上がってしまうので、弊社にとってのリスクも上がります。でも、ガラスとプラスチックではフォルムも全然違いますし、ライトの光り方や透過の仕方など、目に触れるたたずまいが変わります。

我々の中ではそういう要素もデザインの一部だと思うので、可能な限り原案を実現して届けたい。私も駒崎も一消費者でもあり、消費者の皆様へも、社員に対するコミットメントとしても、ブランドコンセプトに一貫性がなければないと思っています。

もちろん、製品開発のためにかなり投資はしているのですが、一ブランドとしてすぐに回収というよりは、数年先に回収できればいいと思っています」(金氏)

  • EPEIOS 代表取締役社長の駒崎竹彦氏(左)と同社 代表取締役会長の金成賛氏(右)