エルメスのデザイナー2人が参加したことでも注目を集めている、EPEIOSのIoT家電シリーズ「FoElem」。第1弾として2022年11月に加湿機、同年12月にノンフライオーブンを発売。今後、コーヒーメーカーとサーキュレーターの発売を予定している。

  • EPEIOSの「FoElem」シリーズ4製品(左からノンフライオーブン、コーヒーメーカー、加湿器、サーキュレーター)

EPEIOSは、2020年に東京で生まれた家電ベンチャー。社名と同じEPEIOSブランドにて、調理家電や生活家電など、自社開発の製品も手がけている。

今回は、「FoElem」シリーズの立ち上げに関して、同社の会長と社長から開発エピソードを聞いた。

若い人にも手が届く、日本らしいデザインIoT家電

新ブランド立ち上げ以前も、EPEIOSでは電動歯ブラシやノンフライオーブンなどのIoT家電を発売してきた。EPEIOS 代表取締役会長の金成賛氏は、新たにFoElemを立ち上げた理由を次のように説明した。

「私も代表取締役社長の駒崎も、前身はEコマース業界。多様な市場で販売活動を行う中で、どうやったらインテリアになじむ製品、あるいはライフスタイルに寄り添った製品を出せるのかをずっと意識してきました。

そうした中で、これまでのように市場にある物のデザインをブラッシュアップするのではなく、しっかりとしたコンセプトを持ったデザインを一から起こしたいという思いが強く、今回新ブランドを立ち上げました」(金氏)

代表取締役社長の駒崎竹彦氏も次のように補足する。

「弊社はECを中心に販売しているのですが、業界全体のECの規模を見ると、どうしてもアメリカ市場向けの製品が中心になります。そのため、日本のメーカーではありますが、外国人をターゲットにした製品が多くなっています。

日本国内のメジャーなブランドに比べると、弊社の製品は価格面では優れていますが、日本人から見ると不要な機能があったり、逆に物足りなかったところがありました。

そこで、我々はより日本らしい製品を、若い人にも手が届くような価格帯で提供するブランドを立ち上げようと、FoElemのプロジェクトをスタートさせました」(駒崎氏)

そうした中で出会ったのが、2人のデザイナー。ひとりはエルメスでスカーフやテーブルウェアなどテキスタイルのチーフデザイナーとして約10年務め、世界的に有名なアートディレクター・ファッションデザイナーとして知られるブノワ・ピエール エミリー氏(以下、ブノワ氏)。

もう一人は、エルメスのバッグとアクセサリーのデザインをはじめ、ポール・スミスや、資生堂、ルイ・ヴィトンなど多くの著名ブランドに携わっているダミアン・オー シュリバン氏(以下、ダミアン氏)。

華々しい経歴の両名とは「様々にアプローチをしている中でご縁があって」繋がったとのことだが、今回2人に依頼した理由は、「決してネームバリューやブランドの箔付けではありません」と強調する。

  • 2022年11月に都内で行われた新製品発表会に出席した、ブノワ・ピエール エミリー氏(左)とダミアン・オー シュリバン氏(右)

「少々生意気な発言ではあったかもしれませんが、我々はブノワ氏がエルメス出身だから、あるいはダミアン氏が著名ブランドでお仕事をしているからお願いしたのではなく、本当に我々のブランドを理解した上で製品をデザインしてくれるのか?という点を重視しているんですよ、と最初にお話しました

お2人のデザインした製品を高い価格で販売するのではなくて、我々がターゲットにしている若い世代の消費者層に受け入れやすい価格帯にすることについても合意の上でプロジェクトを決行しました」(金氏)

「そうした我々の意図に合意していただき、今回のプロジェクトが始動しました。ラグジュアリーブランド出身とはいえ、お2人とも高価格帯にこだわるわけではなく、『デザインが良い製品を届けたい』との気持ちが強く、我々の思いとマッチしたのです」(駒崎氏)

「もちろん前提条件や制約があるため、途中でアイデアを修正するなど、お互いに妥協しなければならない部分もありました。ですが終始スムーズに話すことができ、進めやすかったですね。

本当にすごい経歴をお持ちの方々ですので、こだわりの強い、硬い人なのかなと構えていたところもあったのですが、実際はとてもユーモアにあふれたチャーミングな方でした」(金氏)

ブランド名はデザイナー発案、加湿器は「砂時計」をイメージ

シリーズ名の「FoElem」は、「Four Elements(=4元素)」に由来する。4元素とは、自然哲学者のエンペドクレスが説いた、万物の根源は風・火・水・土の四つの元素から成り立っているという思想だ。

4元素のそれぞれを象徴する製品として、FoElemシリーズは加湿器、ノンフライオーブン、コーヒーメーカー、サーキュレーターの4製品をラインナップ。これらが選ばれた理由を、金氏は以下のように語った。

「ノンフライオーブン、加湿器、サーキュレーターは以前から販売していましたので、それらのブラッシュアップ版を出すことを考えました。加えて、コールドブリューコーヒーメーカーとケトルも発売していたので、その流れからコーヒーメーカーを作りたいと考えました」(金氏)

  • FoElemの製品の前身となった「ノンフライオーブン(AO249A)」。FoElemシリーズとは別のラインナップとして並行して販売している

  • EPEIOSの既存製品「電解水除菌加湿器 HM720A」(2021年10月発売)

さらに、駒崎氏は次のように付け加える。

「家の中をイメージしたとき、弊社ではリビング、キッチンを中心として製品を展開してきました。次にどういう製品を出すか考えていくと、(製品ラインナップを)補充する観点でもブランディングの観点でも、現在の4製品(加湿器、ノンフライオーブン、コーヒーメーカー、サーキュレーター)がいいだろうと。

デザイナーさん自身もそういうジャンルにチャレンジしてみたいとのことで、お互い合致してこの4製品で進めていきました」(駒崎氏)

ブランド名のアイデアは、製品ラインナップからデザイナーが着想し、提案したものだった。

「我々が考えるよりデザイナーの方々に依頼したほうがいいと、ネーミングもお願いしました。すると、『この4製品は四元素(風・火・水・土)だよね』とお話されて。

最初はこちらが意図を読みとれなかったのですが、ディスカッションを進めていくうちに『なるほど!』と。さらに、製品それぞれに『循環』の意味合いも加えているんだと深いお話までされて、ますます『なるほど!』って思いましたよ」(金氏)

シリーズ第1弾として発売されたのは「スマート加湿器 Heal(ヒアル)」(2022年11月発売)。「五感を刺激する。心までうるおう」をキャッチコピーに、四元素の“水”を彷彿させる独特なデザインが目を惹く。

「デザイナーのお二人には、弊社のこれまでの製品の特徴を(FoElemでも)表現したいとリクエストを出していました。既存製品の四角い加湿器をベースとして壺の形にしたり、壺の形にしながらも弊社のサーキュレーターのファンのシェイプの模様を取り入れたりなど、いろいろな案がありました。

また、消費者が我々の製品を使う延長線上に何かしらの付加価値を感じてほしいと考え、製品を通じて『リラックス』できることを目指しました」(金氏)

  • FoElemシリーズ第1弾として発売された「スマート加湿器 Heal」(24,310円)。製品デザインの要素として、砂時計のモチーフを採り入れた

「加湿器の生産効率性のことを考えると、やはりよく見る壺っぽいデザインだったり、我々が販売しているような四角い形状になるのが定番で、初期案はその方向でした。

でも、ありふれたデザインだとそもそも面白くないですし、せっかくならデザインにもニュアンスとして四元素の要素を盛り込んで、考えてほしいと伝えたところ、上がってきたのが砂時計というモチーフでした」(駒崎氏)

「若い年代の方に対して“今”にもっとフォーカスしましょうと提案する思考から、砂時計に発展していきました。ブノア氏曰く、『砂時計は現実の時を刻むものだけど、時間をはっきり指定しない』と。でも、『砂時計には過去と未来があって、砂の位置は今どこにあるのかを見つめるんだ』とも。『そういう意味合いも含めて、『今を大切にする』、ひいては『人を大切にする意味もある』と教えてもらいました。

さらにブノア氏は最初、砂時計に“山”のイメージも重ねていたようです。彼が紙に書いてくださったのですが、大自然の中で山があって、水が雲の上から雨として落ちてきて、土の中に入ってまた出て行くイメージで、その流れが還元であり循環だと。山と言えば、日本なら富士山や温泉なんかをイメージしますが、ここでもやっぱりなるほど、すごいなって思いましたね」(金氏)

  • 加湿機としては前例のないユニークな形をしているが、砂時計がモチーフと聞いて納得。そのモチーフに込められた深い意味合いも興味深い

一方で、この独特なデザインが製品化のハードルを高めることにもなった。

「工業設計の観点で、原案のままだと難易度や仕様の部分でコンフリクトしてしまう部分があったので、側面から見ると砂時計になっている現在の形に着地しました。

最初の課題は、水と空気を今のようなかたちで出すことでした。特に難しかったのがガラスタンクの部分。眺めていて目の保養にもなるようにするためには、透明度も大切で、ムラがないようにしなければなりません。

さらに、この位置に嵌めるためにどうしたらよいのか?と、サプライヤーチームがガラス工場だけでも5社以上回りました。それだけのことをしても、実際に作ってみたところ初期は結構ムラが発生してしまい、かなり難航しました」と金氏。

駒崎氏も「底面から照明で照らすと、ガラスの精度が悪いとちょっと波打ってしまったり、あまり美しく見えないということもあって、質感や厚みなどかなり調整しました」と補足した。

  • 工業設計の観点から実現の難易度が高かったガラスタンク。機能面と見た目の美しさとの両立に苦戦した

また、『リラックス』する付加価値を提供する機能のひとつとして、アロマ機能を搭載した。

「アロマ機能はどうしても入れたかったのですが、(アロマオイルを入れる)トレー部分の材質をどうするかという問題がありました。

セットするときにピタッと吸い付く感触があったほうが心地いいので、中にマグネットが入っています。ですが、そのマグネットが鉄だけの素材だと錆びる問題があり、かと言ってステンレスだけにするとピタっとした感触にはならないので、いろいろなサンプルを取り寄せて検討しました」(金氏)

  • アロマオイルを滴下するトレーの部分にまで細かなこだわりが隠されている

本体にはスピーカーも搭載されているのが特徴。リラックスをもたらす機能として、使用中に自然音のヒーリングサウンドが流れる。この機能は、金氏が何としても搭載したいと切望したものだった。

「弊社は設立当初からSDGsの取り組みも力を入れていて、今回もヘルスケアの部分に関しては意識していました。

実は前職で不眠症で悩んでたことがあり、当時の外国人の上司から勧められて、瞑想(メディテーション)を始めました。以来、眠られるようになり、5年ぐらい続けています。

今、LED照明とかいろんな機器にも連動したメディテーションの機能を搭載したものが増えてきましたが、この製品が睡眠改善のきっかけになるといいなという思いです」(金氏)

  • 「Heal」という製品名にも表れているように、光と音により癒しの空間演出も実現している

実は駒崎氏は音響系の出身でもあるそう。当然ながらスピーカーの音質にもこだわっている。

「製品のサイズ上、どうしても小口径のスピーカーしか載せられません。低音域をそこまで出すことはできないのですが、それでも聞きやすく、クリアな音質になるようにこだわって調整しています。

コロナ禍で製造拠点のある中国へ渡航することができなかったので、それらの調節・チューニングはリモートで行いました」(駒崎氏)

デザイン性の高い加湿器は超音波式を採用している製品が多いが、Healはヒーター式と超音波式のハイブリッド仕様。コンパクトな本体サイズに部品を収めるハードルが高いことは想像に難くないが、金氏はあえて挑戦した理由を次のように語った。

「超音波式にしてしまえば一番楽だったのですが、家電であることに加えて、コンセプトとして『心まで潤す』ことを掲げている以上、快適な空間を提案したい思いがありました。

加熱式は除菌ができる衛生面でのメリットもありますが、スチームで室温が下がらないという面でもお客様の快適体験につながる非常に大事な部分なので、そこはこだわりました」

ただ、「デザイナーと我々のこだわりが重なって、かなり大変になってしまいました」と振り返る。

「製造設計の面で、もともとは搭載予定のなかったスピーカーを含むパーツを本体内に収めると、安全性の観点でも厚みが必要になりました。我々はもとのアイデアを実現したかったので、スペースが必要な分だけ、(台座の)下側をスカートのように延長すればいいと思っていました。

すると、ブノワ氏が『一番下の部分を少し内側に絞れば、本体が浮いているようにも見えるし、ユーザーにとってもいいのではないか』と提案してくださって。これもさすがだなと思いましたね」(金氏)

  • 本体(台座部分)にスピーカーを仕込んだことにより高さが増してしまう問題を、ブノワ氏の助言により解決。下端を内側に絞ることによって、スッキリとしたデザインに仕上げた

有名ラグジュアリーブランドのデザイナーが手がけた家電製品と聞くと、見た目重視で機能性や性能は二の次といったようなイメージを抱きがちだ。

しかし、実際のFoElemシリーズはコンセプトのみならず、フィロソフィーにまで議論を尽くし、一流デザイナーの目線をふんだんに盛り込んで生まれたものだった。