2026年4月24日に国土交通省航空局が発表した「機内への持込み又はお預け手荷物に制限がある品目の代表例」において、ナトリウムイオン電池が制限品目の代表例として明記された。
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国土交通省航空局「機内への持込み又はお預け手荷物に制限がある品目の代表例」
https://www.mlit.go.jp/common/001425421.pdf
スマートデバイス周辺機器メーカー各社はこの発表を受け、モバイルバッテリーなどでナトリウムイオン電池を内蔵している既存製品が航空機への持ち込みができなくなった旨を告知した。過去においてパッケージの記載やウェブサイトの説明で「機内持ち込み対応」と記載されていたからだ。
ところが事情はもう少し複雑だった。というのも、航空機内に持ち込めるバッテリーは以前から、乾電池、ニッケル水素電池、ニッカド電池、リチウム金属電池、リチウムイオン電池、リチウムイオンポリマー電池などがあったが、ナトリウムイオン電池はその代表例に入っていなかった。今回、代表例として明記されたのは、このカテゴリのバッテリーが、国際基準で正式に危険物として定義され、他のバッテリーと同等の安全管理ルールを適用することになったからだ。
科学的な特性としてはナトリウムイオン電池の方がリチウムイオン電池よりも安全性が高いとされている。熱安定性が高く発火温度も高い、完全放電された状態での輸送が可能で、万が一発火したとしても放出されるガスが比較的少ない。なのに機内持ち込みも預け入れも不可であると明記されることになった。
スマートデバイス周辺機器メーカー大手のエレコムなどは、同社製品の扱いについて空港での保安検査時に破棄・没収等となる恐れがあるなどと注意喚起するとともに、パッケージやサイトでの表現の修正に追われた。また、当初はナトリウムイオン電池が新たに明記されたからとしていたが、実は、以前から持ち込み、預け入れともに不可だったと修正までしている。
実は、航空機の危険物ルールは、原則としてあらゆるものが持ち込み禁止だ。だがその中から、特定の条件をクリアしたものだけが例外として持ち込みを許可される。リチウムイオン電池は例外的に持ち込みを許可された代表例でもある。ナトリウムイオン電池は例外として明記されていなかっただけで、本来的には原則通り禁止扱いだったのだ。これは安全を証明する国際基準がまだないことや保安検査の現場での判断が難しいことが理由だ。
そうなると、ナトリウムイオン電池は市場からなくなってしまうのかという懸念もある。だが、市場は今後、さらに拡大するという予測もあるようだ。電気自動車や家庭用・産業用の大型蓄電池に使われることが多いナトリウムイオン電池は船や陸路で輸送されるので、航空機に持ち込み制限があっても打撃はほとんどない。また、リチウムの価格が高騰しているのに対して、ナトリウムは安価に調達できるので、メーカーにとっても製品を安く作れるというメリットもある。今後、ノートパソコンやスマホの本体内蔵電池として使われるようになる動きが出てくれば、必ず、例外として指定されるようになると目論まれている。つまり、バッテリーのカテゴリとして市民権を得たナトリウムイオン電池は一時的に厳しい制限下に置かれたが、順次、例外規定が整備されることになるだろう。今はそのための準備の時期に入った段階だといえる。
相次ぐ事故で航空機内でのバッテリーの扱いはどんどん厳しくなっている。4月24日付けで各種の変更内容が政府広報オンラインでも公開されている。モバイルバッテリーについては、以前から座席上の収納棚に収納せず、座席ポケットなど目視できる手元で保管することが求められている。このとき、機内電源からの充電は禁止、モバイルバッテリーで他の機器を充電することも禁止とされた。また、ショートによる発火を防ぐため、露出する端子に絶縁テープを貼るか、収納袋やケースに入れることが求められる。そしてモバイルバッテリーの個数も2個までとなった。
ちなみに一般的なモバイルバッテリーはUSBポートを装備しているが、これは露出している端子にはあたらないとされているが、絶縁テープを貼って個別にジップロックなどに入れて座席のポケットに入れておくのが安心だ。ガイダンスの中のイラストでもそう対策されている。ただ、降機時に持ち出すのを忘れないようにしてほしい。
ナトリウムイオン電池がこうした状況下にある間というわけでもないが、より安全性の高いバッテリーとして、以前もここで紹介した半固体リチウム電池が注目されている。固体と液体のハイブリッド型電解質で燃えにくい。電解液を使っていた従来のリチウムイオン電池に対して、ゲル状や粘土状の電解質を使うことで液漏れのリスクを防ぎ、熱にも強く、発火や爆発のリスクが劇的に低減される。今のところは、現実的な次世代バッテリーの本命として位置付けられているといってもよさそうだ。リチウムイオン電池として分類されるため、現在の規則の範囲内で航空機への持ち込みも可能だ。
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エレコムのDE-C86-10000BU(左)やcheeroの新製品PitaPower 5000mAなど、各社から半固体リチウムイオンバッテリを使ったモバイルバッテリが発売されている
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PitaPowerは裏側には折りたたみスタンドが装備されていてマグネット吸着したワイヤレス充電中のスマホを縦置きできる。もちろん有線充電もできる。そのための短いケーブルもストラップとして直付けされている
新しい技術が危険物として名指しされるのは、それが社会のインフラとして無視できない存在になったことを意味するといってもいい。モバイルの自由を支えるのは、こうした地味で厳格なルールの積み重ねだ。我々エンドユーザーにできるのは、最新の情報をキャッチアップし、安全に対するコストを手間というかたちであれ正しく支払うことだ。
<動画>cheroが公開している準固体電池(半固体電池)の安全性実証動画
