読み書きの多くをデジタルで行うようになって久しい。それでもなお紙の書類は手元にやってくる。説明会や記者会見などで、目の前に紙の資料があれば、話の要点を、ついそこに書き込んでしまう。大事なところはマークしてしまう。デジタル資料としてデータが配付されるのは、たいてい発表会開始直後か、終わってからなので、デジタル的に書き込む体制を整えるには時間に余裕がない。
何か、自筆による書き込みが必要だというシチュエーションに遭遇したとき、周りにいる誰も筆記用具を持っていないということがけっこうな頻度で発生する。自分自身では何かのためにと、名刺入れやICレコーダー、メガネ、イヤフォンなどの雑貨を収納したウェストポーチの中にボールペンを入れて携行している。だから、何らかのケースで署名が必要といった場合も問題なく対応できる。
ボールペンは個人的に三菱鉛筆の製品が好きなようだ。あまり意識することなく、各社の新製品が出るたびに試してきて、残ってきたもののほとんどが同社の製品だった。そういえば、ライターとしてまだ手書きで原稿を書いていた時代に使っていたのも三菱鉛筆のハイユニ2Bだった。シャープペンシルはしならないので鉛筆の方が書いていて疲れないことを発見して以来そうしてきた。
それでも机上よりもフィールドでの書き仕事が増え、仕方なくシャープペンシルを使うようになったときには、プラチナ万年筆のプレスマンというシャープペンシルを愛用した。デスクトップパソコンをモバイルノートに替えたようなものだ。プレスマンを選んだのは0.9ミリ2Bというデフォルト芯のスペックにより、鉛筆に近い書き味が得られたからだ。しかも芯の全長が10センチもある。驚いたことにこの製品は今なお現役で、1978年の発売以来の超ロングセラー製品だという。
最終的に現在の手書き用筆記用具はボールペンに落ち着いている。ボールペンのインク色は特に青を好む。太さは1.0ミリのものが好きだ。シリーズ仕様として1ミリがないものは0.7ミリでガマンする。
なぜ青か。白地に黒い文字が並ぶ書類がほとんどなので、そこに自分で書き込んだ文字が青なら一目瞭然だからだ。あとで目を通したときにすぐにわかる。似たような理由で、できるだけ太い線で書き込めるように1ミリボール径のものを使う。それなら赤がいいんじゃないかと思うかもしれないが、赤は間違いを正すようなイメージがあってちょっとしたおこがましさを感じてしまうので避けている。
まず、日常的に携行しているボールペンはパワータンクスタンダードというシリーズだ。加圧ボールペン専用インクを圧縮空気で押し出すことで、ペン先が上を向いてもちゃんと書ける。水中で書くのも問題ないので、雨が降っているときでも安心だから、机上以外でのメモに使いやすい。現行のラインアップには1ミリ径の青がなくなってしまったが、替え芯としては提供が続いている。軸は共通なので、青のリフィルを入手して充当する。
通常の机仕事のときに使うボールペンはジェットストリームスタンダードだ。摩擦係数が一般的なボールペンと比べて半分以下で、スラスラとはこういうことだというお手本のような書き味だ。インクは油性だが、顔料がブレンドされている。黒なら黒、青なら青がよりクッキリとする。もっとスラスラを望むなら、Lite touch inkを使ったジェットストリームシングルもある。これもクセになりそうな書き味だ。このあたり、こだわりと好みで選べる幸せを感じる。
手元で主に使っているのはパワータンクスタンダードとジェットストリームスタンダードだが、水性インクのボールペン ユニボールゼントもおすすめだ。インクが拡がらず、書類の記入欄に細かい文字を書き込んだりするときのストレスが少ない。
とまあ、いくつかの三菱鉛筆製品を何十年も使い続けているわけだが、不満がないわけではない。というのも、ほとんどすべてのボールペン製品が、ノック式だということだ。軸上部をノックしてペン先を出して書き始めることの何が不満かというと、カバンの中やウェストポーチに裸で入れて携行しているので、何かの拍子にノックされた状態になってペン先が露出してしまうことがあるからだ。結果として、カバン内部を汚してしまう。怖くてとてもジャケットやシャツの胸ポケットに挿しっぱなしといった運用はできない。できればキャップ式の軸も用意してほしいと思う。あるいはボールペン専用キャップが欲しい。鉛筆用のキャップでは細すぎてダメなのだ。
もっともボールペンで文字を書く機会は激減している。ここで紹介したボールペンはメーカー参考価格で200円、165円などだ。量販店やECサイトで購入すればもっと安くで買えるのだが、それを平気で2年、3年と使い続けることができる。書く頻度が低いのでインクは減らない。買い替えるのはなくしたときで、書けなくなったときではない。
今、デジタル入力の主流は音声にシフトしつつある。先日、GoogleがAndroid用のキーボードアプリ「Gboard」向けに発表した、Gemini搭載の新しいAI音声入力機能Ramblerは、音声に入りがちな「えー」「あのー」などの不要なつなぎ言葉を検知して削除したり、「じゃなくて」「もとい」に代表される言い直しをきれいな文章に修正して記録するといったことができるようになるそうだ。つまり、大規模言語モデル(LLM)による文脈理解をリアルタイムで行うことで、「話し言葉」を「書き言葉」へと自動でリライトするわけだ。
RamblerはGist Manipulation(要旨操作)という概念を導入し、ユーザーが「とりとめもなく話した(Rambling)」内容から、AIがリアルタイムで重要な要素を抽出し、論理的な一文に再構成する。音声でメモを書き込むことに抵抗があった方も、これなら使えると思うかもしれない。
ボールペンを使う機会はますます減っていくことになりそうだ。でも、減っているからこそ、快適に使いたい。金額的にも大きくはない。そのくらいの贅沢は許されていいはずだ。
