ロジクールが、同社のワイヤレス接続技術Unifyingをフェードアウトさせることにしたようだ。今後は、Bluetoothを一般ユーザーのための基本的な接続方法とした上で、より高い接続性とセキュリティを望むビジネスユーザーは新たなLogi Boltに移行させる意向のようだ。

このことは、キーボード新製品の「MX KEYS MINI」発表会で明らかにされた。同社は9月に新ワイヤレス通信技術であるLogi Boltを実装したMXシリーズとエルゴシリーズの法人向けマウスとキーボードを発売している。これらは既存製品のLogi Bolt対応版で、セキュリティを重視する一部の企業向けのものだと思っていたが、どうやらそんな単純な話でもなさそうだ。

  • Logi Boltアダプタ。ロジクールの対応製品を、独自のセキュアな通信でつなぐことができる

    Logi Boltアダプタ。ロジクールの対応製品を、独自のセキュアな通信でつなぐことができる

Unifyingが使えない、新しいロジクールキーボード

Unifyingは、ロジクールのマウスやキーボードといったHIDデバイスとパソコンを接続するための仕組みで、パソコン側には親指サイズの小さなレシーバーをUSB端子に装着し、デバイスをペアリングすることで、最大6台のデバイスをひとつのレシーバーで使うことができる。一般的には、マウスとキーボードをひとつのレシーバーでパソコンに接続するために使う。

HIDデバイスのワイヤレス化は、最初からペアになったデバイスと専用USBレシーバーを組み合わせた製品から始まった。いわゆるドングルと呼ばれる種類のデバイスだ。

この方式ではレシーバーとマウスやキーボードが独自の通信技術によって1対1で通信するため、デバイスの数だけレシーバーが必要になる。マウスとキーボードのメーカーが違えば通信の方式も異なるから仕方がなかったのだ。

ロジクールは、せめてロジクール製品だけでもひとつのレシーバーでまかなえるように汎用化しようとUnifyingを提唱し、同社製品のほぼすべてにUnifyingレシーバーを同梱してきた。新たにマウスを入手したとき、その製品に同梱されているレシーバーを使わなくても、既存のレシーバーに追加でペアリングすれば、ひとつのレシーバーで複数のデバイスが使える。これはとても便利だった。

  • ロジクールのUnifyingレシーバーは1つあれば、最大6台までの対応デバイスをつなげられる。同レシーバーは基本的に製品付属のため、気づいたら大量に集まっていた

そんなものはBluetoothを使えばいいんじゃないかと思うかもしれない。でも、あらゆるパソコンでBluetoothが使えるようになったのは、パソコンの長い歴史から見ればつい最近の話だ。それに対応し、最近のロジクールデバイスは、BluetoothやUnifyingを使い2~3の接続先を切り替えることができるようになっている。

ところが、最新製品の「MX KEYS MINI」は、3つの接続先をサポートするが、すべてBluetoothになり、Unifyingレシーバーとの接続ができない。Unifyingレシーバーも同梱されない。そして、3つの接続先は、すべてLogi Bolt方式によるLogi Boltレシーバーとの接続もできるのだが、Logi Boltレシーバーも同梱されていない。

Logi Boltは「安全」で「安定」、オフィス利用で活躍

Logi Boltは、Bluetooth LE通信をベースにしたロジクール独自の通信方式で、「Bolt」は2つのものを結びつけて固定する「ボルト」に由来する。

結合のためのセキュリティが強化され、キーボードでは最初のペアリング時にパスキーの入力が必要だし、マウスはクリックなどで認証する。互いにLogi Boltに対応していないと接続はできないし使えない。それによってセキュリティ強度が高まっている。

また、ワイヤレス製品があふれるオフィスなどでは、電波の干渉が問題となって接続が切れたりするトラブルが散見されていたが、Logi Boltでは、高出力でのブロードキャストに加え、周波数ホッピングによって堅牢なリンクを維持するという。

つまり、Logi Boltは、大量のワイヤレス機器が使われているオフィスで、堅牢なセキュリティと接続性を確保するためのロジクールによるソリューションだといえる。

Logi Boltは、Bluetooth 4.0以降とも互換性が確保されているので、従来通りのBluetooth接続もできる。だから、マウスやキーボードを入手して、それがLogi Bolt対応であれば、自分のパソコンとカンタンにBuetooth接続して使い始めることができる。高度なセキュリティや接続性を確保したい場合だけ、Logi Boltレシーバーをパソコンに装着して使えばいい。

また、フリーアドレスのデスクを使っているような場合、そこにはモニターディスプレイとキーボード、マウスが据え置かれていて、エンドユーザーは自分のノートパソコンをケーブル一本で接続するだけで充電しながら全部のデバイスが使えるようになるような環境では、本当はBlutoothよりも専用レシーバーのほうが便利だ。

高セキュリティでの接続を望む場合は、パソコンのUSBポートに直接レシーバーを装着するのが王道だが、エンドユーザーが代わるたびにペアリング作業のやり直しというのは現実的ではない。それならドッキングアダプターやモニターのUSBハブ機能などを使い、そこにレシーバーを装着しておくほうが手っ取り早い。

UnifyingからLogi Boltへ、切り替わるまでややこしそうだ

今はまだ大量のUnifyingデバイスが世の中にあるが、それらは酷使され数年のうちには寿命を迎えるだろう。

HIDデバイスはバッテリーが内蔵されたモデルも多く、デバイスの寿命よりもバッテリーが劣化するほうが早い可能性もある。そういうことを考えるとUnifyingが完全にフェードアウトするのに要する時間は意外に短いかもしれない。

ロジクールデバイスはBluetoothにはつながるが、Logi BoltレシーバーにはLogi Bolt対応デバイスしか接続できない。ロジクールのデバイスがLogi Boltをサポートしているかどうか、わかりにくいときもあるかもしれない(対応デバイスにはLogi Boltロゴが付くそうだが)。それをこれからの新しい当たり前として受け入れる必要がある。

個人的にはUnifyingを愛用してきたが、当面は、ちょっとしたややこしさを覚悟しなければならない。ペアリング済みのレシーバーとマウスの組み合わせは、パソコンをとっかえひっかえ持ち出す場合にも便利だっただけに、この先、運用の工夫を考える必要がある。