iPhoneなどのアップル製品で使われているLinghtning端子。すでに100均でも入手できる身近な存在だ。

最近、iPhone 13 ProやPro MAXでApple ProRes動画が扱えるようになって、そのデータサイズの大きさが話題になり、Lightning端子のデータ転送速度の遅さを嘆くコメントをSNS等でよく見かけるようになった。

ProResは、不可逆の映像圧縮フォーマットで、iPhoneでのサポートは「最大4K、30fpsのProResビデオ撮影(容量128GBのモデルでは1080p、30fps)」となっている。そのデータサイズは1分あたり6GBに達するという。これを受けたのであろう「早くUSB Type-C端子を採用してほしいと」訴えるコメントを数多く目にする。

  • 新しいiPad miniも端子はType-C形状となった

    新しいiPad miniも端子はType-C形状となった

USB Type-Cは単なる形状。速度はUSB規格で決まる

ここで気がつくのはLightningは遅いがUSB Type-Cは速いという思い込みがあることだ。

USB Type-Cは、プラグ形状の規格であって、USBの速度や世代とは無関係だ。現行製品のLightning端子を使ったデータ転送が遅いのはUSB 2.0の規格にしか対応していないからだ(過去に発売した一部iPad ProはUSB3シリーズに対応)。100均でも手に入る両端USB Type-Cケーブルも、ほぼすべてがUSB 2.0にしか対応していない。高速充電規格であるUSB PDもUSB 2.0で対応できる。

仮に、AppleがiPhoneにUSB Type-C端子を採用したとしても、iPhoneが対応するUSB規格がUSB 2.0のままであれば現行のLightningと速度は変わらない。さらに、現行のLightning端子は表裏の区別がない8ピンだからUSB3シリーズやUSB4への移行は無理だ。つまり、Lightningの高速化は、データ転送のためにUSB規格を使う限りは難しい。

では、USB 2.0はどのくらい遅いのか。現行で使われているUSB 2.0のほとんどは、2000年に追加仕様として策定されたHigh-Speedモードで理論値では480Mbpsだ。

2008年にはUSB 3.0が標準化され、SuperSpeed USBが理論値5Gbpsで登場した。実にUSB 2.0の10倍のスピードだ。これを初代(Gen1)として、USB規格はGen2の10Gbps、Gen3の20Gbpsへと進化している。また、2レーン転送による倍速化で、理論値最大で40Gbpsというのが現在のUSB4がサポートする速度だ。

USBのどの規格をサポートするかは製品次第

ただ、これらは規格であって、USBのどのGenをサポートするかは製品次第だ。USB Type-C端子を使っているからといって、必ず理論値最大のGen3×2=40Gbpsをサポートしているとは限らない。

  • ちなみにiPad mini(第6世代)に搭載されているUSB-CはUSB 3.1 Gen1(最大5Gbps)をサポートしている

実際、すでにType-CがほとんどのAndroidスマートフォンでも、多くの場合、USB3シリーズGen1の5Gbps対応だ。製品によってはUSB 2.0止まりのものもある。そもそも売られている充電用のケーブルは、そのほとんどがUSB 2.0までの対応だ。

遅いと言われているUSB 2.0 480MbpsのHigh-Speedモードだが、仮に理論値で転送できたとすると、60MB/秒程度だ。3.6GB/分だから、ProRes動画が6GB/分だとすると、1分間の動画データの転送に、どんなに速くても1.6分以上かかる計算になる。実時間の2倍近い。

これがUSB3シリーズなら、たとえGen1(5Gbps)であっても約10倍の速度、つまり0.16分になるのだから、高速化が望まれるのはわかる。Gen2(10Gbps)ならさらにその半分で0.08分。USB4のGen3×2(40Gbps)なら0.02分だ。96秒が1.2秒に短縮されるのだから劇的といってもいい。ただしこれらの値は理論値なので、話半分で考えよう。その倍はかかると思っておけばよさそうだ。それでも速い。

もっとも、USB 2.0超のスピードを求めるのがiPhoneユーザーのうち、どのくらいを占めるだろうか。多くの作業をクラウドに頼っている限り、Wi-Fiや5G、LTE通信で得られる1Gbps程度の速度でそんなに不便を感じていないのではないか。

それでも有線USB 2.0接続の2倍だが、クラウドにアップロードして、別のデバイスでダウンロードしてデータが往復することを考えると有線と同等だし、モバイルネットワークのアップロードは極端に遅い。実帯域はもっと遅い。一度も有線でデータ転送をしたことがないというユーザーも少なくないと想像できる。

Mac製品はUSB4搭載の流れ。iPhoneはどうなる

MacでいうならUSB Type-C端子を持つ製品は、USB4対応のもの、USB3対応のもの、Thundebolt 3対応のものに大別できる。現行機種では、下記の4機種がUSB4で40Gbps対応だ(アップルの参考ページ)。

  • iMac (24-inch, M1, 2021)
  • MacBook Pro (13-inch, M1, 2020)
  • MacBook Air (M1, 2020)
  • Mac mini (M1, 2020)

今後のMac製品は、USB Type-C=USB4となるのは想像に難くない。そのときに、iPhoneのType-CだけがUSB3対応というのは考えにくい。ユーザー体験が異なるのは好ましくないからだ。かといってすべてのiPhoneにUSB Type-Cを採用してUSB4対応させるのが正しいかどうか。消費電力やプロセッサー負荷へのインパクトもあるだろう。もちろんコストにも影響する。

Appleのことだ。USB Type-Cを選択せず、Lightningも廃止の上で、Apple TVへのストリーミング技術やWi-Fi Directなどを使ってiPhoneと他デバイス間でデータ伝送する魔法のような新しい方法を生み出す可能性もありそうだ。それこそが、イノベーションだとは思うが、ワイヤレス充電のみのスマートフォンが受け入れられるはずもなく、その動向に興味はつきない。

【お詫びと訂正】
・初出時、ProRes動画を6GB/分とした場合のUSB2・3・4の転送時間に誤りがあったため、関連する記述を修正しました。(2021年10月12日 18:00)
・Lightning端子に関する記述を補足しました。「現行のLightning端子を使ったデータ転送が遅いのは」という一文を、「現行製品のLightning端子を使ったデータ転送が遅いのは」と変更し、過去に販売された一部iPad ProでUSB3シリーズに対応したLightning端子があることを追加しました。ご迷惑をお掛けした読者の皆様、ならびに関係各位に深くお詫び申し上げます。(2021年10月16日 11:00)