Western Digital(ウエスタンデジタル)は、3D NANDの新しい市場としてクルマ用途を狙っているが、このほど最大容量256GBのeMMC製品を発売し、クルマ市場で攻勢をかける。クルマ用途では、NANDはHDDと比べて振動に強いことから、広い応用が期待されている。同社は2013年に最初の3D NAND製品を出荷した後、クルマ用に毎年新製品を発売してきている。その理由は何か。

これまでNANDフラッシュは、カメラや携帯電話、スマートフォン、コンピュータへと用途を拡大してきた。次の市場はもちろんクルマ、ということになる。同社は、2015年に第1世代の車載用eMMCやSDカードを発売して以来、2016年に第2世代車載用SDカード、2017年に第2世代車載用eMMC、2017年に第3世代車載用SDカード、2018年に第1世代車載用UFSときて、今回第3世代車載用eMMCをリリースした。

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    3D NANDを採用したウエスタンデジタル初の車載用eMMC「iNAND EM132」

同社が車載用にこだわるのは、これからの自動運転やコネクティビティなどで、データ量が増加し、それを保存するためのストレージデバイスが不可欠になると期待しているからだ。例えば、自動運転では過去の履歴や学習結果というデータに基づき走行したり、誤差が数cmの高精度3Dマップを格納したり、AIやAR、センサフュージョンなど扱うデータ量は確実に増えていく。さらには、流通業界の人手不足の解消の決め手となるフリート管理や新しい交通ビジネス、クルマに乗りながら取引を行うパセンジャーエコノミーなど自動運転にまつわるビジネスでのデータ量は、増加の一途をたどる。

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    未来のクルマはコネクティビティ、自動運転の2つを軸にデータ量が一気に増加していくことが予想される (出所:ウエスタンデジタル)

コネクティビティでも、ビデオ伝送を始めとする5Gネットワークを利用するサービスや、クルマと外とのインタフェースとなるデジタルコックピットやIVI(In-Vehicle Infotainment:車内インフォテインメント)、クルマの走行データやECUの調整などにOTA(Over the Air)の活用などとデータ量は増加し、あらゆるデバイスで家庭や会社とのシームレスなデジタル体験なども可能になり、やはりデータ量は増える方向にいく。

データ量が増えると、それらを保存するストレージの容量を増やしたり、ストレージを分散させたりするなどの対応が迫られる。車内電子システムすなわちECUが進化すればするほどストレージ容量の増加が求められる。先進IVIシステムでは256GB、自動運転システムでは2022年で1TBが必要という予測もある。

自動運転が近づいていくにつれ、いろいろな機能が増加するためデータ量やECU数も増えていくことになる。ただ、ECU数が増えすぎるようになると、クルマ1台の中に、複数のECUをまとめた「ドメイン」というコンセプトが出てくる。1台のドメインには複数台のECUやそれを動かすOSなどを搭載する仮想化技術が導入されるようになる。ドメインアーキテクチャは、まるでデータセンターのようだ。複数のECUを1台のコンピュータが扱うかのように仮想化するテクノロジーである。

こうなると本格的なストレージの導入となり、ハイパーバイザや複数OSなどを格納するメモリが必要になる。ドメイン構成と仮想化システムでは自動運転OSやアプリケーションスタックも求められる。複数のOSとハイパーバイザで8~64GB、自動運転とアプリケーションスタックで32~512GBといった容量が必要になるとウエスタンデジタルの車載&コネクテッドソリューション部門プロダクトマーケティングディレクタのラッセル・ルーベン氏は見ている。

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    Western Digitalのラッセル・ルーベン氏

メモリ容量がもっとも必要とされる用途は、ドライブレコーダの32GB~2TBになるという。その他としては、車載カメラやクラスタ、テレマティクス/V2X、車体制御関係では8~64GB、アプリケーションスタックやHMI(音声入力、ジェスチャーなど)は32GB、HD(高精細)クラスの3D地図で64~128GB、AR(拡張現実)には16~128GBなどを見込んでいる。

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    車載アプリケーションごとに要求されるNANDの容量 (出所:ウエスタンデジタル)

車載用NANDフラッシュといっても、用途ごとに性能要件が異なる。NANDフラッシュに求められる要件として、読み出し(Read)と書き込み(Write)、使用温度(Temperature)、容量(Capacity)、データ保持(Retention)、性能(Performance)という6つの軸でみると、例えばインフォテインメントやナビゲーションでは、読み出しと書き込み、使用温度が特に重要で、デジタルクラスタだと読み出しとデータ保持、仕様温度が重要だという。このため用途によって、使用温度を規定するAEC-Q100仕様のグレード0からグレード3まであるが、最も厳しいのはグレード0の-40℃~+150℃であり、最も緩いのはグレード3の-40℃~+85℃である。

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    車載アプリごとにNANDに要求される性能は異なってくる (出所:ウエスタンデジタル)

今回リリースしたiNAND AT EM132製品は、ストレージ容量が32~256GBであり、64層のTLC(3ビット/セル)構造の3D NANDフラッシュメモリを採用している。強力なECC(誤り訂正回路)、ウェアレベリング(メモリアレイ内の同じところばかり書き込み消去せずに平均化するための技術)、アルファ粒子・中性子保護、温度管理、不良ブロックや障害の管理など高信頼設計となっている。さらに、ホストプロセッサからコマンドを発行してクルマの寿命データを読み出すヘルスステータスモニタリング機能や、パーティショニング機能を備えている。パーティショニングとはストレージ内を用途ごとに分ける機能で、TLCとSLC(1ビット/セル)にもセルアレイを分割できる。

信頼性を高められたのは、3D NANDでも平面のデザインルールを40nmプロセスに近づけて電荷トラップ層当たりの電子数を増やせるようにしたためだという。2D構造のMLCでは15nmプロセスだったため、電荷の余裕はもはや少なくなっていた。さらに3D NANDから2D NANDの時の浮遊ゲート方式からMNOS方式(電荷トラップ方式ともいう)に変えたが、信頼性も高まったとルーベン氏は言う。

今回初めての3D NAND方式でeMMCインタフェースを採用した理由について同氏は、日本では、またこのインタフェースの利用が多いからだとしている。クルマ用にはAEC-Q100だけではなく、安全機構ガイドラインのISO26262、さらにはIATF-16949やJEDEC47などの認証、EUおよびアジアの主要顧客による自動車監査も実施してきたという。また、ルネサス エレクトロニクスの車載用SoCであるR-Carと連携したストレージシステムとしても動作できることを確認したともしている。

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    パートナー企業との連携を強化することでシステム的な対応も可能となる (出所:ウエスタンデジタル)