freeeは12月1日、都内で2022年1月に施行される電子帳簿保存法 改正への対応に向けた記者発表会を開催し、クラウド会計ソフトである「freee会計」の全プランにおいて2022年1月から電子帳簿保存に完全対応すると発表した。発表会にはfreee CEOの佐々木大輔氏らが出席した。

今回、freee会計の個人事業主、法人を含めた全プランにおいて電帳法の改正に対応。また、同月からはfreee会計のファイル管理機能である「ファイルボックス」の無償提供を予定している。

freee プロダクト開発基盤プロダクトマネジャー小泉美果氏は「従来は一部のプランのみで対応していたが、全プランに対応することで、完全ペーパーレス化を単一システムで実現する唯一のクラウド会計ソフトとなる」と説明した。

  • freee プロダクト開発基盤プロダクトマネジャー小泉美果氏

    freee プロダクト開発基盤プロダクトマネジャー小泉美果氏

日本以外の先進国ではスキャナ保存と紙の区別なし

freee CEOの佐々木大輔氏は「最近では、会議などで資料をなくしてペーパーレス化するといった各企業の自助努力で進んでいる。一方でレシートや請求書は紙で保存することしかできなかったことから、電帳法の改正でペーパーレスでの運用が可能になる。これにより、これまで企業間の取引で発生する書類、行政手続き、税務申告などで紙が組み込まれているが、企業活動の中で電子書類を簡単に使えて、いつでも参照できるようになり、さまざまな行政手続きも電子で可能になる」と、電帳法改正によるメリットを強調する。

  • freee CEOの佐々木大輔氏

    freee CEOの佐々木大輔氏

同氏によると、紙によるボトルネックは大量のレシートをのり付けしてファイリングし、システムの数字と一致しているのか否かを確認したうえで保管しなければならず、経済界全体の紙保存コストは年間約3000億円にのぼっていたが、電子保存であれば各企業が経費精算に使う時間を年間130時間削減することができるという。

佐々木氏は「電子保存により生産性の向上が期待できるものの、当社の中堅企業、小規模事業者を対象にした調査結果ではペーパーレス化が『進んでいる』『とても進んでいる』と回答した割合は3割にも満たない。ぺーパーレスは遅々として進んでいない」と指摘。

  • 中小企業のペーパーレス化は進んでいない

    中小企業のペーパーレス化は進んでいない

日本以外の先進国ではスキャナ保存と紙の区別はなく、レシート・請求書の紙原本は基本的に捨てられているほか、フランスにおいては消費者が要求しない限り、レシートは発行されないようになっている。先進国ではスキャナ保存は進んでいるものの、2020年時点の日本におけるスキャナ保存の普及率は0.03%にとどまっている。

  • 海外先進国ではレシート、請求書のスキャナ保存は当たり前だという

    海外先進国ではレシート、請求書のスキャナ保存は当たり前だという

日本におけるスキャナ保存の普及率が低い理由としては、税務署長承認が必要であることに起因している。税務署長承認の書類は専門用語ばかりであり、スキャナ保存開始日の3か月前までに申請しなければならず、複数枚の承認申請書類、添付書類の作成に手間がかかるというわけだ。

また、これまでの日本におけるスキャナ保存制度は受領から署名、スキャンor撮影、タイムスタンプ付与、紙原本提出、ダブルチェック、保管、年1回以上の定期検査、紙原本破棄までと運用に耐え難いプロセスが必要となり、受領からタイムスタンプ付与までは3営業日以内と定められている。さらに、スキャンor撮影とタイムスタンプ付与のみ電子対応で、そのほかのプロセスは紙のため実質的に電子と紙の二重保存になっている。

  • 電帳法の改正で電子保存のフローが大幅に改善される

    電帳法の改正で電子保存のフローが大幅に改善される

佐々木氏は「今回の改正により受領、スキャンor撮影して電子保存すれば、紙原本は破棄することが可能となり、対応コストの削減が実現できる」と説く。

最大のボトルネックだった企業の内部統制要件を緩和

続いて、経済産業省 大臣官房会計課 政策企画委員の廣田大輔氏が電帳法改正の目的や経緯について説明した。廣田氏は「コロナ禍において、紙から電子化していくかということが議論され、出勤業務を合理化してテレワークの推進、経理の電子化で事務作業を減らし生産性を向上する観点からも電子帳簿保存制度の抜本的な見直しが行われた。その際にシステム要件、事前手続き、内部統制要件の三位一体の制度見直しにより、大幅な改正・手続きの緩和が進展した」と話す。

  • 経済産業省 大臣官房会計課 政策企画委員の廣田大輔氏

    経済産業省 大臣官房会計課 政策企画委員の廣田大輔氏

システム要件では帳簿書類の電子保存、スキャナ保存、電子取引データの保存義務が定められ、手続きについては帳簿書類の電子保存とスキャナ保存は、これまで税務署による事前承認が必要だったが、これを廃止した。

そして、同氏が一番のボトルネックと指摘する内部統制に関してはタイムスタンプ付与の日数制限を3日以内から最小約2か月以内に緩和。また、原本とデータの突合作業を伴い、検査実施まで原本破棄を不可としていた定期検査ではスキャナ後すぐに原本破棄を可能としたほか、2人以上の事務処理を義務付ける相互けん制では1人での事務処理を可能とし、書類への自署を不要とした。

同氏は「性悪説にもとづくと厳格な手続きをふまなければならないことから、リスクアプローチに転換し、特にスキャナ保存導入のボトルネックだった“厳しい統制要件”を抜本的に見直した。訂正削除履歴の残る優良な電子帳簿には過少申告加算税の5%軽減措置を新設している」と説明していた。

  • これまで厳しかった企業の内部統制を抜本的に見直した

    これまで厳しかった企業の内部統制を抜本的に見直した

次に辻・本郷税理士法人 DX事業推進室の菊池典明氏が電帳法改正後のバックオフィス業務について解説した。まず、菊池氏は今回の改正項目について説明。「電子帳簿等保存」では優良な電子帳簿の整備と最低限の要件で電子保存が可能となり、「スキャナ保存」ではタイムスタンプ要件の緩和、適正事務所利用権の廃止、「電子取引」では電子保存が義務化されることについて触れた。

  • 辻・本郷税理士法人 DX事業推進室の菊池典明氏

    辻・本郷税理士法人 DX事業推進室の菊池典明氏

そのうえで、同氏は電子取引について「電子保存が義務化されて紙の保存は認められなくなるため、当社のお客さまと話すとネガティブな捉え方をしている側面もあるが、今後のデジタル化に向けた大きな第一歩として前向きに考えてもらいたいと感じている」と述べた。

少し混乱を招く恐れもあるが、請求書を電子で受け取った際は紙保存が認められなくなるが、紙で受領した請求書に関しては税務署への申請は不要で電子保存が認められ、紙もしくは電子での保存が混在する形になる。

そのような中で菊池氏は「紙ベースと電子データが混在してバックオフィス業務の生産性低下が懸念されるが、真の電子化に向けて紙ベースの領収書や請求書についてはスキャナ保存を検討し、紙ベースの取引や業務フローについては電子化を検討するべきだ」とコメントしていた。

  • 改正後のバックオフィス業務の概要

    改正後のバックオフィス業務の概要

電子完結の世界に向けて

こうした状況をふまえ、2022年1月からfreee会計が電子帳簿保存に完全対応するほか、2021年12月1日には新たなプロダクトとして、これまでfreee会計で提供してきた経費精算の機能を単体で切り出した「freee経費精算」の提供を開始。

これにより、会計ソフトの導入までは考えていないものの、面倒な経費精算業務の課題は解決したいというニーズを持つユーザーにも容易にサービスの導入が可能になるという。1ユーザーあたり月額500円(税別、21IDから利用可能で初期費用は無料)。

加えて、2022年内に優良電子帳簿の要件を満たす機能の提供開始を予定している。優良電子帳簿とは、一定の国税関係帳簿(所得税法・法人税法にもとづき青色申告者が保存しなければならないとされる仕訳帳、総勘定元帳、そのほか必要な帳簿または消費税法にもとづき事業者が保存しなければならないとされる帳簿)について、下表の優良要件を満たして電磁的記録による保存を行うものを指す。

事業者が作成するすべての国税関係帳簿について優良電子帳簿対応をしたうえで、あらかじめ税務署への届出を行えば、その優良電子帳簿に記録された事項に関して申告漏れがあった場合でも、その申告漏れに課される過少申告加算税が5%軽減される措置を受けられるというものだ。

同機能により、システムに求められる要件が厳しく導入ハードルが高かった優良電子帳簿の機能を追加料金なしで利用を可能としている。

具体的には、freee会計で作成するすべての帳簿(仕訳帳、総勘定元帳、固定資産台帳など)について、2022年中に優良電子帳簿に対応した機能を提供し、税務署への届出など一定の要件を満たせば(適用するには事業者が作成するすべての国税関係帳簿について優良電子帳簿対応することが必要)、万が一申告ミスなどがあった際に過少申告加算税の5%の軽減というメリットを受けられるようになるという。

これまでは、税務署の事前承認がないと紙に印刷して保存する必要があった帳簿について、2022年1月から「その他の電子帳簿」という類型が新設され、最低限の要件を満たせば、税務署への事前手続不要で電子保存ができるようになる。一方で、優良電子帳簿は訂正削除履歴や検索に関する要件が「その他の電子帳簿」よりも厳しい分、過少申告加算税軽減という税法上のインセンティブ措置が設けられている。

  • 2022年内には優良電子帳簿にも対応する

    2022年内には優良電子帳簿にも対応する

佐々木氏は「理想は電子完結の世界ではあるが、今回の電帳法改正は双方が合意しなければ電子保存は実現できないため、紙と電子を混在させて管理しなければならない。紙の取引も電子取引も“自分の意志”により、すべて電子で保管することが電子完結に向けた重要なプロセスであり、電帳法改正はそのステップとなる。ただ、当社の調査では電帳法改正を知らない人は半数以上(n=2041人)とのぼることから、電帳法を広めて活用してもらい、完全ペーパーレス時代を到来させることに寄与して、中小企業を支援していく」と力を込めていた。