楽天モバイルは22日、ネットワーク回線のエリア展開に関する説明会を実施しました。KDDIの電波を借りてサービスを運用していた39都道府県の一部地域、および「東京メトロ」など都内の地下鉄においては10月1日より順次、楽天モバイルの回線に切り替えていく方針です。担当者は、今後の2年間で「日本一のキャリアを目指す」と意気込んでいます。

  • 自社回線での人口カバー率96%

    説明会では、半導体供給不足が解消されれば自社回線による人口カバー率が96%を達成できるという見通しが示された

エリア展開、今後の方針

詳細を説明したのは、楽天モバイル 代表取締役副社長の矢澤俊介氏です。

プレゼンの冒頭、矢澤氏は2018年12月に建設をスタートした自社の4G基地局が2021年9月に3万局を突破し、人口カバー率は10月14日現在で94.3%まで到達したと報告。しかし一方で「我々はまだ、総務省から認可された1.7GHz帯のみで展開しています。他社さんと比較すると帯域も狭い状況です」とも話し、プラチナバンドと呼ばれる周波数帯で4G回線を提供する大手3キャリアに比べて、エリア展開に苦労していると口にします。

  • 矢澤俊介氏

    楽天モバイル 代表取締役副社長の矢澤俊介氏。「いただいた周波数で、まずはしっかり整備していきます」と話すが……

  • 総務省より割り当てられている楽天モバイルの4G周波数帯

    総務省より割り当てられている楽天モバイルの4G周波数帯

楽天モバイルによれば、MNO事業+MVNO事業の合計契約数は2021年8月23日現在で500万回線を突破したとのこと。ただ、エリア未整備の地域ではKDDIによるau網をローミングする形で顧客にインターネット回線を提供してきました。このため「これまで(ローミングエリアでは)お客様が増えれば増えるほどKDDIさんに支払うローミング費用も増えていく」(矢澤氏)という状況でした。今後、楽天モバイルのエリアを拡大することで、これを徐々に改善していきたい考えです。

  • KDDIとの業務提携

    KDDIとはローミングに関して2019年10月に業務提携。今後、自社回線に切り替えていくことを矢澤氏は「黒字化に向けた大きなマイルストーン」と話した

半導体不足が影響してはいるものの、基地局の建設も急ピッチで進めており、2022年の2~3月までには人口カバー率96%を達成できる見込み。矢澤氏は、KDDIとは年2回(4月と10月)のタイミングで契約を更新していると明かしたうえで「この10月のタイミングで39都道府県の一部エリアでローミングサービスを停止していただいた」と説明します。

  • ローミングの切り替え

    今秋(楽天回線の充分に行き届いている)39都道府県の一部エリアにて、KDDIのローミングを停止させた

  • ローミング切り替えのエリア別スケジュール

    大都市を皮切りに、徐々にローミングサービスの切り替えが進んでいる

また東京メトロの約9割のエリアで10月1日より順次、楽天回線に切り替えます。同様に「都営地下鉄」でも約6割のエリアが楽天回線になる模様です。

  • 東京メトロの切り替え
  • 都営地下鉄の切り替え
  • 東京メトロでは約9割のエリアが、都営地下鉄でも約6割のエリアが楽天回線になる

ローミングサービスの切り替えは、ユーザー視点ではどのような意味があるのでしょうか。これまで楽天とKDDIの両方の電波が届いていた地域では、楽天の1.7GHzより低周波数であるKDDIの800MHz(いわゆるプラチナバンド)の方が電波が強いため、一部のモバイル端末では自動的にKDDIの電波を掴む傾向がありました。このため「楽天のエリアマップをみて契約したのに、KDDIの電波しか掴まない」という状況が発生。楽天モバイルの使い放題サービスが目的で契約したユーザーからは不満の声が上がっていました(パートナー回線を使った高速通信は月5GBまでという制約があります)。そうした地域でローミングサービスから楽天回線に切り替われば、常に楽天回線を掴め、安心して使い放題サービスを利用できるようになります。

  • 切り替えのメリット

    ローミングサービスの切り替えメリット

地上で電波の切り替えが進む一方で、屋内および地下のエリア構築には、まだ課題が残っています。というのも1.7GHzの周波数は地下に浸透しにくく、例えば地下2階ともなると電波が届かない状況です。そこで建物によっては当面、引き続きKDDIのローミングを利用していくことになります。飲食店や小売店には屋内専用の小型基地局Rakuten Casaを設置し、またレピーターと呼ばれる電波の増幅器を設置することも進めていきます。

  • 電波対策の課題

    地下攻略が大きな課題に

楽天の強みは、建設した4G基地局をそのまま5G基地局としても運用できるところ。矢澤氏は「5Gのsub 6とミリ波の両方を提供します。4G基地局の建設に目処が立ってきたので、今後は5Gと地下展開にリソースを少しずつ割いていけそうです」と説明します。

  • 5G基地局について

    楽天モバイルの4G基地局は、そのまま5G基地局としても運用できる

また企業連携にも期待を寄せます。基地局整備で実際の建設にあたるJTOWER社とは10月15日に資本提携を発表。これにより4G/5Gのネットワーク整備を加速させます。このほか、楽天市場の出店事業者、楽天トラベルに加盟するホテル・旅館と連携して基地局の用地を確保したり、日本郵政グループとのパートナーシップを利用して郵便局の敷地内に基地局を設置したりと、楽天グループのシナジーを最大限に利用していく考えです。

  • 基地局整備にグループの総力を結集

    基地局網の整備に楽天グループの総力を結集させる

  • 基地局整備に投入されているテクノロジー

    基地局用地の探索にはAIを、現地調査にはドローンを利用するなど、最新テクノロジーを活用していく

矢澤氏は、最後に「楽天モバイルは日本一のキャリアになりたいと考えています。そのためには1つひとつ、お客様のお声に真摯に対応していくしかありません。山登りで例えたら、まだ現在は3合目くらい。10合目にいらっしゃる3社と比較すると、まだまだ努力が至らないところがありますが、全力でやっていきます」とまとめました。

プラチナバンドは『使いたい』

記者団からの質問にも、引き続き矢澤氏が対応しました。

ローミングを切り替えた10月1日以降、ユーザーから苦情などの反応はあったかを聞かれると「KDDIの電波が停波してから、お客様の声は増えてきたものの、前回、前々回の停波時と比べると数は少なくなっています」と回答。

また5G展開については「4G基地局の4万局に、すぐに5Gの設備をつけられる状態です。お客様が5Gの世界を充分に体感できるためには、どれくらいの基地局が必要か、いま検討しているところです」としました。

ローミングの停止は顧客獲得にプラスに働くかと問われると「今回、かなりのエリアでKDDIさんのローミングを切らせていただきます。今年~来年にかけて、ローミング費用も下げられる。だから支出を気にせずに顧客獲得も行えます。アクセルを踏んでいける。またこれまでの実績を、楽天の自社回線だけを提供しているエリアでは申し込み率も向上することが考えられます」と語り、テレビCMなどの広告宣伝費も増やし、いままで以上に力を入れたプロモーションをしていきたい……としました。

ローミングが完全終了する時期については「KDDIさんには2026年まで提供していただく契約になっています。それを前倒しできるのか、今後の我々の努力次第です」とのこと。

大手3キャリアに追い付く時期については「キーになるのは、2023年後半に予定しているスペースモバイル計画です。人工衛星から電波を発射する計画で、これが始まれば日本国土のカバー率が100%になります。そのタイミングで他社さんのレベルに追いつけるのでは」と回答。ただ、人が立ち入らない山間部に届く人工衛星からの電波は決して強いものではなく、何百人と同時には接続できないそう。人が行動するエリアにはできる限りの地上局を打っていく考えを明かします。

プラチナバンドについては「総務省に『使いたい』と意見表明はしています。ただ、申請してすぐにもらえるものではなく、色いろな皆様のご理解も進めなくてはいけない。『プラチナバンドがないと地下のエリア整備ができない』とは、私の口からは言ってはいけないことと認識しています。いただいた1.7GHzで可能な限りのことをやっていきます。数万個のアンテナ設置など、来年にかけてやることで、かなり地下の環境も改善できるのでは」としたうえで、苦笑いしながら「ただ、プラチナバンドのほうが性能が高いので、できることならば使わせていただきたい!」と付け加えました。